そんな風にとりとめもなく、教室で物思いにふけっていた放課後。
ガラッ、という音と共に、ドアが開いた。
「山本……」
雨の守護者・山本武が立っていた。
山本は優しくて好きだ。だけど、嫌いでもあった。
私の嫌いな「雨」を連想させる人だから……。
「何やってんだ、。電気も付けないで」
「うん……ちょっと」
ただ、なんとなく……
明るい場所に居たくなかっただけだ。
でも確かに、普通に考えたらおかしな状況だろう。
「…………ごめん、私もう帰るね」
「あっ、おい!」
これ以上何か聞かれても、うまくかわせる自信はない。
そう思った私は、早足に教室を出て
そのまま昇降口へと向かうが……
「うそ……」
いつの間にか、雨が降っていたのだ。
カーテンも窓も閉めきっていたから、気付かなかった。
「雨……あめ、が……」
さっきまで、色々と考えていたせいなのか……
いつもなら辛うじてやり過ごせる雨に、
ひどい嫌悪感を覚える。
「おい、! どうしたんだ?」
振り切ってきたと思った山本は、
どうやら私を追ってきてくれたらしい。
でも、もはや彼に意識を向けるだけの余裕はない。
「おとうさん……おかあさん……!」
なんで……
なんで死んでしまったの……?
「いやよ……あめなんて……」
「、しっかりしろ!」
「あめ、なんて……きらい、よぉ……!」
私から大切なものを奪った。
そんな雨が嫌いで……そして、とても怖い。
この雨が……怖い……!
「!!」
「……!?」
さっきまで周りに意識を向ける余裕なんて無かったのに。
突然、大きな声が私に強く響いた。
「やまもと……」
そうだ、この声は……
私を呼んだのは、山本だ。
「…………」
少しだけ落ち着いてきた私は、
視線をゆっくり山本へと向ける。
相変わらずの明るい笑顔だったけれど……
私をひどく気遣ってくれているのは、すぐに分かった。
「、『忘れろ』とは言えねぇけど……」
でもさ。
「あんまり、縛られすぎるなよ?」
「……!」
――ああ、そうか。
この人は、私が雨を嫌っている理由を知っているんだ……。
「っ……」
ふいに、私の頬を一筋の涙が流れる。
無意識だったから、自分でもよく分かっていない。
でも、悲しい涙ではない気がした。
「ありがとう……山本……」
「ああ」
私が泣き止むまで、山本はずっと抱きしめてくれていた。
「大丈夫か?」
「うん……迷惑かけてごめん」
「いや、全然」
迷惑なんてかけられてねーから。
そう言っていつものように笑ってくれるが、
私としては……あまり納得はできない。
「けど、そうだな……
納得いかねーってんなら、一ついいか?」
「……うん」
私にできることなら、なんでも言って。
「実はな」
「うん」
「今日、オレの誕生日なんだ」
「えっ……」
そうだったんだ……。
「だから、プレゼントくれねーか?」
それは、もちろん……
「でも、何がほしいの?」
今の私に、用意できるものだろか……
『よう、!』
――山本は、優しくて好きだ。
でも、そんな山本が……
よりにもよって、雨の守護者だなんて。
嫌で嫌で仕方がなかった。
「…………」
でも、こんな私を心配して追いかけてきてくれた。
私のために、言葉をかけてくれた。
だから……
プレゼントだってあげたいって思うけど……。
「の笑顔」
「……え?」
「の笑顔が見てぇんだ」
「山本……」
確かに私は……さっきまで泣いていたし、
未だってお世辞にも笑っているとは言えないだろう。
「…………」
未だに、雨は降っている。
今までの私なら……
こんなときに、笑ってなんていられないけれど。
『あんまり、縛られすぎるなよ?』
そのたった一言で、私は救われた。
あなたの優しさが……本当に嬉しかった。
「えっと……お誕生日おめでとう、山本」
今はまだ、心から笑えていないかもしれないけれど。
いつか、こんな雨の中でも自然に笑って……
そして、その笑顔をあなたに見せられたらいいな。
「ありがとな、」
ねえ、だから。
これからも私のそばにいてほしいんだ。
雨の守護者である、あなたに――……
その日は、雨だった。
(大切な人たちを失ったのも 大切な人に気づけたのも)