――カトライア、ティアナ宅――
「こんにちは、ティアナ」
「いらっしゃい、! 久しぶりね」
「うん、久しぶり! 元気そうで安心したよ」
そう言うと、「それはお互い様よ」と
ティアナが笑って返してくれた。
「今日はどうしたの?」
あたしを家の中へ通したティアナは、
お茶の用意をしながらそう問いかけてくる。
……前もって今日訪ねるという連絡はしてあったが、
詳細はあえて説明しないでおいた。
だからきっと、彼女も気になっているんだろう。
「うん、今日はちょっと……マティアスの命でね」
「マティアスの?」
「そう」
数日後から、ザルディーネ王立学園が夏休みに入り……
それに合わせて、ルシアとエリクが帰国する予定だった。
『久しぶりに兄弟が集まるんだ。
パーティでも開いて、皆を集めるか』
アルフレートと三人での公務の話が、ひと段落したとき。
ふとそう言ったのが、マティアスだった。
「ティアナにも、ぜひ来てほしいって」
マティアスから預かってきて招待状を、彼女に手渡す。
「わざわざありがとう。
でも、私が行ってもいいものかしら……」
「当然だよ!」
だってあなたは、彼らの恩人なのだから。
少し気遅れてしたらしい彼女に、
あたしは力強く答えた。
マティアスの言った「皆」の中にティアナが居なかったら、
あたしが怒ってるところだった。
「アルフレートも、久しぶりに会えるのを
楽しみにしてるってさ」
「そっか……じゃあ、参加させてもらおうかな」
「うん」
良かった。
これで、一つ目の命はクリアできたね。
「は、しばらくカトライアに居るの?」
「ううん、この招待状を配ったらすぐ戻るよ」
パーティの準備も、しなくちゃいけないしね。
たぶんマティアスは……
思いついただけで、準備まではやらないだろうから。
「そっか……
ゆっくりしていけるなら、一緒にご飯でもって思ったけど」
「それはまた今度……パーティのときにでもね」
ティアナがファザーンに来たとき、
少し自由時間が取れるよう調整しておこう。
「……そうね。またすぐ、会えるんだし」
「うん」
それからお互いの近況を少し話して、
ティアナの家をあとにし……
あたしはマティアスから預かった招待状を、
クルト法王やクラウスたちに配っていった。
――ザルディーネ王立学園、とある廊下にて――
「はあ〜……」
「ちょっとルシア……
隣でそんな盛大なため息、つかないでくれる?」
あと数日もすれば会えるでしょ、と、
エリクは聞かずともオレのため息のワケを理解していた。
「んなこと、解ってるけどよー……」
あと数日で、ザルディーネ王立学園は夏季休業……
そう、夏休みってやつに入る。
夏休みに入ればオレたちはファザーンに帰るし、
あいつともすぐに会える。
けど……
「その数日が長いんだっつーの……」
だいたい、前に会ったのだって春休みじゃなかったか?
もう数ヶ月も会ってねぇよ。
「全く……
こんな情けない王子が相手じゃ、彼女も大変だね」
「なんだと!」
少しイラッときてそう返すが、
エリクは「はいはい」と聞き流すだけだった。
「それより、ちゃんと帰る用意しといてよ?」
「解ってる!」
「そう。ならいいけど」
じゃあまたね、と言ったエリクと、そこで別れた。
「はあ〜……」
正直準備はめんどくせぇけど、ちゃんとやらなきゃな。
ファザーンに帰れば、やっとあいつに会えるし……
「あいつ……元気でやってんのかな」
たまに来る手紙を読む限りでは、
体調を壊すことなどなく、生活しているらしいが。
それでも、直接顔を見て元気なところを見ないと
落ち着かない気がして。
「まあ、そんな心配いらねぇと思うけど……」
お前はちょっと、頑張りすぎるところもあるからな。
「あんま無理すんなよ……」
298.君のところまで オレの声は届くのかな
(この国には居ない、君のところまで。 この、声は……)
「久しぶり、ルシア!」
「お、おう! 元気そうだな、」
「まあね」
久しぶりに会ったは、本当に元気そうで。
妙に心配していたオレは、あからさまにホッとした。
そんなオレに、は言う。
「声が聞こえたから」
「は?」
「ルシアの、声」
「え、……」
「あんま無理すんなよ、っていうルシアの声が
聞こえた気がしたんだ」
それは……
『あんま無理すんなよ……』
ザルディーネで、実際にオレが口にした言葉だ。
「もちろん、気がしただけだよ。
でも、確かにルシアなら言いそうだなって」
驚いて何も言わないオレに、
少しおかしそうにしてが続ける。
「だから公務も、無理なく計画的にこなしていったし」
「そ、そうか……」
たぶん、これは偶然だ。
偶然だけど……
オレの声はちゃんと届いていたんだと、今は信じていよう。