22.手を伸ばしたのに、届かなかった
(絶対に守りたかったものを 守れなかった)
「っ……!」
気付くとそこは、見慣れた教室だった。
「…………チッ」
いつの間にか、眠っちまってたらしい。
放課後に残ってゲームしてて……
たぶん、そのまま寝落ちしたんだろう。
「……あれ、北城くん?」
「……!」
声のした方を見てみると、
たった今、夢の中でも見たあいつが立っていた。
「どうかした? すごく顔色悪いけど……
……!?」
心配そうに近寄ってきたこいつの腕を引き、
その勢いのまま抱き寄せた。
――ほとんど無意識だった。
「北城くん!?」
「…………」
腕の中でこいつの焦る声が聞こえる。
そんな声ですら、俺の安心させるのには十分だった。
「北城くん、何かあった……?」
「…………胸クソ悪りぃ夢見た」
――最悪な夢だった。
今やってるRPGゲームの中に、
俺とこいつが登場人物として出ていて。
守ってやるなんて偉そうに言っておきながら、
こいつに伸ばした手は届かなかった。
そして、こいつは……
底が見えねぇ崖へ、そのまま落ちていった。
「…………」
「北城くん、もしかして……泣いてる……?」
「…………泣いてねぇよ」
最悪な夢だったが、結局ただの夢だ。
手を伸ばせばこいつには届いたし、
腕を引けば抱き寄せることも出来た。
「…………」
だから何も、不安になる必要なんてねぇ。
何も……。
「えっと……どんな夢だったの?」
「絶対ぇ言わねー」
「そこは即答!?」
しょうがないな、なんて言いやがったが、
俺が腕を放すまでこいつはそのまま動かなかった。
「北城くーん! 一緒に帰ろ!」
次の日。
HRが終わった後、こいつは俺に声を掛けてきた。
「あぁ?
なんで一緒に帰らなきゃなんねぇんだよ」
「いやね、また教室で眠りこけないように
見張りつつ送っていこうかと」
さも当然だと言いたげに、そう答えた。
「だって北城くん……
昨日、嫌な夢見て泣いてたし?」
「なっ、泣いてねぇっつっただろ!」
「でも怖がってたよね」
「怖がってもねぇ!」
とんでもねぇことを言い出すから、
慌てて否定したが……
「えー……」
こいつは納得いかねぇような顔をする。
「どうしたんですか、さん」
「何だよ、ケンカか?」
「大丈夫?」
「クソッ……」
めんどくせぇ奴らが来やがったな……。
「おー、みんないいところに!
昨日北城くんがね、怖い夢を見て泣い「だから違げぇ!!」
人の話、全然聞いてねぇな!
「クソッ……さっさと帰んぞ!」
「え? さっきまで、なんで一緒に帰るんだよー
とか言ってたのに、急にどうした?」
「んな言い方してねぇだろ!
いいから、とっとと来い!」
「ハイハイ、解ったから腕引っぱらないで」
あいつらに余計なこと言われる前に、
さっさと帰るしかねぇ。
そう思った俺は、こいつの腕をつかみ
さっさと教室を出ることにした。
「守部くん・如月くん・マドンナ〜、
また明日ねー!」
「はい、気を付けて帰ってくださいね」
「了解ー!」
「おい、早くしろ!」
「ハイハイ」
「……何だったんだよ、あいつら?」
「よくは解りませんが、
昨日何かあったみたいですね」
「でも北城くん、怒ってる風だったけど
ちょっと嬉しそうだったよ」
「確かに……」
「何があったにしろ、
クラスメイトの仲が良好なのはいいことです」
「そうだね」
「北城くん、北城くん」
「んだよ!」
「いや、ちょっと腕が痛いから、
もう少し力を弱くしてほしいなーと」
「……!」
逃げるように教室を出てからずっと、
俺はこいつの腕をつかんだままだったが……
いつの間にか、その手に力が入っていたらしい。
言われて気づき、俺は慌てて離した。
「……悪りぃ」
「いやいや、大丈夫だよ。
すごく痛かったわけじゃないからさ」
そうは言うものの……
俺がつかんでいた部分が、赤くなっている。
「…………悪りぃ」
「だから大丈夫だってば。
それ以上言うと逆に怒るよ?」
別にこいつが怒っても怖くもなんともねぇが、
そこまで言われたら、さすがに黙るしかなかった。
「じゃあ……帰ろっか!」
「…………ああ」
たった今差し出された、こいつの手には……
俺の手が、すぐに届いた。