私の友人の中に、ひとりちょっとミステリアスというか……
          ときどき魔女か何かではないか、と思ってしまう子が居る。


          そう思ってしまう理由は、主にその言動。
          絶対に知らないはずなのに、全て知っているかのようなことを言ったり
          これから起こることをほのめかすようなことを言っていたり……

          後々考えてみると「あの言葉はこういうことだったのか」と思ったのも、一度や二度ではない。


          ……とにかくその友人は本当に不思議で、
          私にとってはやはり魔女みたいな存在なのであった。






























          「ちゃ〜ん」


          休み時間になり教室で次の授業の準備をしていると、
          魔法使い――もとい、例の友人がやって来た。彼女の手には、漫画が一冊ある。
          私は少し前から好きなんだけど、彼女はごく最近ハマったらしい漫画――黒子のバスケだ。

          それを先ほどの授業中に読んでいたらしく(それって、いいのかなぁ……)
          感動したシーンについて語りたくて持ってきた、とのこと。







          「……と、黒子の話はこれくらいにしてさ」

          「ん?」

          「ちゃん、もうすぐ誕生日だよね」

          「うん、そうだね」


          プレゼントを考えようとしたけれど、いいものが思い浮かばず
          「本人に聞いちゃえ」とのことで彼女はやって来たらしい。










          「何か欲しいものある?」

          「欲しいものかー……」


          何がいいだろう。
          あんま高いものは悪いし、そもそも、こんな風におねだりしていいものなのだろうか。

          あれでもない、これでもないと私が考え込んでいると、
          彼女がふと言った。















          「キャプテンにお祝いしてほしいね」

          「え?」

          「もしくは高尾?」


          キャプテン、とは、黒子のバスケに出てくる日向のこと。
          先日彼女に「ちゃんは誰が好きなの?」と聞かれ、
          その問いに対して答えたのが日向と高尾だった。







          「うん、まあ……お祝いしてくれたらいいね」

          「そうだよね、そうだよね!」


          そんなことあるはずがない、と思いつつも、
          この友人はテンションが上がるとマシンガントークになり、
          そういうときは適当に相槌を打っておくのが吉ということは知っている。










          「お祝いしてもらえたら、きっと楽しいだろうなぁ」


          そう言った友人の顔が先ほどまでの雰囲気と違う気がしたけれど、
          たぶん気のせいだろうなと思って、私はまた彼女のトークに耳を傾けた。



































          
……―― 

          …………――――










          「ちょっと、!」

          「……!」


          誰かに呼ばれた、と思い隣に目線を向けると、
          そこには見知った顔があった。

          ……そう、見知った顔だ。
          だけど、絶対に居るはずのない人…………







          「リコ、さん……」


          そう、リコさんだ。
          黒子のバスケに出てくる、誠凛のカントクの……







          「ちょっと、なんで『さん』付けなのよ」


          違和感あるから、いつもみたいに呼び捨てにしてよね。

          苦笑しながらリコさ……リコは言った。










          「それより、私の話ちゃんと聞いてた?」

          「え、いや、あんまり……」


          正直言うと、状況がよく解らないので話どころではない。

          とにかく、格好からすると私は誠凛の生徒であり
          リコと名前で呼び合うくらい仲が良くて、そして……


          私は黒子の世界に来てしまった、らしい……。















          「今日はみんなで帰りにファミレス寄ろうって話よ」

          「ファミレス?」

          「そ。
           今日はちょっと練習も早めに切り上げるつもりだから」


          部活を早めに終わらせてまで、ファミレスに行く必要があるのだろうか。
          いさかか疑問ではあるが、「詳しいことは後でのお楽しみよ」と言われてしまったので
          私もそれ以上聞かないでおくことにした。





























          ――そして放課後。
          バスケ部ではない私は、図書室で時間を潰してリコたちを待った。

          メールが届いたので頃合いを見て体育館に向かうと、
          ちょうどバスケ部メンバーが閉じまりをして出てくるところだった。







          「うわあ……」


          すごいすごい!
          まごうことなき誠凛バスケ部メンバーだよ!
          すごい……!

          今ここに例の友人が居たら、きっとテンションがMAXになって手が付けられないかも。
          いや、でも一緒に騒げるから逆に居てもらった方がいいか……










          「どうかしましたか、先輩」

          「あっ、ううん! 別になんでも」


          まさか「みんなに見とれていました」なんて言えないので、適当にごまかしておく。
          それにしても、本当に……

          本物の黒子だ!すごい!顔すごい綺麗!
          黒子っち、いえーい だ!
          (意味不明とか言わないでください)







          「それにしても、結局なんでファミレスに行くのかな?」

          「それは……
           すみません、カントクから口止めされているので」


          どうやら黒子っち(…)は知っているようだけど、教えてはもらえないらしい。
          まあ、確かにリコに逆らったら怖そうなので、仕方ないか。















          「さ、着いたわよー」


          さっさと入る! と言いながら、
          リコを先頭にメンバーがぞろぞろファミレスに入っていく。
          てゆうか今さらだけど、この人数で座れる席があるのだろうか……。

