「それじゃ、このまま天文科の担任に会いに行くか」


そう言った琥太郎先生と共に、あたしは保健室を出て職員室に向かった。






























「これから紹介する、一応お前の直属の上司に当たる奴だが」

「はい」

「さっきも言った通り、ちょっと騒がしいがいい奴だ。
 そんなに思いつめなくてもいいぞ」

「は、はい!」


確かに彼だったら、人間関係とか心配いらないだろうけど……
これから自分が本当に教師としてやっていけるのか、そっちが気になるよ…。




そんなことを考えているうちに、いつの間にか職員室にたどり着いていたようだ。
ドアを開け、どんどん進んでいく琥太郎先生に続きあたしも慌てて中に入った。















「おい、直獅」

「ん…?
 おー、琥太郎センセか!」


机に向かって何か(テストの採点?)をしていた彼が、
琥太郎先生の呼びかけに答える。







「作業してるとこ悪いな。ちょっといいか」

「全然問題ないぞ」


どーしたんだ? と問いかける彼に向かって、琥太郎先生があたしを目で指し示す。














「直獅、彼女はさん。
 突然だが、理事長の判断によりこれからここで教師をしてもらうことがさっき決まった」

「え?」


ほんとに急な話だからなのか、さすがの彼も目を丸くさせている。







「それで、だ。
 には天文科の副担任をしてもらうことになった」

「っつーことは……」

「ああ、お前の下につくってことだな」


琥太郎先生のその言葉を受け、彼はこちらに目線を向ける。







「あ、あの、初めまして!
 と申します!」


彼の視線に戸惑いつつも、あたしは慌てて自己紹介をした。















「基本的に、彼女には国語科をみてもらう予定だ」


だが今後のことも考えて、副担任についてもらうことになった。

……琥太郎先生の言葉を聞いて、
「いつの間にか琥春さんとそんな話になってたんだ」とあたしが思ったのは、秘密だ。










「直獅のクラスなら、まあ、人間関係も心配ないだろうからな」

「そーだな、なんてったって俺の生徒たちだしな!!」


そう言って教え子たちのことを話す彼の顔は、きらきらしていて……
名前の通り、お日様みたいだった。















「……っと、そうだった。
 自己紹介が、まだだったな!」


彼があたしに向き直る。







「俺は陽日直獅。1年天文科の担任だ」


来年度からも、引き続き新2年天文科を受け持つことになっている、と
彼――陽日先生は説明してくれる。










「一緒に天文科を盛り上げていこうな、センセ!!」

「ん?」

「え…?」


陽日先生の言葉に、疑問の声を上げたのはあたしと、そして琥太郎先生だ。

たぶん、あたしたちが疑問に思ったところは同じところだと思うけど……















「おい、直獅……その呼び方は馴れ馴れしすぎないか?」

「そうか?
 だって、琥太郎センセのことも『琥太郎センセ』だろ?」

「そりゃ、俺とお前ならそれなりに付き合いも長いからな」


何でもないふうに答える陽日先生に、ちょっと呆れているような琥太郎先生。

あたしはあたしで名前を呼ばれたことにびっくりしたわけだけど、
決して嫌ではなかった。







「うーん……それじゃ、苗字のほうがいいか?」

「あ、い、いや、あの!
 もし良ければ、ぜひそのまま下の名前で呼んでください」


苗字で呼ばれるより、名前で呼ばれるほうが好きなんです。
そう言うと、陽日先生は笑顔で頷いてくれた。










「そうだったのか……
 じゃあ、俺も便乗して名前で呼ぶことにするか」

「は、はい、ぜひ!」


ほんとに急な話でここまで来ちゃったけど……
なんだか二人と少し近づけた気がして、嬉しかった。




















「じゃあ直獅……
 とりあえず、に基本的なことを教えてやってくれないか?」


職員室の使い方とか、校内を案内するとか、今から覚えておいてもいいことは
どんどん教えてやってくれ。

そう言った琥太郎先生の言葉に、陽日先生は二つ返事で答えた。







「俺はちょっと片付けなくちゃならないことがあるから、もう戻るな」

「はい。
 色々とありがとうございます、琥太郎先生」

「いや、気にしなくていい。
 それと、直獅のことで困ったことがあったら連絡してくれて構わないからな」

「おい、琥太郎センセ!それどういう意味だよ!!」


陽日先生の反論もテキトーに受け流しながら、琥太郎先生は保健室に戻っていった。















「ったく、琥太郎センセも一言多いっつーか……」


そんな風に文句を言いながらも、本当に怒っているわけではなさそうだ。
それが、なんだか二人の信頼関係を表しているようで、微笑ましく思えた。















「……っと、校内の案内だったな」

「はい、よろしくお願いします!」

「おう、任せとけ!
 ……けど、悪いがちょっと待っててくれないか?」


もう少しでこの採点が終わるから、と、机の上に広がる答案用紙を指す。







「はい、終わるまで待ってます。
 急がなくても大丈夫ですから、落ち着いて採点してあげてください」


採点ミスがあったら、生徒たちに笑われちゃうかもしれませんからね、と
冗談交じりに言うと、
「あいつらなら、十分あり得る……」と、微妙そうな顔をした。










「ま、まあ、とにかく!
 ミスが無い程度に急ぐから、ちょっと待っててくれよな!」

