『あなたには、今日からこの星月学園の教師として働いてもらうわね』


          その言葉を聞いて開いた口が塞がらずいたあたしに、
          目の前に居る女の人は「ついてきて」と言って歩き出した。


























          「……あ、そういえば自己紹介がまだだったわね。
           私は星月琥春。この学園の理事長をしているわ」

          「は、はあ……」


          知ってます、と心の中で思いはしたものの、声に出せるはずもなく。
          なんとも煮え切らない返答になってしまう。







          「あの……あたしは――」

          「ちゃん、だったわよね?」

          「は、はい、そうです!」

          「大丈夫、ばっちり覚えたわ」


          まさか琥春さんに名前を覚えてもらえるだなんて……!


          そんな風に感動していたとき、隣を歩く琥春さんがふと立ち止まった。

          どうやら、目的地に到着したみたいだ。










          「ここよ」


          案の定、目の前にある部屋を指して琥春さんが言う。
          どんな部屋なのかな、と思いつつ上の方に視線を向けると。

          保健室、という文字が目に入った。


          ――てか、保健室ってもしかしてもしかしなくても……?

          楽しみと不安が入り混じったような心境になるあたしだったけど、
          そんなのお構いなしに琥春さんは保健室の扉を開け、中に入っていく。
          だからあたしも、慌てて後に続いた。















          「琥太郎、いるー?」


          パッと見は誰も居ないように思えるけど、さっきチラっと見た限りだと
          ドアには「在室中」と書いてあったはずだ。
          だから、どこかに居るはずなんだけど……。

          琥春さんも同じように考えたのか、もう一度「琥太郎ー」と名を呼んだ。


          すると、少し間を空けて奥のベッドから人が姿を現した。
          (カーテンが閉まっていたから、ちょうど死角になっていたのだ。)




















          「どうしたんだ、姉さん……
           また何か厄介ごとか?」


          あくびをひとつして、その人は気だるそうに言った。







          「『また』って何よもう」

          「実際そうじゃないか……」


          どうやら、二言目は琥春さんには届いていないようだった。
          「それより琥太郎、」と、さっさと本題に入ろうとする。










          「紹介するわ、こちらはちゃん」

          「あ、……は、初めまして!
           と申します」


          突然話の中に入れられた形となり、
          うまく対応できずどもりながらの挨拶になってしまった。
          けど、目の前に居る人はさほど気にすることなく口を開く。







          「星月琥太郎だ。よろしく」


          そうして手を差し出してくれたので、少しほっとしながら握手をする。















          「たぶん察しはついているだろうけれど、琥太郎は私の弟なの」

          「は、はあ」

          「でもって、この学園の保険医なんだけど……
           実際は、理事の仕事もけっこう手伝ってもらってるのよね」

          「姉さんより仕事はしてると思うけどな」


          余計なこと言わないの、と、琥春さんが言った。

          ……さりげなく聞いてみたところ、琥春さんは別にサボってるわけじゃないけれど、
          たくさんお仕事があっていろいろ飛び回っているらしい。

          それで理事の仕事に手が回りきれず、手伝ってもらっているとのことだ。















          「じゃあ、琥太郎についてはこのくらいでいいかしら」

          「は、はい」

          「それで、今度はちゃんのことだけれど……」


          そう言いながら、琥春さんは視線を移す。










          「ああ……そういえば、どうして姉さんは彼女を連れてきたんだ?」


          確かに何の脈絡もなく来たよね、あたし……。

          そんなことを考えている横で、琥春さんは満面の笑みを浮かべて言う。










          「ちゃんには、今日からうちの教師として働いてもらうのよ」

          「は……!?」


          ちょっとやそっとじゃあまり動じないこの人(というか興味が無いだけ?)も、
          さすがに驚いたみたいだ。
          珍しく表情を大きく崩している……気がする。







          「何を突然……」

          「確かに今回のは自分でも突然だって認めるわ。
           でも、絶対いい考えだと思うの」


          そう言い切った琥春さんの顔は、なんてゆうか……
          すごく、自信に満ち溢れていた。















          「彼女、少し慌てん坊さんみたいだけど……
           きっと、何事にも一生懸命取り組んでくれるはず」

          「こ、琥春さん……」


          ついさっき出会ってから、ここに来るまで……
          10分も経っていないはず。

          その短い時間で、この人はあたしのことをそんな風に評価してくれたのだろうか。
          すごく嬉しいけれど、そこまで言ってもらえるほどではない気が……。







          「……まあ、姉さんの突拍子もない考えは、今に始まったことじゃないからな」


          仕方ないか、と、ひとつため息をついて言った。










          「、だったな」

          「は、はいっ!」

          「そういうわけで……改めてよろしく頼む」

          「はい!」


          そうして、あたしはもう一度握手をした。




















          「ところで、は以前にも教師をしていたのか?」

          「あ、いえ……
           全然違う仕事をしていました」


          国語科の教員免許だけは持っているんですが、と、あたしは付け加える。







          「ああ、だったら大丈夫だろう」

          「ええっ!?」


          ――そんな馬鹿な!?

