「やぁーーちぃーーよぉーーく〜〜ん!!」

とある家の前で、わざとらしく声を上げると。
家の主でもある呼ばれた相手が、呆れ顔で出てきた。





「……お前って、もしかしなくても馬鹿?」

「いや、違います」

そう言った八千代に対し、あたしは即答した。





「……まぁ、どうせ秀の奴が










さ〜ん!
 八千代さんの家を訪ねるとき、何か面白いことしてくださいよ〜!』










 …………とか言ったんでしょ」

「えっ、すごいよ、八千代!
 なんで解ったの?」

しかも、一字一句違えずに……
(あと、さっきのって秀のモノマネ? なのかな?)






「そりゃあ、アイツの考えそうなことだからねぇ」

「そっか……
 見てないようで、ちゃんと秀のこと見てるんだね」

「…………別に」

そう言って八千代はそっぽを向いてしまったけれど、
あながち外れでもないんだと思う。

でも、これ以上は触れてもはぐらかされそうだから……
ひとまずこの話題は、ここまでにすることにした。















「で、その秀と……千鬼丸は?」

「八千代を迎えに行くだけだから、里の手前で待ってるって」

千鬼丸、秀と先に落ち合っていたあたしはその後、
八千代と落ち合うため、みんなで朧の里に向かった。

でも、家までみんなでぞろぞろ行くこともない、という話になり……
代表であたしが八千代を迎えに来たのだった。





「すぐ出れる?」

「ああ」

「そっか、じゃあ行こう!」

そうしてあたしは、八千代と共に朧の里を出た。















「……あっ、来た来た!
 さ〜〜ん! と、ついでに八千代さ〜〜ん!」


ゴン


「いたっ!」

「久しぶりだねぇ、秀。元気にしてた?」

秀にゲンコツを食らわせた八千代は、(不気味すぎる)笑顔でそう問いかけた。





「今この瞬間、元気じゃなくなりましたよ〜! もう!」

秀はプンプン怒ってるけど、今のはどう考えても










「今のはどう考えても、秀が一言余計だった」

「だよね、千鬼丸もそう思うよね」

まあ、秀だって悪気があって言ってるわけじゃないと思うけど……
(いや、悪気が無けりゃそもそも言わないかな?)










「っと、話を戻すが……久しぶりだな、八千代」

「千鬼丸も元気そうだねぇ」

「そう言うお前もな」

交わす言葉はそれほど多くないけど、
それでもこの人たちの間に何か強い繋がりがあることは感じ取れた。

それが、「絆」と言えるかはまだ解らないけど……
でも、そう言える日が来ればいいな、とあたしは密かに思っている。





「それじゃ、全員揃ったことだし……最終目的地に向かうか」

「うん、行こう!」



   八瀬の里へ――……!






























「うう〜……
 何回通っても、里までのこの道は苦手だわ……」

毎回めちゃくちゃ疲れるんだけど、三人はケロッとしてるし……
やっぱ、あたしが駄目なのよね、たぶん。





さん、大丈夫ですかー?
 良かったら、僕が先導しますよ☆」

そう言って、秀が手を差し出してくれる。





「俺がおぶってってもいいぞ」

「なんなら俺が、特別に抱きかかえてやってもいいけどねぇ」

次いで、千鬼丸と八千代がそう言ったんだけど……










「じゃあ……秀、お願い」

「まっかせてください! えへへ♪」

おんぶorだっこは、ちょっと……
と考えた結果、あたしは秀の助けを借りることにした。





「どう考えたって、おぶってもらった方が楽だろ?」

「抱きかかえた方が、女は喜ぶはずだけど?」

なんて二人が後ろで言い合っているが、あえて答えないでおいた。
(とゆーか、あたしを世間一般の女性たちと同じに考えるところが既に間違っている)





