私の友人の中に、ひとりちょっとミステリアスというか……
ときどき魔女か何かではないか、と思ってしまう子が居る。


そう思ってしまう理由は、主にその言動。
絶対に知らないはずなのに、全てを知っているかのようなことを言ったり
これから起こることをほのめかすようなことを言っていたり……

後々考えてみると「あの言葉はこういうことだったのか」と思ったのも、一度や二度ではない。


……とにかくその友人は本当に不思議で、
私にとってはやはり魔女みたいな存在なのであった。



























「……ん?」


――とある日曜日。
ふとケータイが鳴ったので手にとってみると、どうやらメールが届いたようだ。
差出人は、魔法使い――もとい、例の友人。

あまりメールが好きではない彼女がわざわざメールとは、何か急ぎの用なのだろうか。
そう思いつつ、届いたそのメールを開いてみると…







     ちゃ〜ん!
     お休みの日にごめんね〜(>_<)

     黒子のバスケのDVD見てたら、ちゃんと語りたくてメールしちゃった(笑)







「またいつものパターンかな?」


私が前から好きだった漫画――黒子のバスケに、後からハマりだしたこの友人。
確か、ちょうど去年の今くらいだっただろうか…

黒子のバスケの気に入ったシーン、感動したセリフ、その他もろもろについて
私に熱く語りに来るのが彼女の日課になっていた。
(でも、私も語るのは楽しいので特に問題は無い)







「とにかく、返事を……
 ……ん?」


返信しようと思いつつも、なんとなくスクロールしてみると。
そのメールには、続きがあった。





   
  ……と、黒子の話はとりあえず置いといてさ。

     ちゃん、もうすぐ誕生日だよね。
     何か欲しいものある?







「欲しいもの、かー……」


確か、去年も同じことを聞かれたな。
そのときは平日で学校があったから、直接聞かれたんだけど……










         
 『キャプテンにお祝いしてほしいね』










          『……ありがとう!大切にする……』

          『…………おう』















「……そっか、あれから一年経ったってことなんだ」


結った髪に付いているシュシュに触れ、そんなことを思った。


――あの不思議な体験をして以来、このシュシュは変わらず私の手元にある。
あれがただの夢ではない、ということはこのシュシュが証明してくれてるわけだけど、
あれ以降は、何をしても同じような体験をすることはなかった。







「どういうことなんだろう……」


やっぱり魔女が……彼女が、やってくれたことだったのかな。

非現実的とは思いつつも「きっとそうだ」と結論づけた私は、
望みを託すようにメールを返した。





     
また日向にお祝いしてほしい――…………





     そっか……またお祝いしてもらえたら、楽しいね!







