「そういえば、もうすぐバレンタインね。
 は、スクアーロにチョコあげるのよね?」

「え!」


恒例となりつつあるお茶会をしていたとき。

ルッス姐さんから、急にバレンタインの話をふれらた。





「え、えっと、あの、」

「ジャッポーネでは、好きな人にチョコをあげるっていう
 習慣なんでしょう?」

「うん、そうなんだけど……」


ルッス姐さん、なんで知って……
あ、そっか。きっと妹に聞いたんだ。





「もしかしたら、あなたも知ってるかもしれないけれど」

「……?」

「こっちのバレンタインは、少し違うのよ」


「あ、そうなんだ」


そういえば、どこかで聞いたことあるかも……

女の人が男の人にチョコ送るのって、
日本だけの習慣だって。





「でも大丈夫よ!
 そういうものだって、スクには説明しといたから♪」

「ええっ!?」


何が大丈夫なんだろう?

でも、知らないままチョコを渡して
変に思われても困るし……

ひとまずルッス姐さんには感謝しとこう。










「本命には手作りするコも居るっていうじゃない。
 あなたはどうするの?」

「いや、あたしは……」


姐さんも知ってると思うけど、料理は苦手だし……

両想いになってから初めてのバレンタインだから、
最初は危なげなくいきたいっていうか……





「パパッと作れたら理想なんだけどさ〜」

「そうねぇ。
 でも、きっと大丈夫よ」


スクアーロだったら、あなたからもらえれば
なんだって嬉しいはずだから♪





「そうだといいんだけど……」

「心配しないで。私が保証するわ!」

「まあ、ルッス姐さんがそこまで言うなら」


ひとまず今回のチョコは、お店で買ってこよう。










「でも、せめてこだわって選んだものにしたいな」

「ネットで色々と見せてもらったけれど、
 種類もたくさんあるのね〜」

「そうそう、そうなんだよ」


いろいろ吟味するうちに、さらに迷ってきちゃいそう……
とは言え、妥協するのは絶対に嫌だ。





「時間はかかりそうだけど、いろいろお店を回ってくるよ」

「そうね、まだ時間はあるんだし
 納得のいくまで探していらっしゃいな」

「うん!」


なんて言い合いながら、
この日はバレンタインの話で盛り上がった。















「……よし」


昨日の今日でさっそくだけど、チョコ探しに行こう!

運よく任務も入ってないし、
時間のあるときにどんどんお店回ってこないとね。





「う゛お゛ぉい、

「……!?」


自室を出たところで意気込んでいたあたしの背後から、
声を掛けてきたのはスクアーロだった。





「なんだぁ、そんなに驚かせちまったかぁ?」

「い、いや、その……
 ごめん、ちょっと考え事してて」


いつもだったら、誰かが近づいてくれば
割とすぐ気配で気づくんだけど……

今はチョコのことを考えていたせいで、
全く気付けず必要以上に驚いてしまった。










「そ、それで、スクアーロ。
 何か用があったんじゃ……?」

「お゛ぉ、ボスが後で部屋に来いってよぉ」

「ボスが?」

「あ゛ぁ。
 明日、何かの任務を任せたいらしい」


明日か……
今日じゃなくて良かった。

……まあ、ボスは何故かいつも
用事がないときにしか任務入れてこないんだけどさ。





「任務のことだったら、すぐに行ったほうがいいかな?」

「いや、時間のあるときでいいって言ってたぜぇ」

「そっか、わかった!」


チョコを見に行ったあとで、ボスの部屋に行ってみよう。










「じゃあ、あたしちょっと出かけてくるね」

「気を付けろよぉ」

「うん、ありがとう!」

「お、お゛ぉ」


ん?





「どうかした?」

「い、いや、なんでもねぇ」

「そう?」


それならいいんだけど……。





「じゃあ、今度こそ行ってきまーす!」

「あ゛ぁ」





「よーし……」


いざ! チョコ探しの旅へ!