「あっ!
 ここ段差があるから気を付けてくださいね、さん」

「うん、ありがと」

そうして秀に手を引かれながら、あたしは八瀬の里の奥へ歩みを進めた。























「…………あっ、雪奈だ!」

「一人で修行してるみたいですよ」

「おーーーーい、雪奈〜〜〜!!」

声を張り上げて呼ぶと、秀の言う通り修行をしていたらしい雪奈が
こちらに気づいてくれる。





、千鬼丸、八千代、秀!」

修行を中断し駆け寄ってきた雪奈は、
「よく八瀬へお越しくださいましたね」と言って微笑んだ。





「千羽様もお待ちです」

「うん、じゃあご挨拶に行こう!」























「八瀬姫様!」

「あら……みんな、もう八瀬に着いていたの?」

ちょっと驚きながらも、とても嬉しそうにした彼女が迎え入れてくれた。

……今回四人で八瀬の里に行くことは事前に文で知らせておいたので、
ある程度は予想していたみたいなんだけど。






「八瀬姫も変わりは無ぇみたいだな」

「ええ、あなたたちもね」

それから、しばらくみんなで言葉を交わしていたんだけど……

「夕餉までゆっくりしてなさい」という八瀬姫様のお言葉により、
あたしたちはいったん失礼することにした。





「それじゃあ八瀬姫様! また後でお会いしましょう」

「ええ」





















「……千羽様。
 も、あの三名も……とても、良い顔をしていましたね」

「ええ、そうね。
 にあの三名と三家の助け舟となるよう命を出したのは、やはり正しかったわ」








、あなたに命じます。

 初霜千鬼丸、朧八千代、南雲秀の三名……
 並びに、その一族の助け舟となるよう、今後は彼らと行動を共にしなさい』

『……!』

『あなたに、お願いしたいのよ』

『……はい!!』








「自分でも唐突なお願いをしてしまったと思っていたけれど……
 でも、あの子は力強く頷いてくれた」

「あの三名が、今こうして我々と気兼ねなく話してくれるのは、
 ひとえにの力あって……と言えそうですね」

「ええ……本当に、そうね」






















「八瀬姫はゆっくりしてるようにって言ってましたけど〜
 これからどうします?」

「あたし、修行したい!」

「はぁ……そう来ると思ったよ」

「俺も思った」

秀の問いに対し即答すると、八千代と千鬼丸が揃ってそんなことを言った。





「言っとくけど、止めても聞かないよ?」

「んなもん解ってるっつーの。
 ほら、さっさと始めるぞ」

「わっ、さっすが千鬼丸! 話が早い!」

八瀬姫様の命を受け、三人と共に行動するようになったんだけど……

最初の頃は、特に八千代や秀に信頼してもらうのが難しくて
いろいろ挑戦しては失敗して……を、繰り返してたんだよね。





『ねえねえ、八千代! 秀!
 修行に付き合って!』

『はぁ?』

『修行……ですか?』


そこで考えたのが、「修行に付き合ってもらう作戦」だった。

もともと好戦的なタイプだったからなのか、意外とこの作戦がうまくいった感じで……
だんだん、あたしとの間にあった壁みたいなのが無くなっていったんだよね。


あたしも、戦う術は何も持ってなかったから……
修行してもらって、自分の身くらいはなんとか守れるようになってきた。

その名残で、三人には今も修行に付き合ってもらっているのだった。














「修行はいいんだけど、
 お前、まずはその髪をどうにかした方がいいんじゃない?」

再び呆れ顔の八千代がそう言った。





「あ、確かに……」

修行のときはもちろん、あたしはだいたいいつも結ってるんだけど、
ここに来る道中は寒くて下ろしてたんだった。










「ほら……そこに座って」

「え?」

訳も解らぬまま言われた通りに座ると、
八千代がどこからか櫛を出して髪をとかし始めた。





「もしかして八千代、結ってくれるの?」

「そうだよ」

「わぁ、ありがとう!」

八千代は手先が器用だし、綺麗に結ってくれそうだな。
そんなことを思いながら、あたしはしばし大人しくしていることにした。















「ちょっとぉ! 千鬼丸さん、あれいいんですか〜!?
 八千代さんったら、あんな大義名分掲げてさんの髪を触り放題ですよぉ!?」

「き、気にするんじゃねぇ、あんなの……!
 べ、別に、理由なんて無くたって、いつでも触ってみれば……」

「千鬼丸さん……その言い方やらしいです

「うるせぇ!!」















「…………よし。ほら、出来たよ」

「わぁ……なんか、すごい綺麗……!」

なんでいつもやってるポニーテールなのに、
自分が結ったときとこんなに違うわけ?

