※ヒロインについて、第二王子付き伝令役と表記しましたが、
隠密っぽいというよりは、ゼンが自分で見回りきれない
国内・国民の様子をまとめて彼に伝える役という感じです。

オビよりも先に、伝令役に就任していた設定。
(アニメのみの知識なので、ほぼ捏造です)































「……――ということで、ここ数日の間
 特に問題と思われるようなことはございませんでした」

「そうか、ご苦労。
 引き続き、細部まで見回りを頼む」

「はい、ゼン殿下」


ゼン殿下に一礼をし、顔を上げると。
「少し待ってくれ」と殿下がおっしゃった。





「……オビ! いるか?」

「はい、主」


窓を開け放ち、殿下が声を掛けると。
間を空けずしてオビさんが現れた。

その姿に、私の心臓はどきりと跳ねる。








殿の見送りを頼む」

「はい」


わざわざオビさんを呼ばれ、何かと思えば……
私を門前まで送っていけ、と彼に命じる。

それは少し、唐突に思えたものの……


私は月に一度しか殿下を訪ねないし、
城内に不自由なのは確かだから。

きっと殿下はそれを心配してくださったのだろう、
と思うと納得できた。


それに、私個人としては……
門前まで、とは言え、一緒に居られるのは嬉しい。










「では、殿。
 道中気を付けて帰られよ」

「はい。ありがとうございます、ゼン殿下」


それでは失礼致します、と最後に一声お掛けして、
私はオビさんと一緒に殿下の部屋をあとにした。















「……あ、オビさん。薬室に寄りたいのですが」

「薬室に?
 どこか具合でも悪いのかい?」

「いえ、そうではなく……
 白雪さんに、お渡ししたいものがありまして」

「お嬢さんに……?」


白雪さんの名前を出すと、オビさんの顔色が変わった。

……おそらく、だけれども、
オビさんは白雪さんに惹かれている。


でも、白雪さんはゼン殿下と想い合っていて……

オビさんにとってはお二人とも大切だから、
割って入るようなことはしていない、と予想できる。





「…………」


そう、これは私の予想でしかない。


けれど、私も伝令役として国内を歩き回り、
たくさんの人々から情報を集めて……

その表情を読み取り、言葉の裏にあるものを
見極めたりしてきたのだ。


予想でしかないが、確信はある。
現に、オビさんは彼女の名前に反応している。










「……それって、俺が後で渡しておくのでも構わない?」

「え? いえ、それは……」


どうしてそんな言い方……

薬室に行けば白雪さんにお会いできるのに、
オビさんは行きたくない?