「はい!」


元気よく言った陽日先生につられて、あたしも元気よく返事をした。



































「よーし、じゃあさっそく案内するぞ!」

「よろしくお願いします!」

「まずはここ、職員室からだ!」


出席簿を置いておく棚、配布物が仕分けされてある引き出し、
特別教室などの鍵をしまっておく場所など……

陽日先生は、職員室をひとつひとつ丁寧に説明していってくれた。








「先生方の席だけど……
 たぶん、年度が変わったら今の席と少し変わると思うんだよな」

「なるほど…」

「おう。まあ、機能としてはみんな一緒だけど」


たぶん、センセは俺の隣か向かい側になると思う。










「担任と副担任はやり取りも多いしな」

「そうですよね…
 でも、陽日先生が近くに居てくれたらすごく心強いです」

「そ、そうか?」


あたしの言葉に、陽日先生はちょっと照れくさそうにそう言った。








「はい」


だって、あなたが生徒たちに慕われる、素敵な先生だっていうことは知っているから。















「あ、えっと……
 じゃ、じゃあ他のとこも案内するからな!」

「はい、お願いします」


まだ照れくさそうにしている陽日先生に案内してもらい、
あたしはその後も校内のいろんな場所を回っていった。






























「……っと、とりあえず最初はこんなもんか!」


あんまり一気に説明しても、わかんなくなるだろうしな。

そんな陽日先生の言葉に、
「確かに」と納得してしまったのがなんだか情けないけれど……







「大丈夫だって!
 ちょっとずつ覚えていってくれればいいからさ」


思ったことが顔に出ていたのか、陽日先生はそう言ってくれた。
なんだかそれで、少し気が楽になって……










「あの…陽日先生」

「ん?」


確かに免許は持っているかもしれない。
でも、こうやってちゃんと先生として働くのは初めてだ。

これからきっと、解らないことだってたくさん出てきて
やらなければならないこと、嬉しいこと楽しいこと、つらいこと、哀しいこと……


山ほど出てくるだろうけれど、それでも頑張ってやってみたい。







「あたし、これからいっぱいご迷惑おかけするかと思います。
 でも、……」


でも、それでも。

あたしに居場所をくれて、
そしてこの短時間で心から信頼を寄せてくれた琥春さんの想いに、応えたいんだ。










「でも、がんばって教師としてやっていきたい……いいえ、やっていきます」


だから、これからよろしくお願いします。

そこまで言うと、陽日先生は一瞬ぽかんとしたような顔をして……
そして、すぐに笑顔になった。










「ああ……これからよろしくな、センセ!」


手を差し出してくれたので、あたしもそれに応える。







「はい、陽日先生!」

「……!」


交わした握手が、「仲間」として迎えてもらえた証のような気がして……
あたしは嬉しくて、思わず顔がゆるんでしまった(と、思う)。















「な、なんか今、すげーかわい……」

「……陽日先生?」

「うおおおぉう!!!???」


なんかぼそぼそと言っていたので呼びかけてみると、
陽日先生は大げさに(ほんとに、ものすごく大げさに)驚いていた。







「どうかしたんですか?」

「なっ!? ななな、なんでもない!
 なんでもないんだ、うん!」

「そう…ですか?」

「あ、ああ、そうだ!
 なんでもないんだぞ、なんでもない!!」


そんなこともなさそうなんだけど……
あんまりつっこんでほしくないみたいなので、話はそこで終わらせることにした。















「そそそ、それよりセンセ!
 ちょっと小腹すかないか!?」

「え? ええ、まあ……
 そんな気もします」


話の内容が180度変わったな、と思いつつ、
確かに時間帯としてはおやつの時間…かもしれない。







「よーっし、じゃあ食堂行こうぜ!
 ここのデザートな、かなりうまいらしいんだ!」


俺はそんなに食べないんだけど、生徒がすげー勧めてたからな。







「そうなんですか……
 じゃあ、ぜひ行ってみたいです!」

「お、おう!じゃあ行ってみるか!」


















「はあ……
 な、なんとかごまかせた……」


実はそのつぶやきは聞こえてしまったんだけど、
あたしは聞こえないふりをして食堂まで向かうのだった。

































































First Time〜Ver.Leo〜





(でも、結局なんであんなに慌ててたのかなぁ)



























































+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

First Time今回は陽日先生でした!いかがでしたか?
陽日先生まじ好きなんです……
あたしの好きキャラは、順番としては、錫也→宮地・陽日先生、みたいな感じ。(何
だから、あんまアピールしきれていませんが相当好きです。

陽日先生とはこんな感じで担任・副担任という立場で考えてみました。
おいしい立ち位置(笑)
何をするにも陽日先生が関わってくれそうな予定ですので、お楽しみに!(笑)