※うちのヒロインは及川のことを毛嫌いしています。
カッコいい及川と可愛らしいヒロインのやり取りをご所望の方は
回れ右してお引き取りくださいますようお願い申し上げます。




























「この階にスポーツショップ入ってんだよね、確か」

「うっす。
 さんが行く店は、別の階すか?」

「そう、ひとつ上」


とある休日。
あたしは影山と一緒に、家から少し離れたデパートに来ていた。

今日はもともと、買い物しに行く予定でいたんだけど……





『えっ、さん明日、そこ行くんすか!?』

『うん』

『あああ、あの! お、俺も行こうと思ってたんです!
 いっ、一緒に行ってもいいすか!?』

『いーよ?』



なんてやり取りが、昨日の部活帰りウチに寄って
肉まんを食べていた影山との間にあり……

なんやかんやで、こうして一緒に来ているわけです。












「買うものは決まってるし、
 すぐ終わると思うからちょっと行ってくるね」

「えっ……けど、一人で大丈夫なんすか?」

「何? もしかしてバカにしてる!?

「あ、いや、そういうわけじゃ……!
 ただちょっと心配っつーか、そのっ……」


ツッコミを入れると、影山があわあわと慌て出す。





「……ったく、なに慌ててんのそんくらいで。
 冗談だよ、冗談!」

「ちょっ……
 そういう冗談はやめてください、マジで

「ハイハイ。
 じゃ、ほんとすぐだから、ささっと行ってくる〜」

「変な奴に絡まれたりしないでくださいよ」


あたしみたいな可愛くねー女に絡む奴いるかよ!

と、思いつつも、ずっと漫才してるわけにもいかないので
またテキトーに返事をしてその場をあとにした。



















「よーし、欲しいものも買ったことだし」


さっさと影山のところに戻ろっと。

そう思いつつお店を出て、歩き出したそのとき……










「あっれ〜?
 誰かと思ったらちゃんじゃ〜ん♪」

「ゲッ!!」


この声は……!





「ちょっと君、『ゲッ』ってひどくな〜い?」

「ひどくねーよ」

「いや、その返しがすでにひどいから!
 もう及川さん傷付いちゃうな〜」

「…………」


あーもう、影山ごめん!

『あたしみたいな可愛くねー女に絡む奴いるかよ!』

とか心の中でツッコミ入れて悪かった!
居たよ! 絡んでくる変な奴、ここに居たよ!!










「とにかく、さっさと逃げないと……」

「待ってよー、ちゃん。
 せっかく会えたんだし、俺とデートしない?」

「しねーから」

「なんで〜! この俺が誘ってるんだよ?」


いや、他でもないあんただから断ってんの!





「つーかあんた、いい加減、
 影山に対抗するためにあたしを使おうとすんな!」

「えっ!
 ちゃんもしかして、飛雄の気持ちに気づいて……」

「影山があたしに懐いてるから、なんかデートでもして
 自慢げに話すつもりなんでしょーが、どーせ!!」

「って気づいてないし!?


確かに「さん、さん」ってデカイ図体で寄ってくると、
理由は解らんけど、懐いてくれてるんだろーなって感じるけども!





「飛雄、かわいそー……
 さすがの及川さんも、同情しちゃう」

「……? 何言ってんの?」


あ、てか、このスキに逃げるべきか……!










「……待ってちゃん、逃がさないよ。
 君が飛雄の気持ちに気づいてないのなら、好都合だ」

「……!」


(言ってることはよく解んねーけど、)行く手を塞がれた……!





「ね、俺とデートしよ?」

「しません」(即答)

「いいじゃん、どうせ暇でしょ?」

「どーせとかマジうざいんですけど!」


何なのこいつ!!
失礼にもほどがあるんですけど!?















「おい何してんだ、クソ川」

「岩ちゃん、登場シーンからすでにひどい!!


あっ、岩ちゃんも居たんだ! しめた!