どうして……。





「私が仕事としてお引き受けしたことなので、
 自分で責任を持ってお渡ししたいです」

「あー……やっぱそうだよね」


それじゃあ薬室に行こうか、と、
オビさんは渋々ながら方向転換をした。





「…………」


もしかして……
私と一緒のところを、見られたくないのだろうか。

それならば、この乗り気ではない態度にも説明がつく。










「……オビさん」

「ん?」

「あの……薬室へは一人で行きますし、
 そこからなら一人で外へ出られますので」


お見送り頂くのは、ここまでで大丈夫です。





「は? いや、でも主の命があるし」

「殿下には、私がお断りしたとお伝えください」

「けど……」


失礼致します、と、半ば無理やり会話を終わらせ
私は立ち去ろうとする。





「ちょっ……嬢!」


すると、焦ったオビさんが私の腕をつかんで引き留めた。










「あー……なんか勘違いしてるみたいだけど、
 別に行きたくないわけじゃないから」

「でも、」

「主の命ってのもそうだけど、
 あんたも城内で迷ったら困るだろうし」


そういえば……

以前城内で迷ってしまったとき、
助けてくれたのはオビさんだった。


周りに人気も無くて、誰かに尋ねるにしても
どうしたものか……

途方に暮れそうになっていたとき、
偶然にもオビさんが現れたのだった。










「お嬢さんに何か渡すだけだよね?」

「え、ええ、そうです」

「ならそこまで時間は掛からないし、いいよ。行こう」

「え、あの、オビさん……!」


つかまれた腕がようやく解放された、と思ったのもつかの間。
今度はぎゅっと手を握られ、オビさんはそのまま歩き出した。





「っ…………」


こ、これでは手を繋いで歩いているような……
で、でも、オビさんは無意識かもしれない。

あまり深く考えないでおくのが得策なのだろうけど、
それは、私にはとても難しいことだった。




















「オビさん、お見送りありがとうございました」

「どういたしまして」


あれから薬室に寄って、
白雪さんに頼まれていた薬草を渡し……

オビさんと私は、門前まで戻ってきた。


―― 一緒に居られる時間が、終わってしまう。

そう思いながら、だけど何か出来るわけでもなく
私は一礼をし、顔を上げた。





「それでは、私はこれで失礼致します」


そう言って、オビさんに背を向ける直前。










「……嬢!」

「……?」


まだ歩き出してはいなかったから、すぐそばに居るのに。
オビさんは珍しく大きな声を出して、私を呼び止めた。





「オビさん?」


どうしたのだろう。
心なしか、オビさんの表情がこわばっている気がする。






「次は……次は、いつ来るんだい?」

「ええと……」


その「次」というのは……
殿下へのご報告のことでいいのだろうか。





「私がご報告に伺うのは、月に一度です。
 ですから、またひと月後に」

「ひと月……」


どうしてそんなことを聞くのだろう。

私が月に一度しか来ないことは、
オビさんだって知っているはずなのに。










「……そうか、そうだった。そうだったね」

「オビさん……?」

嬢……また、ひと月後に」

「え、ええ」


気を付けて帰りなよ、とだけ言い残し、
オビさんは城内に戻っていった。





「何だったのかな……」


オビさん、少し様子がおかしかった。
何か悩み事だろうか? それとも……。





「オビさん…………」


私は、先ほどオビさんに握られた自身の手をじっと見て、
そして小さくなっている彼の背中に視線を移した。




















「はあぁ〜…………」

「なんだお前、そのあからさまに深いため息は」

「いや、だって主……
 なんで嬢の報告、月1なんです?」

「それは彼女の意向だ。
 じっくり調べた情報を、報告したいらしい」


その考えは、彼女らしいが……
月に一度しか会えないのでは少なすぎる。





「別に、普通に会いに行けばいいだろう」

「何も用が無いのに?」

「だからその用を作る機会にしろと、
 お前に彼女の見送りを命じたんじゃないか」

「ぐっ……」


それはなんとなく理解していたけど……
でも、どう切り出したらいいのか迷ってしまって。

結局、それらしいことは何も言えず仕舞いだった。





「薬室に行ったら、またお嬢さんにからかわれたし」

「なんだ、白雪のところに寄ってきたのか?」

嬢が、渡したいものがあったそうで」


頼まれていたものが仕事に関することだったから、
渋々ながら薬室に寄ったけれど。

最近俺があそこに行きづらい理由は何より、
お嬢さんに嬢とのことをからかわれるからだ。










『オビ、と手を繋いできたよね!
 もしかして何か進展した?』

『いや、ただ手を引いてきただけだよ』

『ええー! もったいない!
 本当オビって変なところで押し弱いんだから』

『お嬢さん……』











「お前がもたもたしてるから、白雪もじれったいんだろう」

「もたもたって、主……」

「言い訳はいいから、さっさとこれ届けてこい」

「……!」


これは……





嬢は髪が深緑だから、黄色い花が似合いそうだね』

『そう、でしょうか?』

『ああ、これなんかどう?
 ……ほら、やっぱい似合う』

『あ、ありがとうございます、オビさん』


城内で迷子になった彼女を、送り届ける途中。
通り道に咲いていた黄色い花を見て、そんな話をした。

そして、その花を一つ拝借して髪に挿してやったのだ。





『で、でも、お城の花を勝手に……
 いいのでしょうか』

『ひとつくらい問題ないと思うけど。
 それよりよく似合ってるから、そのまま帰りなよ』

『は、はい』











「…………」


あの黄色い花に似ているような……





殿が前に、大切な人からもらった花なんだそうだ。
 枯れきる前に押し花にして、しおりにしたんだと」

「……!」

「報告書に挟んだまま、忘れていったようでな。
 お前、すぐに届けて……」

「ありがとうございます、主!」

「っておい!
 ……はぁ、仕方ないやつだな」










「これで何も進展しなかったら、オビも相当だね」

「木々! 聞いてたのか」

「私も白雪と同じだよ。じれったくして仕方ない」

「確かにな」

「まあ、これでも駄目だったら俺の出番だよな!」

「「いや、ミツヒデは何もしなくていい」」

「ひどいな!」















第二王子付き伝令役の恋


(第二王子の周りは、今日もその話題でもちきりらしい?)