「ちゃん、待ってよ……!」
「嫌だね!」
少し離れたところから、
ダッシュで及川が追いかけてくるものの……
さすがにこの距離感では、追いつくことは出来ない。
それを確認しつつエレベーターに乗り込んだあたしは、
意気揚々と「閉」ボタンを押した。
「ちょっ……! ちゃ……」
そしてその言葉を最後まで聞く前に扉は閉まり、
エレベーターが動き出した。
「はぁ……やっと撒けた」
でもエレベーターだと、外から見てたら
どの階で止まっかバレそうだな……。
ここはあえて、いったん別の階に向かってから
もっかい戻って影山のところに行こう。
そんなことを考えながら、あたしはまたボタンを押した。
「あっ……影山……!」
スポーツショップが入っている階に戻り、
エレベーターから降りる。
すると、ちょうどエレベーター前を横切った
影山の姿が目に入った。
「さん!
ちょうど良かった、今からそっちに行こうとしてたんすよ」
なんて言いながら、
あたしに気づいた影山もこっちに駆け寄って来てくれる。
「すぐ終わるなんて言ってたのに全然戻ってこないから、
気になって自分の買い物どころじゃなくなって……」
「影山……」
駆け寄ってくれた影山に、あたしは思わずしがみつく。
「え、……、さん……どうしたんすか……?」
「……変な奴に……絡まれた…………」
「はあ!?
ちょっ……それ大丈夫だったんすか!?」
慌てた影山は、あたしの肩やら腕やらをさわって
「怪我は無いんすよね」なんて言いながら確かめている。
「嫌なこと言われただけだから……
それについては平気」
とにかく、影山とすぐ合流できて良かった……。
「一人だったら色々とキツかったけど、
影山が居てくれて良かった……」
「さん……」
及川はあれで撒いてきたつもりだけど、
もう遭遇しないとは限らないし……
「……さん、大丈夫っす。
またその変な奴が絡んできたら、俺が守りますから」
「影山……」
ありがとう……
ホントに、一人じゃなくて良かった――……
「…………ハッ!」
「……!?
な、なんすか!?」
あたしが急にハッとなったもんだから、
影山もつられるようにして焦る。
「いきなりしがみついてごめん!
なんかすごく嫌な思いしたから、つい……」
こんな可愛くない女にしがみつかれたって、
影山も嬉しくないだろう……。
我に返ったあたしは、そんなことを考えたが。
「あ、いや!
別にその……嫌じゃないんで!」
「ホント? うぜーとか思ってない!?」
「そんなこと思ってないっすよ!」
あ、そーなんだ……ちょっと安心。
「どっちかって言うと、嬉しかったっつうか……」
「え?」
「ななな、なんでもないっす!」
よく聞こえなかったので聞き返したのに、
影山は「何でもない」の一点張りで通してきた。
顔も真っ赤だし、よく解んないけど
聞かれたくないことなのかな?
「とにかく、その……
俺の胸で良ければ、いつでも貸すんで」
何かあったら、すぐ頼ってください。
「影山……優しい……!」
「いや、俺は……さんにだけは、
いつも優しいつもりなんすけど……」
影山が何かつぶやいていたが、
またもやよく聞こえなかった。
「と、とにかく!
いったん気分転換でもした方がいいっすよ」
気分転換……
「確かに、そーかも」
影山と合流できてなんとか持ち直したものの、
嫌な思いが全て消え去ったかと言えばそーでもない。
ここは言われた通り、
気分転換を図ったほうが良さそうだけど……
「でも、影山の買い物は?」
確かさっき、「自分の買い物どころじゃなくなった」
って言ってたような気が……
ってことは、買い物が済んでない可能性は高いよね。
「ああ、いや……俺のは後でも問題ないっす。
それよりも、なんか気分転換しましょう」
「いいの?」
「うす。それが終わったら、買い物するんで」
そのときはさんも一緒に来てください、
と強めの(でも怖くはない)口調で言われた。
……どうやら、また変な奴(及川)に絡まれることを
心配してくれているらしい。
「うん……ありがとう、影山!」
「いえ、当然っす」
それからは、何で気分転換をするかという話になり……
「アイスを食べたい」というあたしの意見で、
アイス屋さんへ移動することになった。
「ここの一階に入ってるアイス屋さんなんだけどさ、
こないだ食べたらすごくおいしくて!」
あのときは大好きな抹茶味にしたんだったよね〜。
今日はどーしよう……やっぱ抹茶?
「確か、フードコートの一角に入ってたんだよね」
「じゃあ、向こうっすね」
「うん!」
……あっ、あった!
あのアイス屋さんだ!
「影山も食べる?」
「いや、俺はいいっす」
「解った、じゃあその辺で座ってて」
影山が頷いてくれたのを確認して、
あたしはひとりアイス屋さんに向かった。
「お待たせー!」
アイスを買ってきたあたしは、
機嫌よく影山のもとに戻った。
「やっぱ抹茶なんすね」
「そう!
なんで解ったの?」
「だってさん、
いつも抹茶味の菓子食ってるじゃないすか」
「え、そーかなぁ……」
いや、そーかも……。
でもそれって、影山がいつもあたしのこと
気にしてくれてるってことだよね。
……言われてみれば影山って、最初っから
あたしに親切にしてくれてたっけ。
さっき影山に「優しい」なんて言ったけど、
もうずっと前から、影山は優しかったよね……。
「……さん?」
「……え? な、何?」
「いや……アイス、溶けますよ?」
「ハッ!?」
まずい!
せっかく買った抹茶アイスを、無駄にするとこだった!
「えっと、じゃあ、いただきまーす!」
もうちょっといろいろ考えたかった気もするけど、
とにかく今は目の前のアイスよ!
「……はあ〜、おいしい……」
やはり抹茶は最強だね。うん。
「良かったっすね」
「うん!」
「…………」
「……?」
なんか、影山が笑ってるんだけど……
どっかおかしかったかな?
「いや、別におかしかったわけじゃなくて」
あたしの心を読んだのか、問いかける前にそう答える。
「さんが、やっと楽しそうに笑ってくれたな、って」
「……!」
影山……
「影山、ありがとう……
今日だけじゃなくて、いつも」
「当然っすよ」
だからまたなんかあったら 俺を頼ってください
(他の誰かじゃなくて この俺を)