さてさて、そんなわけで!
ハロウィンパーティ当日になりました。

……今年は31日が平日なので、学生であるみんなのことを考慮して
それより前の土曜日・夜に開催することにしたあたし。
(ちなみに明日も日曜で学校が休みなので、泊りがけパーティだったりする!)










「こんばんはー!」

ガララッ、と引き戸を開ける音がして、その直後聞き覚えるのある元気な声が聞こえてきた。










「いらっしゃーい!」

急いで玄関まで行ってみると、思った通り渚くんと……
一緒にやって来たらしい怜ちゃんの姿があった。





「……あれ?
 二人とも、仮装は?」

パーティに招待したとき、仮装してほしいとお願いはしておいた。

それについては承諾してくれていたので、すごく期待していたのに……
今は二人とも、ふつーの私服だ。





「仮装する服は、別に持ってきましたよ」

あたしの問いに対し、怜ちゃんが手にある大きめの荷物を見せながら答えた。







「あのねー、僕は着替えてから行こうって言ったんだよ?
 それなのに怜ちゃんが『この格好で電車に乗れるわけないでしょう!?』って」

「あ、あー……そっか……」

そういえば、二人は電車だったよね……
失念してたわ。

さすがのあたしでも、その辺の常識は持ち合わせているつもりだ。うん。





「そうですよ!
 この格好で電車に乗り込んだら、周りの人に何事かと思われてしまいます」

「え〜?
 でもハロウィン近いし、みんな解ると思うから気にしなくていいんじゃない?」

「渚くんは気にしないかもしれませんが、僕は気にします!!」

この二人のやり取りって、相変わらず微笑ましいよね。
そう思っていると、渚くんがふとこちらに視線を向ける。










「そういえば……ちゃんはアリスなの?」

「あ、うん! そーそー、そーなの」

渚くんの言う通り、あたしは不思議の国の仮装をしていた。





さん、アリスが好きなんですか?」

「え、いやぁ……まあ、そんなとこ!」

実はいろいろ迷った挙句の衣装選択だったんだけど、
話すと長くなりそうなのでテキトーにごまかした。

……いや、てか思ったんだけど、いつまで二人を玄関先に居させるつもりだよ!


我に返ったあたしは、自分の仮装の話もそこそこに言う。











「ね、ねえ、二人とも!
 まだ全員来てないし、今のうちに着替えてきたら?」

「あっ、そうだね!」

「ではお邪魔します」

そう言って家に上がった二人に、あたしはハルの部屋で着替えるよう勧めた。





「ハルも今、着替えてるはずなんだ。
 でも、何故かさっきからずーっと出てこないんだけど……」

二人と同じように着替えを勧めたら、渋々「解った」と言って部屋に入ったきり
かれこれ1時間弱は経っている気がする。





「えっ、ハルちゃんそんな凝った仮装するの?」

期待している渚くんには悪いが、そんなすごい衣装ではないとあたしは伝える。





「何かあったんですかね……どうやって着たらいいか解らない、とか」

「うーん……
 実は何度かドア越しに声掛けてんだけど、『大丈夫だ』しか返ってこなくて」

あたしももしかして着替えに戸惑ってるのかも?と思ったんだけど
まさか、思春期の子の着替え中に部屋に入ってくわけにもいかないし……





「心配だから、二人とも着替えついでに様子見てきてくれる?」

「ええ、解りました」

「まっかせといて、ちゃん!」

あたしの頼みを快諾した二人は、ハルの部屋に向かっていった。















「こ、こんばんは〜……」

渚くんと怜ちゃんを見送った後、すぐ。
背後の玄関でまたもや聞きなれた声が聞こえたので、あたしは振り返る。





「いらっしゃい、マコ!」

「う、うん……お邪魔、します……」

ものすごく顔を真っ赤にしたマコが、気まずそうに上がってくる。

たぶんだけど……その理由は、マコが「既に仮装している」点にあるだろう。
(今さらだけど、確かにふつーは怜ちゃんみたいに「衣装は持参しよう」って考えるよね)