「あっ……!」


及川の一瞬のスキ(?)をついたあたしは、
向こうからやって来た岩ちゃんの影に隠れる。





「ちょっと〜、ちゃん。
 そんなところに隠れてないで、出ておいで?」

「断る」(即答)

「ほら、岩ちゃんの後ろなんかより
 及川さんの隣の方が楽しいよ〜?」

「「黙れクソ川」」

「さすがにダブルはひどいよ!!」


あたしと岩ちゃんが同時に言うと、
さすがに及川もたじたじになって……










「ほーら、ちゃん!
 岩ちゃんより及川さんにしよう? ねっ?」


たじたじになっていたけど、そこはやはり及川徹。
ちょっとやそっとじゃ崩れない……らしい。





「てか、そもそも及川よりも
 断然岩ちゃんのほうがいーし!」

「え〜? 何言ってんの。
 岩ちゃんより及川さんのほうがカッコいいって」


え? てかそれ、岩ちゃんに失礼すぎでしょ
本人、目の前に居るんですけど?






「それにさ〜、岩ちゃんにだって選ぶ権利はあるでショ?
 もっと可愛い子のほうが好みだよ岩ちゃんは……あ、」

「…………」


そう、ですよねー……










「ホントそーですよねー……
 そんなの、クソ川なんかに言われなくても解ってるし!!」

「あっ、ちゃん!」

「バーカバーカ、及川のバーカ!
 
あんたなんかこの世の女の子・全員に振られてしまえ!!

「何その捨てゼリフ!?」


待ってよ、という及川の言葉なんかに返事することなく、
あたしはその場からダッシュで逃げた。










「さすがに言い過ぎじゃねぇのか、及川」

「わ、解ってるよ、そんなこと!
 さすがの俺も、ちょっとまずかったって思ってるから」

「じゃあ謝ってこい」

「ハイハイ、行ってきますってば!」




















「ちくしょー……」


マジで腹立つ、及川徹……





『もっと可愛い子のほうが好みだよ』





「そんな解りきってること、……
 わざわざ言わなくたって……」


最悪……。

このままじゃ気分が悪くなる一方だし、
さっさと影山のところに戻ろ……















「……あっ、居た! ちゃん、待って!」

「……!」


この声、及川!?
なんで追いかけて……





「……って考えてる場合じゃないな。
 追いつかれる前に逃げないと!」





「って、ちょっと! 逃げないでよ!」


うるせー、誰があんたの言うことなんか聞くかよ!















「ちょっ……待てってば!」

「……!?」

「はい、捕まえた〜」


腕、つかまれた……!





「あんまり運動部をなめないでよね♪」

「…………」


難なく追いついてきた及川が楽しそうに言い、
逆にあたしは、ただただその及川を睨んだ。





「あー、その……ごめんね、ホントに。
 さっきのは、さすがに言い過ぎたよ」

「…………別に事実だから」


謝ってもらってもしょーがないじゃん。

そんなことより、さっさと逃げたい……





「俺の話、まだ途中でしょ。
 ダメだよ、逃げたりしたら」

「……!」


どうやらあたしの考えは読まれていたらしく、
スキをついて逃げる作戦は実行できそうになかった。










「なんか君と話してると、売り言葉に買い言葉っていうか……
 本気で思ってるわけじゃないこと、言っちゃうんだよね」

「…………」

「あ、うん、あのね……
 別に君のせいじゃないから、いい加減その怖い顔やめよう?

「…………」


別に怖い顔なんてしてないけど! 失礼な!





「そもそも、俺がただ飛雄に見せつけるためだけに
 君に絡んでるって本気で思ってる?」

「思ってる」(即答)

「ええっ!」


即答しないでよ、なんて慌ててるけど、
ぶっちゃけ及川が言うと全てが胡散臭く感じるんだよね。










「飛雄に見せつけたいのも本当。
 でも、君自身に興味があるのも本当だから」

「…………」

「う〜ん……
 どうしたら信じてもらえるかな」


どうしたって信じらんないけど……

そこまで考えたところで、あたしはいいことを思いついた。















「…………及川」

「うん、何?」

「あそこ、めっちゃ可愛い子が歩いてる!!」

「えっ、どこ!?


あたしが指さしたほうを、ものすごい勢いで見る及川。

それによりつかまれていたあたしの腕は解放され、
ついでに及川はあたしに背中を向けていた。

……よし、今だ!










「え〜、可愛い子なんて居ないじゃない……
 ……ってちゃん!!」





「アデュー!!」

何そのキャラ!?
 って、待ってよ、ちゃーん!!」

「うるせー、追いかけてくんな!
 どこぞの可愛い女の子とでもデートしてきな!」

「だから君を誘ってるんじゃないか!
 ったく、もう……!」






























どうしてそんなに頑ななの!?



(君の攻略法があるなら、教えてほしいよ……!)