「もう〜、スクアーロったら!
 相変わらずの笑顔に弱いわねぇ〜」

「ううう、うるせぇぞぉ!!
 つーかお前も、いい加減に覗くのやめろぉ」

「そんな無理に怖い顔しなくたっていいじゃない。
 あの子の笑顔が見れてすっごく嬉しいく・せ・に♪」

「うぜぇ……」















「……そういえばスクって、甘いの大丈夫なのかな?」


たまに、お土産でヴァリアーのみんなにも
お菓子を渡したりしてるけど……

なるべく食べやすいの選んでるから、
実際どうなのかは微妙なんだよね。





「チョコってけっこう難しいよね。
 甘いのしかダメとか、逆にビターのほうがいいとか」


好みも色々あるだろうし……

とは言え、味に関しても妥協はしたくない。





「……とりあえず、今日は初回だからね」


お店に行って、手あたり次第に見てみるのもいいかも。
ルッス姐さんの言っていた通り、まだ時間もある。





「しっかり吟味して、喜んでもらえるものをあげよう!」




















「……はぁ〜」


あれからけっこうな数のお店を回って、
やっと納得のいくものを買うことができた。





「結局、味については据え置きって感じだけど」


最終的にデザイン重視で選んじゃったから、
結局チョコ自体は甘い系に寄ってしまった。





「めちゃくちゃ今さらだけど、甘いもの苦手だったらどうしよう」


今まで渡してたお土産も、無理に食べてたのかもだし。


でも、事前に「甘いチョコ食べられる?」とか聞いても……

姐さんが日本のバレンタインについて話したって言うし、
あからさますぎると思って探りは入れなかったんだよね。










「……ここで考えててもしょうがない。
 もう覚悟を決めろ、!」


必要以上に意気込んでる気がしないでもないけど……
せっかく用意したんだから、ちゃんと渡してこなくちゃ。

そう思って、そのままスクアーロの部屋に向かった。















「どうしたんだぁ?」


扉をノックして声を掛けると、すぐに出てきてくれた。





「う、うん、ちょっと渡したいものがあって」

「……とりあえず中に入れぇ」

「うんっ」


招き入れてもらったあたしは、
いつものようにソファに座った。

そして、隣にスクアーロも座ったのを見計らって、
持っていた紙袋をずいっと差し出す。





「あ、あの!
 今日はバレンタインだから……チョコ、用意したの」


本当は、手作りできれば良かったんだけど……





「でも、真剣に選んできたから……
 嫌じゃなかったら、受け取ってほしいな」


不安になりながらも、しっかりとその目を見て伝える。





「嫌なわけねぇ」


そう言ってから、照れくさそうに紙袋を受け取り……





「ありがとうなぁ、

「……うん!」


あたしの頭を優しく撫でてくれた。










「……ちょっと待ってろぉ」

「……?」


スクアーロは、大事そうに紙袋をテーブルに置いて
なぜか部屋の奥に行ってしまう。

そして、戻ってくると……





「わあ……!」


かわいらしいピンクのバラの花束を手にしていた。





「すごいね、これ!」

「ちょうど今、お前に渡しに行こうとしててなぁ」

「あ、そうだったんだ……」

「ほら」


今度はスクが、その半束をずいっと差し出してくる。





「ありがとう!」


あたしはそれをしっかりと受け取って、
勢いよくお礼を言った。










「気に入ってくれたかぁ?」

「うん、すごく嬉しい」


こんな素敵な花束がもらえるなんて、
物語の中だけかと思ってた。

本当に、すごく嬉しいよ……ありがとう。





「……そうかぁ」


もう一度お礼を言うと、スクアーロはまた
照れくさそうにしながらつぶやいた。





――そして、数時間後。

チョコを開封してびっくりしたらしいスクアーロが、
慌ててあたしのところにやって来るのだった。




















気に入ってもらえたみたいだね♪


(お前、これ……)(そう! 鮫の形のチョコなんだ〜♪)