「……狼男?」

「えっ!? あ、あぁ、うん……そう、だよ」

よっぽど恥ずかしーのか、かなりどもりながら頷いてくれた。

……てゆーか、「狼男の仮装」っていうより着ぐるみ着てる感じだよね……
なんかマコが着るとすごくかわいく見えるわ。傷付きそうだから本人には言わないけど。










「えっと……はアリス、だよね」

「うん!
 ちょっと年の割にかわいすぎたかなって思ったんだけど、どーかな?」

「す、すごく可愛いと思う!似合ってるし!!」

会話の流れでちょっと聞いてみただけなんだけど……
マコが必要以上に力強い答えをくれたので、ちょっと圧倒されてしまった。





「そ、そう? それなら良かった」

「うん!!」

そして再び力強い答えが返ってくる。
でも相変わらず顔は真っ赤なので、ホントにかわいい狼男さんだと思った。










「じゃ、とりあえず上がって?」

「うん」

あたしはひとまず、マコを居間に案内することにした。





「みんなはもう来てるの?」

「ついさっき渚くんと怜ちゃんが来たよ」

今はハルの部屋で仮装の準備してる。





「そっか……
 もしかして、ハルも?」

「うん、正解」

さすが、マコ。
ハルのことならすぐに予想できちゃうみたいだね。





「じゃー、とりあえずここで待ってて!」

あたしはお菓子やらジュースやらを用意してる途中だった旨を伝え、
マコを残し、いったんキッチンのほうへ向かった。





















「……ん?」

キッチンにやって来てから数分も経たぬうち……
再び玄関の引き戸がガララッと音を立てた。

おそらく誰か来たのだろうと思ったあたしは、急いで玄関に向かう。
すると……





「……よぉ」

無駄にイケメンな赤い髪&赤い瞳のドラキュラが立っていた……

…………ので、あたしは無言で引き戸を閉めた。










「っておい!!!」

だが、あたしが閉めきる直前で引き戸に手がかかり、逆にこじ開けられてしまった。





「なんで閉めてんだ、お前は!!」

「いや、だって……!!」

逃げないと血を吸われると思って!!

と、至極真面目に答えたのに、イケメンドラキュラこと凛は
「アホ」と言ってあたしに軽めのチョップをお見舞いしてきた。





「ひどい……」

「ひどいのは、お前だろうが」

来いっつっといてその態度は何だよ。

凛は苛立たしげに言う。
(でも、その反応が正しいと思う)










「でも、ホントびっくりしたよ。
 まさか、凛が最初っから仮装してくるとは」

てっきり怜ちゃんパターンかと思ったのに。





「俺も、んなつもりは無かったけど……江のやつがしつこくてな」

「江ちゃんが?」

なんでも、「こういうのはサプライズがいい」と江ちゃんに言われ
だいぶ嫌だったけど渋々着替えてからここにやって来たらしい。





「凛って、ホント江ちゃんに弱いよね〜」

「……うるせー」



   
『それに、お兄ちゃん! さんはそっちの方が喜ぶと思うよ?』










「(なんて言葉にまんまとハメられたなんて言えねぇ……)」










「……あっ! まさか、衣装のチョイスも江ちゃん?」

「ああ、そうだ」

やっぱり!
さっすが江ちゃん、ナイスチョイス!!





「さっすが、お兄ちゃんのことよく解ってる妹さんだよね〜」

「そうか?」

「うん!」

だってこいつ、ドラキュラ似合いすぎじゃんかよ!
衣装の色合いと赤い髪&瞳が合ってるし、歯もギザギザだし

もう何なの?
ドラキュラやるために生まれてきたのこいつ? とか思っちゃうよ。










「他の奴らは?」

「もうみんな来てる! 凛が最後だよ」

そんな話をしつつ、あたしは凛のこともマコのように居間に通した。