友人からのメールは、そのたった一言で終わっていた。












































……――

…………――――










「ちょっと、!」

「……!」


誰かに呼ばれた、と思い隣に目線を向けると、
そこには見知った顔があった。

……そう、見知った顔だ。
だけど、絶対に居るはずのないと思っていた人…………







「リコ……?」


そう、リコだ。
黒子のバスケに出てくる、誠凛のカントクの……


――あのときと同じだ。

私はすぐに解った。















「ちょっと、何ぼーっとしてるのよ」


去年と同じように「私の話ちゃんと聞いてた?」と聞かれたけれど、
突然「ココ」に来てしまった私には、やはり話の内容など解るわけがなかった。















「今日からテスト前で部活が全面中止でしょ?
 それで、みんなで勉強会しようかーってことになったわけ」

「あ、そうなんだ……
 でも、リコたちみんな頭いいから、あんまり必要ないんじゃない?」


なんとなく思ったことを口にしてみると、リコは盛大な溜め息をついた。







「私たちが勉強する、ってゆーよりかは、勉強を見てやるって言ったほうが正しいわね」

「え? それって、つまり……」

「うちのバカな後輩の勉強を、みんなで見てやるのよ」


これは100%間違いなく火神のことだな、と、
リコの言葉により私は確信したのだった。















「それでね、本題はここからなんだけど」

「ん?」

「せっかくだから、も参加しなさいよ」

「えっ……」


誠凛バスケ部メンバーの集まる勉強会に参加!?
それは、ちょっと…いや、かなり楽しそうな気がする。

またみんなと会話できたりするのかと思うと、尚更だった。







「勉強は不安だし、教えてもらいに参加したい気もするけど……」


でも、いいのかな?
私はバスケ部でもないし…。

そう言うと、リコは「いいに決まってるじゃない!」と即答してくれた。















「じゃあ、決まり!
 放課後に火神くんと黒子くんのクラスの教室借りてやるわよ」

「え?
 図書室とかじゃないんだ」

「あのメンバーが図書室なんかで静かに勉強できると思う?」

「思いません…………」


リコの言葉にそう答えつつ、私は苦笑するしかなかった。































「じゃあ、さっそくだけど勉強会を始めるわよ!」


あれから放課後になり……
教室に集まったバスケ部メンバー+私は、リコの号令により勉強会をスタートした。

流れとしては、とりあえず個人個人で勉強を始めて……
解らないところがあったら、リコたち(成績のいい人たち)に聞く感じだ。







「だからねぇ、火神くん!
 そこはこの公式を使うのよ!」

「え? じゃあ、この公式は何に使うんだ? ですか?」

「それはこっちの問題みたいな場合のときに使う公式で、
 今やってるのはこっちの――……」


うーん……
知ってはいたけど、火神は相当みたいだね。

リコ、大丈夫かな…。



そんなことを考えつつも、自分も問題集と向き合う。
(ちなみに、今やっているのは古典の問題集だ。)










「えーと……」


この問題はさっきの基礎問題の応用だから……
たぶん、さっき出てきた助動詞がポイントなんだよね。

と、なると……







「うーん……」


なんとなく解るんだけど、少し曖昧な和訳になっちゃうなぁ。
一度リコに聞いてみようか…















「そうそう、計算の仕方はそれで合ってるわ!
 その後に使うのがここの公式で……」


……なんか、火神の専属家庭教師みたいになってる。
今は邪魔しないほうがいいのかも。

でも、ここの和訳ちょっと納得がいかないし……















「……どーした?」

「え…?」


ふいに声を掛けられ、問題集に向けていた目線を右にずらすと。
さっきまで同じように問題集を解いていたはずの日向が、こちらを見ている。







「何かわかんねーのか?」

「え? あ、うん…」


ここの和訳なんだけど、と、問題集を見せながら伝えると。










「あー……ここな。
 確かに間違いやすいよな」


そう言いながら、助動詞の訳し方とか含めて
私にも理解でるように説明してくれた。















「あ、なるほど……解りやすい!」


日向すごいな、なんて心の中で思いつつ、私は教えてもらった通りに問題を訳していく。

……私も特別勉強が好き、というほどでもないけど、
こんな風にどんどん解けていけば面白いよね。


そうして私は、解らないところは日向に聞いたりして問題集を解いていった。





























「……あーもうっ!
 火神くん、そこはそういう解釈をしちゃ駄目なのよ!」

「でも、さっきのから考えたら『〜してはいけない』になるじゃないすか」

「だからそこは、こっちの助動詞が関わってくるのよ。
 ええとね……」


……あれ?
火神もいつの間にか古典の勉強してる?
(……なんて、気にしても仕方がないか…)







「よし!
 ちょっと火神くん、図書室に行くわよ!」

「え? なんで突然……」

「古語辞典にいろんな例文が載ってるはずだから。
 それ見ながら、ちょっと説明するわ!」


図書室行きを渋っていた火神だったけど、
リコの威圧感に押されたのか、そのまま一緒に図書室へと向かっていった。














「……あの、すみません。
 ボクも調べたいことがあるので、一度図書室に行ってきます」


そう言った黒子っち(…)が、先に出ていった二人に続く。







「なんかオレも集中力切れちったなぁ〜……
 つーことでちょっくら休憩してくるわ!」


水戸部と土田も一緒に行こうぜ、と言いながら、
小金井と声を掛けられた二人も続いて教室を出ていってしまった。










「ふあ……
 オレはなんか眠くなってきたから、いったん顔でも洗ってくるな」


続いてそう言いながら木吉も出ていく。







「先祖は洗顔などせんぞ!」

伊月それ全く意味わかんねーからとりあえずジュース買ってこいそして二度と戻ってくるな


そんな謎のダジャレを言い残し、伊月までも教室を出ていってしまった。















「……みんな行っちゃったね」

「ああ……ったく、しょうがねー奴らだな」


残されたのは、私と日向の二人だった。







「…………」

「…………」


――沈黙が流れた。

みんながドタバタと教室を出ていったこともあってか、
今まで問題集に集中できていたのに、急にその沈黙が気になってしまう。















「……おい」

「……?」


去年と同じように、先に沈黙を破ったのは日向だった。







「どうかした?」

「あー……お前さ、その…シュシュっつーんだっけ?
 それ、髪の毛結んでるときいつもしてるよな」

「……!」


教室の窓ガラスに目を向けてみる。

すると、「こっち」に来てからも
変わらずあのシュシュを付けている自分の姿が映っていた。















「ずいぶん気に入ってるんだな」

「う、うん、まあ……
 すごく、大切なものだし」

「……そーかよ」


そう言って日向はそっぽを向いた。
(たぶん、また照れくさくなっているんだろう)







