「あっ、凛!」

「真琴、お前……」

「あ……
 いや、いいよ言わなくて。なんとなく解ってるから

なんて、二人が微妙な雰囲気になったとき……










「おっ待たせ〜!!」

そう叫びながら、渚くんと怜ちゃんが居間に入ってきた。





「わあ! 渚くん、カボチャ似合う!!」

「えっへへ、ありがとう♪」

いわゆるカボチャおばけとゆーやつかな?
何にしろ、めっちゃかわいい!!





「怜ちゃんのミイラ男も、よく出来てる……!」

「当然です!完璧に再現してありますからね」

確かに、仮装一つとっても怜ちゃんだったら完璧に研究してきそうだな。










「…………あれ?
 そーいえばハルは?」

渚くんと怜ちゃんに様子を見てきてもらったはずだけど……。

そんなことを考えつつ二人に視線を向けると……
二人して自分たちの後ろを振り返ったので、あたしもそれに倣う。





「……!! ハル…………!!」

かっ……





「かわいい!!!」

「おっ、おい……!」

思った以上に仮装が似合っていたので、あたしは勢い余って抱きついてしまった。
ハルはまた焦りだすけど、本気で拒否してはいなさそーなのでそのまま。





「こら、。ちょっと落ち着いて、ね?」

でも、見かねたマコがすぐに割って入ってきた。














「どんなのかなーって思ってたら、ハルちゃんの衣装もアリスだったんだね!」

「正確には『アリスに出てくるウサギ』の仮装ですけどね」

……そう。

ハルの仮装は、アリスに出てくるウサギさんだ。
何がいいか迷ったあげく、あたしが着てほしいのをテキトーにチョイスしておいた。
(ちなみに本人は「何でもいい」と言っていた手前、大々的に文句が言えない様子だ)





「いやぁ、ウサギならあたしとお揃いでいーかなってさ!
 あたしも魔女が良かったんだけど、色々ネットで調べてたらアリスかわいーなって思っちゃって」

「え〜?
 それなら、僕たちにも言ってくれればよかったのにぃ!」

僕もアリスでお揃いにしたかった〜! と、駄々をこねる渚くん。
服装が服装だからか、いつもよりさらにかわいらしい。





「そっか、その手もあったか」

「そーだよ〜!
 事前に解ってれば、僕、帽子屋さんの衣装選んだのにな〜」

うーん……
渚くんは帽子屋というよりチェシャ猫では? と思ったけど、黙っておいた。










「気が回らなくてごめんね、渚くん。
 じゃ、今度はみんなでお揃いにしよ?」

「うん!!!」

そう言うと、渚くんは嬉しそうに笑う。

それがまたかわいらしくて、つい頭をなでてしまったけど、
さらに嬉しそうにしたのでまぁ大丈夫かと思った。















「はいはい、渚もその辺にね。
 せっかく全員集まったんだし、パーティ始めない?」

またもやマコが割って入ってきて、そう言った。
いつも収拾がつかなくなったときにマコがまとめてくれるから、ホント頼れる存在だわ。

……あれ?
もしかしなくても、それ一番年上のあたしの役目じゃん?





「っ……飲み物と食べる物取ってくる」


「あっ、ハル!」

よっぽど恥ずかしかったのか、ハルは小走りでキッチンのほうに向かっていった。









「僕たちが部屋に行ったらね、ハルちゃん、ほとんど着替え終わってたんだよ」

「え、そーなの?」

「うん」

じゃあ、なんであんな1時間近く出てこなかったのか……

その疑問には、怜ちゃんが答えてくれる。





「遙先輩、あのウサ耳を付けたくなくて葛藤していたみたいなんです」

「え!」

そーだったんだ……
でも、あの耳が無けりゃウサギさんになれないからダメだよ。(厳)





「けど、よくハルを納得させたね、二人とも」

「えっへへ〜、すごいでしょ?」

「うん!」










「……でも『さんが喜ぶはず』と言ったらすぐに付けてくれましたけどね」

「シーッ! 怜ちゃん、それ内緒だよ」















「怜ちゃん? 渚くん?」

なんか二人がこそこそしてるんだけど、声を掛けると「なんでもない」と返されたので
あえて追及はしないでおいた。












「あっ、そういえばマコちゃんは狼男で凛ちゃんはドラキュラなの?」

「あ、うん…そうだよ」

「二人とも、最初から仮装してきたんですね」

「江に言われて仕方なくな」

四人がそれぞれの仮装について話し始める。
あたしはそこで、ちょっと気になったことがあったので聞いてみる。





「ねえ、そーいえば凛……
 まさか、鮫柄からずっとその格好で来「んなワケねぇだろ!!」

でーすーよーねー!!

ああ、良かった。
この格好で電車とか乗ってきたらどーしようかと……
(たぶんいい意味で女の子たちが放っとかないと思われる)





「……この服、江が用意してくれてたからな。一度ウチに寄ってきたんだよ」

ああ、そっか、なるほど。
でも、それでもこいつ家からこの格好で来たんだ……頑張ったな。
(マコもだけど、マコならお得意のエンジェルスマイルで何とかやり過ごせそうだし)















「…………おい、。お前も手伝え」

「あっ、うん!」

ジュースを運びつつ戻ってきたハルが、(まだ仮装に納得いってないのか)
不服そうな顔でそう言う。

これ以上機嫌を損ねるのは得策でないと思ったあたしは、素直に従った。





「じゃ、ちょっと用意してくるから、みんなゆっくりしてて!」

そう言い残し、ハルと入れ替わるようにキッチンに向かった。


















「ねぇねぇ、ちゃんのアリスすっごくかわいいよね!!」

彼女が完全に居間から消えたのを見計らい、渚がそう言った。





「ええ、僕もそう思います!
 彼女は魔女にするつもりだったようですが、断然アリスの方がいいですね」

渚の言葉に、怜も同意する。





「普段あんまりああいう格好しないからかな……新鮮だよね」

すごく似合ってるし、と、真琴が続ける。





「まあ、割と似合ってるんじゃねぇの」

「もぉ〜、そんなこと言って!
 凛ちゃんもちゃんのこと『かわいい』って思ってるクセにぃ!」

「なっ……別に、んなこと思ってねぇよ!」

凛は素直に褒める言葉を口にしないものの、前の三人と同じような意見であるのは
その様子から明らかだった。










「ねぇ、ハルちゃんは?」

「何だ」

「だーかーらー!
 ハルちゃんは、ちゃんのアリスどう思う?」

かわいいよね?
と、渚が遙に問いかける。

無言を貫き通そうとした遙であったが、
四人の視線が一気に集まっている今、それも難しそうだ。





「……俺は…………」

そして仕方なく口を開いた遙……
















「ねえ〜! ハルーー!!」

「……!」

口を開いた遙であったが、ちょうどそのとき
キッチンのほうからの呼ぶ声が聞こえた。





「ちょっとー、これ何分焼くんだっけ〜〜?」

こちらに戻ってくる様子も無いまま、の声だけが聞こえる。
見かねた遙は、小さくため息をついてから言った。






「…………今行くから待ってろ」

そうしてすばやく立ち上がった遙は、そそくさとキッチンに行ってしまった。












「…………うまく逃げられちゃったね」

「逃げられた、って渚くん……」

いたずらっ子のような笑みを浮かべて言う渚に、呆れる怜。





「俺もの仮装に対するハルの感想、聞きたかったな」

「ま、真琴先輩! 目が笑ってません……!」

一方こちら側には黒い笑みを浮かべた真琴がおり、
次いで怜は冷や汗をかくことになった。