――放課後――






「なんか、その……毎度すみません……」

「気にしないでください、先生。
 それよりも、また一人でこの大量を本を運ばれる方が心配ですから」

金久保くんは、この間のようにふわっと笑ってそう言ってくれた。



――今は、と言うと……
3日前に借りてきたあの「大量の本」を、図書館に返しに行くところ。

ざっとだけど、一通り読み終えて授業で使えそうなところはコピーした。

ただ、さすがにあたしも学習したので…
この本を、どうやってまた図書館まで運ぼうか悩んでいたところだった。





先生。もしかしてこの本、返しに行くんですか?』

そんなとき、陽日先生に用があって職員室に来ていたらしい金久保くんが声を掛けてくれて。

この間の後でまたお願いするのも……と思ったんだけど、
隣に居た陽日先生から「手伝ってもらえ!」という指示が出てしまったので
こうして一緒に運んでもらっているというわけだ。










「これで返却はオッケーかな?」

図書館で本を借りるのが初めてならば、返すのもまた初めてであり……
少し気になったものの、金久保くんの「問題ないですよ」の言葉で一安心した。










「……あ! そういえば、先生」

「ん?」

図書館を出たところで、金久保くんが何か思い出したように言った。
何かと思いつつも、あたしは次の言葉を待つ。





「もう、うちの生徒会長と話してみましたか?」

「え…?」

生徒会長って……一樹会長だよね?





「ううん、まだだけど……」

問いの真意は解らないが、とにかく未だまともに話したことがないのは事実だ。





「だったら、生徒会室に行ってみませんか?」

「生徒会室に?」

「ええ。
 彼は僕の友人なんです」

少し変わっていますが、話してみるといい意味で面白いですよ。

そう言って金久保くんは笑った。










「うーん、じゃあ行ってみようかな……」

学校に慣れるためにも、「会長」とは早めに知り合っておいたほうがいいと思うし、
何より……登場キャラ全員と話してみたいというのもある。





「それじゃあ行きましょう、先生」

「うん……
 いや、ていうか金久保くん、部活……」

「生徒会室はこっちですよ」

「だから金久保くん、部活は…!?」

あたしの声が聞こえているのかいないのか、(おそらく前者だ)
金久保くんは生徒会室目指してずんずんと歩いていってしまい……

仕方なくあたしも、そのままついていくことにした。





















「失礼します」

ノックをした後、金久保くんがそう言って生徒会室の扉を開けた。
あたしも一応同じように声を掛けてから、彼に続いてその部屋に入る。





「わあ……!」

すると、ゲームで見た風景がそのままそこにあった。
当たり前のことなのに、あたしは妙に感動してしまう。










「やあ、一樹」

「おう、誉か。どうした?」

金久保先輩が「一樹」と呼んだその人は、生徒会長の椅子?らしきものに座っていた。





「っと……そっちは先生か」

「こ、こんにちは!」

果たしてこの返しで良かったのかは謎だけど、とりあえずあたしはそう答えた。










「二人とも始業式なんかでお互い顔は見てると思うけど……
 先生、ここに居るのは我らが生徒会長、不知火一樹君です」

「う、うん」

「それで、一樹……
 知っての通り、こちらは新年度から赴任した先生」

「おう」

よろしくね、と言うと、一樹会長はにかっと笑って豪快に握手してくれた。





「それで、だ。
 誉、なんで突然先生を連れてきたんだ?」

「うん、先生はまだ赴任したばかりでうちの学園に不慣れでしょ?
 だから早く慣れてもらうためにも、一樹と話すのはいいかと思って」

「なるほどな」

金久保くんの説明は割と端的だったけど、一樹会長はおおよそ理解したらしかった。










「せっかくだし僕も一緒にお話ししたいところだけど……
 これから部活だから、一樹、後は任せるね」

「おう、行ってこい!」  「え!?」

金久保くんの言葉に対する一樹会長の力強い返事と、
あたしの驚いた声が重なっていた。

ていうか金久保くん、ここで急に無茶ぶりを……!?

