「……あら?
さん、今から出かけるの?」
――玄関にて。
コートを着込んだりマフラー巻いたり、支度をしていたところに
リコちゃんが通りかかった。
「うん……ちょっと、散歩に」
「えっ……またなの?」
……実は、リコちゃんの問いかけに対するあたしのこの回答は、
今まで何度もあったことだったりする。
なので、リコちゃんからは呆れとゆうか……
困惑みたいな感じが見てとれた。
「今日は、夕方に散歩するといいことがあるんだって」
緑間くんが教えてくれたんだ、と続ける。
「だから、ご飯前にちょっとだけ行ってこようと思ったんだ」
ご飯のあとだとさすがに暗くて危ないかもしれないけど、
ご飯前だったらまだ明るいしね。
「そう……
まあ、さんのことだから止めても無駄だと思うけど」
でも暗くなる前に帰ってきて、と、リコちゃんが言ったので
あたしも二つ返事で答えた。
「さてと……」
ラッキーアイテムのマフラーも巻いたし、さっそく散歩に行こう!
「……あ、確かこの先に行くと
バスケットゴールがある広場に出るんだったよね」
ここに来たばっかりの頃とは違い、周辺の地理はだいたい解るようになってきていた。
ちょっと遠くなると曖昧なとこもあるんだけど……
まあ、そのときは出かける前に確認しとけばいいしね。
『夕方に散歩すると、いいことがあるようだ。そのときは、自分の直感に素直になるといい』
「……ちょっと、広場に行ってみようかな」
緑間くんの言葉を思い出したあたしは、その「直感」に従ってみようと思った。
「『いいこと』が何なのかは、解らないけど……」
なんとなく、広場に向かったほうがいい気がする……。
そう思ったあたしは、そのまま真っ直ぐ道を進んだ。
「……っ!
だぁー! また外した……!」
「あれは……」
広場に来て、ゴールがあるところまで来てみると……
見覚えのある――ううん、あたしの大切な人の姿があった。
周りには誰も居ないみたいだから、どうやら一人で練習しているらしい。
「和成くん」
「えっ……?
……って、ちゃん!!」
ちょうど背後から声を掛ける形になってしまったので、
若干驚かせちゃったみたいだけど……
あたしだと解った和成くんは、笑顔を見せてくれた。
「どーしたの、こんな時間にこんなところで」
「うん、ちょっと散歩に」
「え? また散歩?」
「うん」
あたしの答えに対する返しがリコちゃんと一緒だったので、
ちょっと笑ってしまいそうになった。
「緑間くんが、メールで教えてくれたんだ。
今日は、夕方散歩に出かければいいことがあるって」
「へぇー……
……ってかいつも思うんだけど、真ちゃんのやつ
オレの知らないところでちゃんと連絡取りすぎじゃね?」
そう言って、和成くんはむすっとして見せた。
それが可愛くて、今度はこらえきれず少し笑ってしまう。
「ちょっ……笑うなよ、ちゃん!
確かに今のは、ちょっとガキっぽかったって思ったけどさ〜……」
拗ねてしまった和成くんに「ごめんね」というものの、
まだ笑いが取れてなかったからか納得していないようにも見えた。
「……っと、ちゃん。
そろそろ帰るよな?」
「あ、うん……そうだね、暗くなってきちゃったし」
今から帰ればご飯にもちょうど良さそう、なんて考えた。
「じゃー送ってくわ」
「えっ……いいの?」
「いいの、って……
仮にも彼氏が、この時間に彼女を一人で帰らせると思うわけ?」
うーん、どうなんだろ……
「あーもう……とにかく、帰ろうぜ」
「う、うん」
呆れつつも笑う和成くんが、手を差し出してくれる。
あたしはその手を取って、一緒に歩き出した。
「…………緑間くんに、感謝しないと」
「へ?なんで?」
「だって……
夕方に散歩したら、いいことあったから」
あなたに会えたことが、
(あたしにとって、この上なく「いいこと」なのだから)
「ちゃん、そーゆー言い方は反則なんだけど……」
「え? 和成くん、よく聞こえない」
「何でもねー」
「……??」