「お前さ……
 今日、誕生日だろ」

「えっ……」


まさかと思い慌ててケータイを取り出して確認してみる。
すると、その待ち受け画面に表示された日付は、やはり私の誕生日だった。













「……これ」

「え?
 あの、もしかしてこれって……」

「あ? プレゼントだよ、プレゼント」


今の流れでそれしかねーだろうが、と、
ちょっとふてくされたような顔をして言った。







「そっか、……
 開けてもいい?」

「おう」


前と同じ女の子好みの、雑貨屋か何かでラッピングしてもらったらしい袋を開ける。
すると、そこにはカチューシャが入っていた

セットで売っていたもののようで、
赤と白の二つのカチューシャに、それぞれ黒い花模様がプリントされていて格好いい感じがする。


可愛くなり過ぎなくて、逆にいいかも……
それに、これはきっと…今つけているシュシュと、おそろいなんだろう。















『そっか……またお祝いしてもらえたら、楽しいね!』



そのとき、例の友人から返ってきたメールを思い出した。

あれはきっと、このことだったんだ……。



















「な、なんつーか……
 冬とか、髪の毛結んでたら寒そうだったから」


だから、今度はカチューシャを選んでくれたのだという。







「それなら、おろしてても使えるだろ」

「うん……
 ありがとう! 大切にする……」

「…………おう」


私の言葉に対し返事をした日向の顔は、赤く染まっているような気がした。







「……えへへ」


もう一度、手の中にあるカチューシャに目を向ける。

……赤と白と黒だなんて、本当に、まるで誠凛カラーだ。
明日はシュシュをいったんやめて、このカチューシャにしようかな。














































…………


「…………!」


気づくとそこは、自分の部屋だった。
ベッドに入っているところからして、私は寝ていたのだろうか。
でも、ベッドに入った記憶なんて全然……。








「……って、ちょっと待って。
 今まで寝ていた(らしい)ということは、もしかして……」


さっきのやり取りは、夢だったこと!?

……と、以前の私なら落胆していたところだ。


でも……















「夢じゃ、……ないんだよね」


あの誠凛カラーのカチューシャが、机の上にそっと置いてある。







「そうだ、あれは夢じゃない」


夢じゃ、ない。
だってこのカチューシャが、何よりの証拠なんだから。










「……えへへ」


決めた。
やっぱり明日は、シュシュをいったんやめてこのカチューシャにしよう。







































大好きな人と一緒に過ごせるチカラ〜Returns〜






(私はそれを またあの魔女にもらったのかも)

























「ねえねえ、ちゃ〜ん」

「何?」


休み明け、学校にて。
朝のHRが始まる前、例の友人が教室にやって来た。







「キャプテンにまたお祝いしてもらったら、やっぱり楽しいね」


もらえたら、ではなく、もらったら。
彼女は確かにまたそう言った。










「うん……そうだね!」


――やはり彼女は、魔女に違いないと思った。
























































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  というわけで(?)キャプテン夢でした!いかがでしたか?
  これは千夜の友人の誕生祝いに、ということで書いてみた去年の作品をちょっと改造して(?)書いたものです。
  またもや話がぶっ飛んでいます…!

  友人が謎すぎるのは、今さらですがね。
  とにもかくにも、去年書いたやつのキャプテンとヒロインの雰囲気が個人的に好きだったので
  また書いてみたい…と常々思っていたのですが、再び友人の誕生日がやって来たので
  それを機に書いてみました!個人的には…気に入っている!!(何


  てか、リコちゃんを始め、黒子や他の面々が教室を出ていったのは
  みんなで打ち合わせしていたからなんですよ?
  あいつら二人きりにしよーぜ!作戦。(ネーミングセンス皆無
  ほんとに集中力が切れたり眠くなってたわけではない、と思う…。


  とにもかくにも、またもや友人に無理やり送り付けます!
  誕生日おめでとう! なんかこの設定また挑戦してみたい!!
  (高尾で挑戦してみるつもりが、何故か続きものになった…!)