          焦るあたしとは裏腹に、星月姉弟の話はどんどん進んでいく。










          「まずはどこの担当になってもらうかよねぇ」

          「とにかく国語は見てもらうことになるだろう。
           それから……」


          ちょ、ちょっと、本当に大丈夫なのかな。
          免許持ってるったって、今まで全然関係ない仕事してたんだよ!?

          実際教壇に立ったのだって、実習のときくらいだし……
          (あとは大学でやった模擬授業、とか?)
          なんで先行き不安に思っているのが、あたしだけなんだろうか……!!




















          「……とまあ、今すぐ決めておかなきゃならないことは、このくらいかしら」

          「そうだな。
           あとは状況を見ておいおい決めていった方がいい」


          と、あたしが一人パニくっている間に、何やら一通り決まってしまったらしい。

          あたしがあんまり理解していない(実際は聞いていなかった)ことが解ったのか、
          二人が今しがた決まったことを、もう一度説明してくれる。










          「とりあえず、ちゃんには新2年生の天文科の副担任を担当してもらうわね」

          「新、2年生?」

          「ああ。
           ちょうど来月――4月から、新年度だしな」


          なるほど、そういうことか……。
          ってことは、今は3月なんだよね。

          あたしは壁にかけてあったカレンダーに、ふと目を向ける。










          「あの、でも……
           あたし、天文の知識とかほぼゼロなんですが……」


          大丈夫なんだろうか……?







          「そこは心配いらないわ。
           副担任だから、主な仕事は担任のサポートだし」

          「それに、お前がメインで担当するのは国語科だ」


          そっちの方が大丈夫そうだろう、と、言われたので
          まあ、そっちなら……と、曖昧に答えた。















          「担任はちょっと騒がしいがいい奴だから、心配いらないだろう」

          「そ、そうですか」


          ……あたしたぶん、その人、知ってます。

          そう思ったものの、やはり口にできるはずもなく。








          「とりあえず、ここの職員寮で生活してもらうことになるけれど」

          「はい」

          「部屋はお花ちゃんの隣がいいわね」


          ってことは、彼女の隣部屋か……。


          その後も、今のうちに決めておいた方がいいこと、知っておいた方がいいことなどを、
          あたしは二人から一通り説明してもらった。




















          「じゃあ、最後に何か質問はあるかしら?」

          「質問、ですか……」


          ええと……







          「あの……
           お二人のことを、下のお名前で呼んでもいいですか?」


          苗字だとごちゃ混ぜになっちゃう気がするし、と言うと、
          二人は快く承諾してくれた。










          「そうだわ、それと私のケータイ番号、登録しておいてね」


          何かあったら連絡できるように、と、琥春さんは番号を教えてくれる。

          ――てか、ケータイ持ってたっけ!?
          と焦ったんだけど、何故かそれはちゃんとポケットの中に入っていた。







          「じゃあ、俺のもついでに登録してくれ」


          姉さんの方は繋がりにくいからな、と、琥太郎先生も番号を教えてくれた。
















          「今日のところは、このくらいで大丈夫かしら……
           ……あ、いけない!私この後、用があったんだわ!」


          ふと時計に目を向けた琥春さんは、慌ててケータイをしまう。
          そして、「あとはお願いね、琥太郎!」とだけ言い残して
          嵐のように立ち去ってしまった。










          「まったく、姉さんは……」


          琥太郎先生が、またひとつため息をついた。










          「まあ、とりあえず……
           仕事には少しずつ慣れていってくれればいい」

          「はい!」

          「不安なこともあるだろうが……心配するな。
           いざとなれば、俺もフォローする」


          そう言いながら、琥太郎先生はあたしの頭を優しくなでてくれた。







































First Time〜Ver.Libra〜






(とっても安心できる、大きな手だった。)



























































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            またスタスカに挑戦しましたよ。今回は琥太郎先生です!
            まあ、ほぼ星月姉弟がお相手と言ってもいいような、そうでもないような……。

            このFrist Timeは、初対面シーンなので基本そこまで甘くはないです(え
            まあ、ちょっとそれに繋がりそうな要素は、入れようと思っているんですが。
            何もキッカケないのに恋人同士になっても意味不明ですしね。(当たり前

            そんなわけで、琥春さんを抜かすと最初に会うのが琥太郎先生なわけです。
            だからさんは、今後琥太郎先生を頼りに思っている……んだと思います。たぶん。(何


            また別の人でも挑戦してみますので、気長にお待ちください^^;

            最後までお付き合い頂き、ありがとうございました!