もう、あたしが不器用すぎて情けないんですけど……。





「お望みとあらば、いつでも結ってあげるよ」

「うん、じゃあまた今度お願いする!」

なんか、八千代たくさんレパートリーありそうだし……
違う髪型も、後でお願いしてみよう!










「お待たせ、千鬼丸!
 修行、お願いします」

「お、おう!」

いつの間にか借りてきてくれたらしい木刀を一本、千鬼丸が手渡してくれる。





「じゃあ、今度こそ始めるぜ」

「はい!」

今日は、打ち合いをメインに修行してもらうことになった。
















「てか……ずっと思ってたんだけ、ど!」

「なんだ、よ!」

なんて会話をしながらも、打ち合いは続いている。





「千鬼丸って、剣術できたんだ!」

「まあ、一通りは……な!」

千岳さんみたいな体術タイプかと思ってたから、
修行を見始めてもらったときも意外だったんだよね。





「でも、すごくかっこいいよね!」

「は、はぁ!? ななな、何言ってんだよお前……!」

「いや、思ったこと言っただけですけど?」

てか、千鬼丸……めっちゃ隙だらけだけどいいの?










「何してるの、好機だよ」

「……!」

八千代の声にハッとなったあたしは、千鬼丸に思いきり打ち込み……





「しまった……!」

受け身を取れていなかった千鬼丸の木刀を、見事弾き飛ばすことに成功した!
















「やった!」

始めて一本取った! みたいな感じ?










「八千代さ〜〜〜ん……
 今のって完全に、千鬼丸さんがさんの話術に嵌っただけですよね〜?」

「そこは黙っててあげなよ、秀」











「八千代ー! 秀ー! 今の見てた!?」

「ばっちり見てましたよ、さん!」

「千鬼丸と打ち合ってこの結果なら、十分なんじゃない?」

少し離れて見物してた二人のもとに行くと、今の結果を褒めてくれた。





「でもちょっと変なんだよ、千ちゃんったら急に隙だらけになってさ〜」

「って! 何なんだよその『千ちゃん』って!」

続いてこちらにやって来た千鬼丸が叫ぶ。







「へ? 普通に千鬼丸のことだけど?
 あたしけっこう、千鬼丸が居ないところで『千ちゃん』言ってるよね」

「あぁ、言ってるねぇ」

「ええ、言ってますねぇ〜」

「本当か!?」






「だって、『千鬼丸』ってちょっと長くて」

「あ〜、僕もそれずっと思ってました!」

「やっぱり!?」

「実は俺も、長くて呼びづらいと思ってたんだよねぇ」

「だよね!」

「おい、お前ら!!」





















「何やら大きな声が聞こえたので、慌てて駆けつけてみましたが……」

「心配要らなかったようね」

「はい」

楽しそうに騒いでいる四人を、千羽と雪奈が微笑みながら見守っている。





「あの命を出したのは……
 もちろんにあの三名とその一族を救ってほしかったからよ」

でも、





「あの子の笑顔を、あの三人なら守ってくれるんじゃないかと思ったの」

だからあの子に、あの命を出した。





「千羽様、それは……
 それは、『八瀬姫様』としての、お力による決断ですか?」

雪奈は、ずっと気になっていたことを問う。
そんな彼女に対し、千羽は悪戯っぽい笑みを浮かべて言った。










「いいえ……
 あの命を出したのは、私の勘がそう告げたからよ」

この先もあの四人に笑顔が溢れ、確かな絆を結んでいけるよう
私も八瀬姫として、力を尽くしましょう。





「これからも、彼らをよろしくね……――……」












































笑顔〜ひかり〜



(これからも そのひかりで   彼らを照らしてあげて)