          けどそんな心配も必要なかったようで、
          店員の人もテキパキと私たちを席まで案内してくれた。




















          「じゃあ、さっそだけど、」

          「ん?」



          「「「「「「「「「「誕生日おめでとー!!」」」」」」」」」」






          「……!」


          手元にあったケータイに目を向ける。
          待ち受け画面に表示された日付は、確かに私の誕生日だった。










          「なんで……」


          そもそもこのメンバーと一緒にファミレスに来ていること自体驚きだが
          まさか、誕生日を祝ってもらえるとは……。















         
 『キャプテンにお祝いしてほしいね』




          そのとき、例の友人の言葉が思い出された。

          あれはきっと、このことだったんだ……。















          「今日は私たちのおごりだから、好きなもの食べなさいよ」

          「う、うん……ありがとう!」


          お礼を言うと、メンバーみんながにこっと笑い返してくれた。





































          「それじゃ、今日はここで解散。
           みんな気を付けて帰るのよー」


          あれから2時間近くファミレスで食べたり飲んだり、おしゃべりしたり。
          そして頃合いになったとき、「これ以上は遅くなるから」と言ってリコがお開きにした。







          「……あ、日向君。のこと送ってってね」

          「おう」  「え、」


          そう言いながら、リコは反対方向へと体を向ける。

          てか、ふたりって幼馴染?だよね?
          家とか近いんじゃ……なんで反対方向?

          私の心中を察したのか、リコは苦笑して言う。










          「私はちょっと用があるのよ」

          「でも、もう遅いし危ないんじゃ……」

          「大丈夫よ、鉄平と黒子くんにも付き合ってもらうから」


          うーん……それなら大丈夫、なのかなぁ。







          「それじゃあ、また明日ね」

          「うん……また、ね」


          そうしてリコは木吉…くんと黒子っちと一緒に歩き出した。















          「……じゃあ、帰るか」

          「う、うん」


          歩き出した彼に従い、私も足を動かした。













          「…………」

          「…………」


          でも、なんか……
          歩き出したはいいものの、何を話せばいいんだろうか。

          そもそも、私は日向のことなんて呼んでるの?
          日向?日向くん?それとも……?
          (いつもと違う呼び方だと、
           リコのときみたいに変に思われるかもしれないんだけど……)















          「……ああ、そうだ」

          「……?」


          私が妙なことで悩んでいると、何か思い出したような声が隣から聞こえる。







          「どうかしたの?」

          「あー……これ」


          言いづらそうにしながら差し出されたのは、小さな袋に入った何か。
          女の子好みの袋からして、雑貨屋か何かのものだろうか。

          ……とにかくずっと差し出されたまま無言でいるので、
          迷いつつも私はその袋を受け取った。










          「それで……これ、何?」

          「あ? プレゼントだよ、プレゼント」


          今日誕生日だろーが、と、そっぽを向きながら言われた。
          (たぶん照れくさいんだろう)







          「そっか、……
           開けてもいい?」

          「おう」


          テープを丁寧に剥がして袋を開けてみると、そこにはシュシュがひとつ入っていた。
          赤地に白と黒の花模様がプリントされていて、シュシュだけど格好いい感じがする。

          可愛くなりすぎなくて、逆にいいかも……。















          「……ありがとう! 大切にする……」

          「…………おう」


          私の言葉に対し返事をした日向の顔は、赤く染まっているような気がした。







          「……えへへ」


          もう一度、手の中にあるシュシュに目を向ける。

          ……赤と白と黒だなんて、まるで誠凛カラーだ。
          明日はこのシュシュを付けていこうかな。










































          ……――


          「…………!」


          気づくとそこは、自分の部屋だった。
          ベッドに入っているところからして、私は寝ていたのだろうか。
          でも、ベッドに入った記憶なんて全然……。







          「……って、ちょっと待って。
           今まで寝ていた(らしい)ということは、もしかして……」


          さっきのリコたちとのやり取りは、夢だったってこと!?
          そんなぁ……。


          現状に落胆しながらふと机の上を見てみると。







          「なん、で……」


          あの誠凛カラーのシュシュが、そっと置いてあるではないか。















          「夢じゃない、の?」


          夢じゃ、ない。
          そうだ、あれは夢じゃない。

          だってこのシュシュが、何よりの証拠なんだから。










          「……えへへ」


          決めた。
          やっぱり明日は、このシュシュを付けていこう。
















































大好きな人と一緒に過ごせるチカラ






(私はそれを あの魔女にもらったのかも)

























          「ねえねえ、ちゃ〜ん」

          「何?」


          翌日、学校にて。
          朝のHRが始まる前、例の友人が教室にやって来た。







          「やっぱり、キャプテンたちにお祝いしてもらったら楽しいね」


          もらえたら、ではなく、もらったら。
          彼女は確かにそう言った。










          「うん……そう、だね」


          ――やはり彼女は、魔女に違いないと思った。































































          ++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

            というわけで(?)キャプテン夢でした!いかがでしたか?
            これは千夜の友人の誕生祝いに、ということで書いてみたんですが……
            正直ぶっ飛んでいるのは自覚しています(え

            てか、友人が謎すぎますね。何者!?って感じだし。
            まあとにかく、さんがトリップしたのかどうか、などはご想像にお任せします(笑)
            変なお話だけど書いてる方は楽しかった!(オイ


            とにもかくにも、友人に無理やり送り付けます!
            誕生日おめでとう! 次は高尾も挑戦したい!