図書館で借りてきた大量の本を、一緒に運んでもらったこと。
それが、あたしたちの出会いでした。
「陽日先生、ちょっと質問なんですが……」
「おお、どうした?」
机に向かい、小テスト(らしきもの)の採点をしていた陽日先生に、
あたしは声を掛けた。
「明日授業でやるところに、ちょうど星の話が出てくるんです。
それで、せっかくだから何か星に関するちょっとした情報がないかな、って
思ったんですが……」
何かいい資料ってあったりしませんか? と、あたしが続けると。
その問いに対し、陽日先生はちょっと考えてから答えてくれる。
「それだったら、図書館にいい本がいくつかあるぞ!
オレのおススメはーっと……」
この本なんだよな、と言いながら、陽日先生は本のタイトルをメモして渡してくれた。
「図書委員の奴に検索してもらえば、すぐに場所も解るだろうから」
「はい、ありがとうございます!」
「その本の周りに似たようなのがあるから、見てみてもいいかもしれないな」
「そうですね」
図書館かぁ……
正直、まだまともに使ったことないからどんな感じなのか解らないな。
でももともと好きな場所だから、楽しみには違いないね!
「陽日先生、図書館の本って一気に何冊も借りられるんですか?」
「あー、いや……一気に借りられるのは一応5冊までなんだけど、
まあオレらは教師って立場もあるし、その辺はある程度許されてるよ」
「そうなんですか」
ってことは、陽日先生のおすすめの本やその他もろもろを
一気に借りてきてもいいってことなのかな?
「もしかしてセンセ……
その辺り一帯の本、一気に借りる気か?」
「え? ええ、まあ……
……もしかしてマズイですか?」
「いや、そーゆーことはないけどさ」
けど、けっこう量があるから、一気に借りるとかなり大変だぞ?
と、陽日先生は心配そうに言う。
「大丈夫ですよ!
あたしこれでも、けっこう重たいもの持ってたりしましたし」
元の世界の職場では、男どもに混じって重たいもの持ったりしてたしさ!
「まあ、センセがそう言うなら……
でも気を付けて行ってきてくれよ」
「はーい!」
いろいろアドバイスをくれた陽日先生にお礼を言って、あたしは図書館に向かった。
「はー、良かった、無事に借りられて」
陽日先生にすすめてもらった本も見つかったし!
親身になって探してくれた図書委員の子にも、感謝しないとね。
――あれから図書館にやって来たあたしは、(予想通り)
図書館のシステムが解らず、検索方法から貸出方法など
必要なことを一通り図書委員の子に教えてもらった。
で、ついでに探そうと思っていた本も一緒に探してくれて。
陽日先生の言ってた通り辺り一帯に似たような本があったので、
あたしはめぼしいものを片っ端から借りてきたのだった。
「うー……けど、ちょっと欲張りすぎたかも」
これも陽日先生が言ってたことだけど……確かに本の量が多い。
いや、いくらなんでも多すぎる。
さっきまで余裕だったあたしだけど、さすがにこれはなぁ……。
――自分の行動にちょっと後悔し始めていたそのとき。
積み上げられた本を抱えていたあたしは、前方不注意で何かにぶつかってしまった。
「わっ……!」
ばさばさばさ、と音を立て、抱えていた本は全て落ちてしまい……
さらに勢い余ったのか、あたし自身も尻餅をついてしまった。
「いたたた……」
やっぱり欲張りすぎだった、と思いつつ、
何にぶつかったのか気になり目線を上げてみると。
「す、すみません!大丈夫ですか?
僕ちょっと考え事をしていて、前を見ていなかったんです」
「あ、……」
この人……知ってる……
「金久保先輩!!!」
……。
…………。
………………。
「……あ、あの、先生。
『先輩』っていうのはちょっと……」
「え、あ、…… そ、そうだよね!」
そうだ、今のあたしは仮にも先生!
なのに生徒に向かって「先輩」って意味不明じゃん……!
「ごめんなさい、あの、その……
そ、そう! 月ちゃんや宮地くんが呼んでいたからつい……!」
本当はもともとそう呼んでいたからなんだけど、そんなことは言えないし……!