と、とにかく、このまま突っ立ってるわけにもいかないし……





「あ、あの……
 忙しくなければでいいんだけど、生徒会の仕事内容とか教えてもらっても?」

「もちろん、いいですよ」

任せてください、と力強く自身の胸を叩いた会長は、
何か資料のようなものを棚から取り出してきた。










「これは、去年一年間の生徒会活動をまとめたものなんですよ」

「わあ……!」

すごく綺麗にまとまってて見やすい……
これなら、後から見直してもすぐ解るよね。





「今年の活動には、もちろんだけど……
 来年、再来年……それよりずっと先の生徒会でも、
 後から見直すときにいいよね」

「ええ。
 一応はそれを念頭に置いて作っています」

主に月子と颯斗が、と付け加える一樹会長。





「あ、そっか……
 月ちゃん、生徒会メンバーだもんね」

「月ちゃん?」

あたしの彼女に対する呼び方が気になったのか、聞き返してくる会長。




「うん…夜久月子ちゃんとは赴任してすぐ意気投合して、
 今は公の場以外では名前で呼び合ってるんだ」

「そう、だったんですか」

あたしの話を聞いて、どこか嬉しそうにする会長。
その表情の答えは、すぐに解った。










「先生もご存知かと思いますが、あいつ……
 月子はこの学園でただ一人の女子生徒です」

「うん…」

「おまけに、教師陣も男ばっか」

「うん……」

確かにそれは……
ここに赴任してあたしがビックリしたことのうちの、一つだ。





「先生と生徒、という立場があるとはいえ……
 年の近い女性が近くに居てくれるのは、あいつにとっても心強いかと」

そっか…そうだよね。
いつだって会長は、月ちゃんのことを想ってる。

だからこその、あの表情だったんだ…。










「あいつは何事にも一生懸命で、いい奴です。
 先生さえ良ければ、これから先も仲良くしてやってください」

「も、もちろんだよ!
 あたしも、月ちゃんが居てくれれば心強いし」

あまりにも真剣な瞳をして言われたので、あたしは妙に慌ててしまった。
でも……





「でも……生徒会長であるあなたが、生徒のことをそうやって大切に想ってる。
 この学園は、素敵な場所だね」

「……!」

だからこそ、あなたの周りには人の笑顔が絶えないのだ。
あたしは、そう思うよ。










「先生……あなたは不思議な人ですね。
 あいつが信頼するのも解る」

「そ、そうかな?」

「ええ」

ついさっきまでの真剣な表情を崩し、にかっと笑った会長。
あたしはその笑顔を見て、思う。





「ねえ、今の言葉……そのままそっくり返してもいい?」

「え?」

「周りのみんなが、あなたを信頼するのも解るよ」

「先生……」

一瞬目を見開いた会長だったが、それ以上は何も言わなかった。










「……先生、もしまだ時間があるなら
 今日の生徒会活動を見学していきませんか?」

少し間を空けて、会長はそう言った。

思いもよらぬ提案だったけど…
ぜひ見てみたいので、そのお誘いをお受けすることにした。





「今日の活動はまだ始まってないのかな?」

今、生徒会室には会長しか居ないけど…どうなんだろう?





「ウチは、『この時間から!』ってのは特に無いんですよ。
 ここに来た奴からなんとなく仕事始めていく感じで」

「そうなんだ」

「俺も、ぼちぼち始めようかと思ってたところですよ」

そう言いながら、自分の席に戻る会長。
ひとまずあたしもそれに続いてみると、机の上に資料みたいなものが散乱していた。










「それで、会長は何をしようとしてるとこだったの?」

「え……?」

一樹会長が何故か目を丸くして固まっている。
何かおかしいことを言ってしまったのかと、不安になり始めたとき……










「ぷっ……あはははは!!」

「…!?」

噴き出したかと思ったら、そのまま豪快に笑い始めた。
わけが解らずその様子を見つめていると、少し落ち着いてきた会長が口を開く。





「はは、すみません……
 さすがに先生方で『会長』なんて呼ぶ人は居なかったもので、面白くて」

「えっ……」

いや、ていうか……笑いのツボがよく解らない……!





「えーと……ご、ごめんなさい?
 別の呼び方のほうがいいかな」

「いえ、『会長』が呼びやすければそのままでいいですよ」

ということは、別に不快に思ったわけではないらしい……
ので、お言葉に甘えてそのまま呼ばせてもらうことにした。










「じゃ、じゃあ改めて!
 会長、今やってる仕事の内容を教えてください」

「ええ、解りました。
 っくく……」

「って、まだ笑ってる!」

「すみません、ぷっ……あはは!」





























First Time〜Ver. Aries〜




(その後も彼は 何度か思い出し笑いをするのだった…)




































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 First Timeの一樹会長バージョンでした!
 てか、金久保先輩の立ち位置がおもしろかった(笑)

 会長はぜひぜひ仲良くなりたい人物なので、変な呼び方!
 これで彼に「この人、おもしろいな」と思ってもらう作戦(何