「……あっ、新海くん!」
呼ばれた声に振り返ってみると、
あいつが嬉しそうに笑って手を振っていた。
「お疲れさま!
練習終わったとこ?」
「ああ」
こいつが駆け寄ってきたのを確認してから、
俺は歩き出した。
「今日は調子どうだった?」
「解りきってること聞いてんなよ。
絶好調に決まってんだろ」
「そうだよね」
新海くんなら、そう言うと思った。
そう言ってまた、こいつは嬉しそうに笑う。
「そういえばさ、今日の夕陽見た?」
「見てねぇ」
「えー! なんで?」
なんでって、そりゃあ……
学校終わってからスタジオに籠って、
暗くなるまで練習してたしな。
「夕陽のことなんて知るかよ」
「確かに」
俺の言葉に、こいつは素直に納得したらしい。
「で、夕陽がなんだよ」
「……!」
話の続きを聞こうとして問いかけると、
こいつはすげぇ驚いた顔をした。
「……んだよ、その顔は」
「いや、新海くんが珍しく聞き上手だな〜と」
「おい! 喧嘩売ってんのか!」
人がせっかく聞いてやってんのによ!
「ごめんごめん。
聞いてくれるんだと思ったら、嬉しくなっちゃって」
「ったく……」
なんて言いつつも、結局は無視できねぇんだ。
そう考えると、自分で言うのも何だけど
俺も丸くなった気がすんな……。
「……そーいやあんた、この間も夕陽見てたな」
「あの真っ赤だったとき?」
「ああ」
あのときこいつは、公園のベンチに座ってて……
いつもと様子が違ったから、
気になって声を掛けたんだった。
『赤く染まる空を見て、思い出してたんだ』
『……何を』
『新海くんのこと、思い出してた』
「…………」
確か、俺の目が赤いから
夕陽を見て思い出してたとか……。
……今思い出しても、こっぱずかしいな。
朔の書く詞といい勝負なんじゃねーか?
「あのときもすごく綺麗だったけどね、
今日は金色だったんだよ」
「金色?」
「そう!」
タイミングなのか、加減なのか知らねぇが、
今日の夕陽は金色に見えたらしい。
「なんかこう、空も同じように輝いててね……
すごく綺麗で、みんなに見てほしかったくらい」
「それは大げさだろ」
「いやいや、そんなことないよ!」
それに、とこいつは続ける。
「また、新海くんのこと思い出したから」
「はぁ?」
なんでまた……
「最初はさ、単に『綺麗だな〜』って思ってたんだけど」
でも、金色に輝く空をずっと見てたら
そういえば新海くんの髪って金色っぽいなって。
「だからまた、新海くんのこと思い出してた」
「…………」
何考えてんだこいつ……。
「さっき、新海くんの姿を見かけて嬉しくなって」
だから、声かけちゃった。
いつものようにへらっと笑って、そう言った。
「…………」
「新海くん?」
またくだらねぇこと考えてやがった、
なんて思いながらも……
悪くねぇと思う自分もいるから、
俺もこいつのことは言えねぇか。
「……まぁそう考えるとあんた、
いっつも俺のこと考えてるよな」
なんとなく、冗談で言ったつもりだった。
「……言われてみれば!」
けど、こいつは真面目な顔をした……
かと思いきやハッとなって、そう言う。
「確かに、いっつも新海くんのこと考えてるね」
「そこで普通に納得しちまうのかよ……」
「すごいね!
どんだけ考えてんだって感じだね」
全然気づかなかった、なんて言いながら、
こいつは何故か楽しそうだ。
「ほんとにね、すごく綺麗な夕陽だったんだよ。
でも、」
もう真っ暗になっている空を一度見上げてから、
こいつはまた俺の方を見る。
「新海くんの髪に似てる色って思ったけど、
やっぱりちょっと違ったかな」
「そりゃそうだろ」
俺のは、金髪と違げぇだろうし……
「新海くんの髪のほうが、もっと綺麗だった」
「なっ……」
なんだよ、それ……。
「……なんで、」
なんで、あんたは……
そういうこと、普通に言ってのけるんだよ。
「……? 何か言った?」
「…………知るか。俺は帰んぞ」
「え、待って、新海くん!」
あのときと同じように慌てて引き留めるが、
あのときと違って、俺は振り向かなかった。
真っ赤になってるのが、自分でも解ったからだ。
「…………さっさと来いよ」
「うん!」
こいつの返事を聞いてから、俺は歩き出した。
後ろから追いかけてくるこいつを、
またバレない程度に見ようとするが……
「……!」
「ん? どうかした?」
「なっ……なんでもねぇ!」
あのときと違って、思いっきり目が合っちまった。
219.金色に輝く空には
(君の面影があったんだよ)