「……ああ、なるほど。そういうことだったんですね」
そう言って、ふわっと笑った。
「そ、そうなんです……
てか、本当にごめんなさい。
あたしも前方不注意だったから」
怪我はないかと聞いてみると、「僕は大丈夫ですよ」と言ってまた笑ってくれた。
「それにしても先生、こんなにたくさんの本を一人で運ぼうとしてたんですか?」
散らばった本を見回しながら言う。
「う、うん……図書館を出る前までは、一人でいけるって思ってたんだけど」
だんだん後悔し始めてたところでした、と気まずい感じで言うと、
一瞬目を丸くしたあと、ふっと吹き出して笑った。
「先生って……意外とおっちょこちょいなんですね」
「なっ……
それちょっと失礼だよ、金久保くん!」
「すみません」
そう言いつつも、金久保くんは未だ笑っている。
「もう〜……」
「ふふっ、すみません。
ただ、先生はなんてゆうか……完璧そうなイメージがあったので」
おっちょこちょいな場面を見て、少し親近感がわいたんです。
――そんなことを面と向かって言われてしまったので、
なんだかあたしもそれ以上怒る気になれず……。
「あまり生徒と関わらないタイプなのかな、って思ってました」
「ええっ! そんなことないよ!」
むしろ、生徒たちとどんどん仲良くなりたいと思ってるわけだし……
どこをどう見たら、そんなタイプに間違われるんだろう。
あたしの疑問を察したのか、金久保くんは言葉を続ける。
「ときどき、陽日先生に用があって職員室に行くんです。
それで、先生の席は陽日先生の隣でしょう?」
「う、うん、そうだけど……」
そういえば、陽日先生は弓道部の顧問だもんね。
用って、そういうことかな?
「そのとき先生のことチラッと見ると、すごく真剣に授業の準備をしていて」
それで、「この人はなんでも自分できっちりこなしそうだなぁ」って思ったんです。
「だから、勝手に『孤高』みたいなイメージがついていて」
「こ、孤高?」
あたしはそんな格好いいもんじゃないよ!?
慌ててそう言うと、それが何故か金久保くんのツボにハマったらしく
しばらく笑い続けていた。
「金久保くん、笑いすぎだよ……」
「ふふ……すみません」
「絶対反省してない!」
わざと怒ってみせると、金久保くんは苦笑しながらもう一度「ごめんなさい」と謝った。
「じゃあ……お詫びにこの本を運ぶの、手伝いますね」
「えっ……いいの?」
「はい」
実はここからどうやって運ぼうか悩んでいたから、それは助かる。
そんなわけで、あたしは怒るのをやめ(てか、まあ、2回目のはフリだったんだけど)
お言葉に甘えて本を運ぶのを手伝ってもらうことにした。
「職員室の、あたしの席までお願いできるかな?」
「ええ、いいですよ」
職員室に入ったあたしの後ろから「失礼します」と言って金久保くんが続く。
小テストの採点が終わり休憩しているらしい陽日先生が、
あたしたちの姿を見てきょとんとしている。
「センセに……金久保? 一緒に居るなんて珍しいな……
てかセンセ、この本の量……」
陽日先生は最後まで言葉にすることはなかったが、
「いくらなんでも多すぎ」と言いたげな目をしていた。
「聞いてください、陽日先生。
先生ったら、この量の本を一人で運ぼうとしてたんですよ」
「ちょ、ちょっと、金久保くん……!」
何もそんな失敗話を披露しなくても……!
「本当か!?
だから量が多いって言ったじゃないか、センセー!」
「は、はい、すみません……」
それは本当に……
あたしが軽率だったと思います、ハイ。
「で、結局なんで金久保と?」
「あ、それは……
前方不注意だったあたしが、金久保くんとぶつかってしまって」
その後は彼の厚意で一緒に運んでもらうことになったんです。
あたしがそう言うと、陽日先生は口をとがらせながら
「気を付けてくれよーセンセ〜」と言った。
「じゃあ、僕はこれで失礼しますね」
「おう、部活がんばれよ!」
「そんな他人事な……
先生だって顧問なんだから、たまには顔を出してください」
「わ、解ってるって……」
呆れながらも、もう一度「失礼します」と言って金久保くんが背中を向ける。
……――てか、あたしまだまともにお礼言ってない……!
「金久保くん!」
そう思ったとたん、あたしは必要以上に大きな声でその名を呼んでいた。
周りの先生方の目が一瞬こちらに向けられ、なんだか恥ずかしくなる。
呼ばれた方の金久保くんも、きょとんとした表情でこちらを振り返っていた。
「あ、あの、その……
運ぶの手伝ってくれて、本当にありがとう!」
どもりながらも、なんとかそこまで言うと。
「……どういたしまして」
またふわっと笑って、そう返してくれた。
First Time〜Ver. Taurus〜
(その微笑みは とても温かかった)
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またスタスカ挑戦してみましたよ!今回は金久保先輩です。
前はそんなじゃなかったんですが、Afterやってからちょー好きです。金久保先輩。
可愛すぎる。&格好いい。一人で二度おいしい。(違
一応この「First Time」がみんなとの初対面な話になります。
こちらに関しては全員やろうと思っているので、気長にお待ちください。(え
金久保先輩は絶対初対面のときから優しいに違いない、と思った結果がこのお話なんですね。
あたしの金久保先輩に対するイメージはこんな感じ!
てか、さんは一体どんだけたくさんの本を持ち出そうとしたんでしょうか……
割と無茶な人かもしれません。(何
最後までお付き合い頂き、ありがとうございました!