、私も何か手伝う?」

「ううん、大丈夫!
 なんとか一人で全部やってみたいし」

「…解った。でも、何か困ったことがあったらいつでも言ってね」

「うん、ありがとー、お嬢!」

厨房についてきてくれたお嬢にお礼を言い、あたしは作業を開始する。
今日は朝ごはんのあとからお昼まで、厨房を借りることが出来たのだ。





「ルカとお嬢に協力してもらってあんなに練習したんだから、
 大丈夫だよね……たぶん…」

いやいや、大丈夫だ!
…という心意気でいこ! うん!





   『り、リベルタ!』

   『ん? どーした、

   『あ、あの、あのさ!
    明日、なんだけど、そのー…一緒にお昼食べない!?』

   『おう、いいぜ! どっか食べに行くのか?』

   『い、いや、あの、ここ! 館で食べよー!』

   『? ああ、わかった』










「とりあえず、リベルタには昨日のうちに声かけといたし…」

あとは、うまく料理できればいーんだけどな…





「……いや、あたしはやる! やってやるぞ!!」

もう一度気合いを入れ直し、あたしはひたすら料理に打ち込んだ。























ガタッ





「…!」

「ああ、すまない、邪魔してしまったかな?」

「ダンテ!」

煮込んでる鍋を見つつ片づけをしてるところで、物音が聞こえた。
振り返ってみると、厨房の入り口にダンテの姿がある。





「少しのどが渇いてしまったんでな、水をもらいに来たんだ」

「あ、それならあたし、やります!」

「だが、いいのか? 鍋が…」

「大丈夫です、ときどき様子見る感じなので今のところ」

そう言うと、「じゃあお願いしよう」と言ってダンテは笑った。










「しかし、何やら豪勢な食事になりそうだな」

あたしが作ってるものを一通り見て、ダンテが言う。





「ええ、まあ、あの…
 いちおー、リベルタへの誕生日プレゼントってことなんですが…」

「ああ、なるほどな…、すまない、ありがとう」

水を手渡しつつ、あたしは説明をした。





「料理は苦手なんですけど…でも、喜んでくれたらいーな、と思います」

「ああ…きっとアイツも喜ぶだろう」

「はい!」

頑張ってくれ、と言い残し、ダンテは厨房を出て行った。





「……よーし!」

ラストスパート、がんばろ!























「うーん……
 昼まではまだ少し時間があるし、どーすっかなぁ…」

諜報部のヤツら捕まえて、訓練でもすっかな。





「……ん? あれは…」










「外航船がもう到着しちまうって?」

「ああ、そうらしい」

「昨日の話じゃあ、午後だって言ってたのにな」

「どうやら、ダンテさんのとこにも急に知らせが入ったんだとか」





「あれは、オルソとニーノ……」





「ダンテさんも先に向かったみたいだから、俺らも行かねぇと」

「そうだな」











「……どういうことだ?」

午後に到着するはずだった外航船が、もう着いちまったって…
いや、それより……





「なんでオレんとこには連絡が来ねぇんだよ」

とりあえず、オレも行かねぇと……





   『あ、あの、あのさ!
    明日、なんだけど、そのー…一緒にお昼食べない!?』





「……!」

やべ、そーだった…





「今から船に行って、またすぐ帰ってくるのはキツいな……」

けど、オレだけ仕事しねぇのもマズイ気がするし……

























「よーし、綺麗になった!」

一通り料理ができたあと、お昼までまだ時間があったので
あたしはノルマでもある食堂の掃除をしていた。










「……、良かった! ここに居たんだな」

「リベルタ?」

何やら慌てた様子のリベルタが、食堂に駆け込んでくる。





「なんかさ、今日午後来る予定だった外航船が、もう着いちまうらしくて」

「ふーん?」

「諜報部みんな向かってるみたいだから、オレも今から行ってくるな」

「え、……」

今から…行ってくる……?





「今から行ってすぐ帰ってくるのは、ちょっと厳しくて…
 で、悪いんだけど……昼飯はまた明日でもいいか?」

「え、あ……」

そんな…………





「……?」

「あ、いや、わ、わかった! 行ってらっしゃい!」

「ホントにごめんな?
 明日は絶対一緒に食うから…」

「い、いや、そんな気にしないでよ! 大丈夫だから」

ホントに申し訳なさそーにするので、もう一度「気にしないで」と言ってやった。





「ありがとな、。じゃあ、行ってくる!」

「う、うん!」

リベルタは、そのまま館を出て行った。















「…………はぁ」

せっかくお嬢とルカに手伝ってもらったのに……





「無駄になっちゃったなぁ……」

とりあえず、厨房に戻ろう。

そう思ったあたしは、重たい足を引きずって食堂を出た。






























「おーい、ダンテー!」

港に着くと、オレ以外の諜報部のヤツらは全員集まっていた。





「なっ…リベルタ!? どうしてここに…」

「どうしてってことは、ねーだろ。
 外航船の到着が早まったっつーから、慌てて来たのに」

ダンテは、オレが来たことになんでかすげー驚いている。





「だが、お前…と昼飯を一緒に食うんじゃなかったのか?」

「え? ああ、そーだけど…
 外航船のほうに行くから、今日はごめんなって謝ってきた」

「何をしているんだ、お前は!!」(ゴンッ!!)

「ってー!」

なんか知らねぇけど、急にダンテが拳骨で殴ってきた。





「なっ、何すん…」

「全く、お前は本当に大馬鹿者だな!!」

「はあ?」

ど、どういうことだよ、それ。










はな、お前のために…って一生懸命昼飯を作っていたんだぞ」

「え?」

「今日はお前の誕生日だろう。
 プレゼントにと、こっそり用意していたんだ」

「……!」

オレの誕生日に、が料理……





「料理は苦手だそうだが、お前のために頑張ると…
 嬉しそうに話してくれたよ」

「…………」

「さっき偶然ルカにも話を聞いたんだがな…
 ここ数日、お嬢さんと三人で特訓もしていたようだ」

マジかよ……



   『あ、あの、あのさ!
    明日、なんだけど、そのー…一緒にお昼食べない!?』




……そうか。
だから昨日、わざわざオレを誘って…















「……だからお前には外航船のことを言わなかったんだ」

「…………」

「どこから聞きつけたのかは知らないが…
 お前はさっさと館に戻れ」

……





「悪りぃ、ダンテ!
 オレ、戻る!!」

「ああ、死ぬ気で走って戻れよ!」

「おう!!」

、ごめん……
オレ、全然気づかなくて……!






























「…………?」

食堂に寄ったら居なかったんで、厨房に来てみると…
椅子に座ったが、台に突っ伏していた。





? 寝てるのか…?」

声を掛けても返事がない。
近付いてみたら、微かに寝息が聞こえた。





「……、ホントごめん…オレ……」

……いや、寝てるときに言ってもしょうがないよな。

そう思いながら辺りを見回すと、綺麗に盛りつけられた料理がいくつか並んでいる。
料理にはラップがかけられてて…手を付けていない状態で、二人分残っていた。










「……お、あったあった」

オレは厨房の隅に置いてあった椅子をの隣に置き、
そこに盛りつけられた料理を並べて、ラップを取った。





「…………いただきます!」































「……――んー、これすっげぇ美味いな!
 おかわりってあんのかな…」










「ん……」

なんの音……?

なんかカチャカチャとゆー音が聞こえ、顔を上げてみると…





「あ、悪りぃ…! 起こしちまったか?」

「…リベルタ……」

隣にはご飯を食べてるリベルタの姿があるけど、
寝起きでぼーっとしてよく頭が働かず状況がわかんない。










……!
 なんでっ……」

ようやく覚醒してきた頭が状況を理解し、勢いよく身体を起こすと
肩にかかってた何かがパサッという音を立てて落ちた。





「え、あれ?」

これ、リベルタの上着……!





「ご、ごめん、上着が…!」

「あー、大丈夫だって、気にすんなよ」

そう言ったリベルタは、あたしの大好きな笑顔で。










「それよりさ……ごめんな、
 オマエがせっかく準備してくれてたのに、オレ……」

……そうだ。
寝てたとはいえ、あれからそんな時間は経ってないはずだ。

なのにリベルタがここに居るってことは、戻ってきてくれたってことで…。





「い、いや、いーよ!
 だって、戻ってきてくれたみたいだし、それに……」

お皿に盛って並べといた二人分の料理……一人分はほとんど空っぽになっていた。





「食べてくれて……ありがとー」

「いや、だってすげー美味かったし!
 オマエ料理苦手だって言ってたけど、そんなことねぇよ」

「うん…!」

あなたがそー言ってくれたなら、あたしはそれで十分だよ……。










「えーと、それでさ……」

「うん」

「おかわり、あるか?」

「……! うん!!」

リベルタの差し出した空っぽのお皿を受け取り、あたしは慌てておかわりを用意した。




















「……良かったですね、お嬢様」

「うん」

……なんて二人が様子を見に来てくれてたことは、この少し後で知ることになる。