「……つーか、あいつら遅せぇなぁ」
今やろうとしてる仕事内容を一通り教えてもらってから、キリのいいところで。
未だ生徒会室に現れない他のメンバーについて、一樹会長がそう漏らした。
「えーと……確か、月ちゃんは部活だよね?」
「ええ、月子だけは連絡来てるんです」
問題なのは他の二人だと言う。
「他の二人――副会長と会計が来るはずなんですが」
それがまだ、姿を現さない。
「遅れる」とか「来れない」なんて場合は月ちゃん同様連絡が入るはずだが、
それも入っていないため、ちゃんと来るはずだ…というのだ。
「しょうがない、俺が直々に迎えに行って……
……ん?」
そんなことを言いつつドアに向かった会長が、何かを見つけたらしい。
不思議そうな声を出した後、かがんで床から何か(小さい箱?)を拾った。
「それ、何?」
「ああ…これ、誉の胃薬ですよ」
「胃薬……?」
「あいつ、あれでけっこう神経質っていうか…
変に気負ったりすると、すぐ胃に来るんで」
確かに、金久保くんイメージアイテム(?)って胃薬だったよね……。
「俺、ちょっとこれ届けてきます」
「弓道場に?」
「はい。
すぐ戻ってくるんで、先生はとりあえずここに居てください」
「ええっ!?」
もしその間に誰か来たら、気まずいんじゃ…!?
そう反論しようとしたときには、既に会長の姿は無かった。
「す、素早い……」
……なんて、感心してる場合じゃない!
ほんとにさ、ここにあたしが一人で居るって怪し……
「……!?」
……なんて思っていたそのとき。
ドアがノックされ、「失礼します」の声と共に誰かが入ってきた。
「やば……!」
どどど、どうしよう……!?
「すみません一樹会長、遅れてしまいま……
…………あれ?」
「あ、あの……」
そこまで言いかけて、こちらに気づいた青空くん。
けど良かった、彼ならまだ授業で数回顔を合わせてるから……
「先生……どうしました?」
「あ、いやぁ、その……」
変にどもりながらも、あたしはここに来た理由を簡単に説明する。
「なるほど、そういうことでしたか」
「うん……急にあたしが居てビックリしたよね。
ごめんなさい」
「いえ……元はと言えば、
あなたを置いていってしまった一樹会長のせいですから」
そう言った青空くんは……
笑顔だったのに何故か怖い感じがしたが、あえて触れないでおいた。
「先生……もし良ければ、僕の仕事内容もご説明しますが」
いかがですか? と問いかけてくれたので、
あたしは「ぜひお願いします」と答えた。
「僕は生徒会副会長を務めています。
副会長と言えば、会長の補佐…というイメージですが」
「うん」
「一樹会長と、会計の……翼君と言うのですが、
この二人が暴走し出すと割と厄介なんです」
なので、結局僕と月子さんで主な作業をすることも少なくないです。
「そうなんだ……
あの、こんな言い方は失礼かもしれないんだけど、
青空くん、お守してるみたいだね」
「ええ、全くその通りですよ。
あの二人も、いい加減それに気づいてくれると助かるのですが」
そう言ってため息をつく青空くん。
どうやら、ゲームで描写があった以外にも色々あるらしい。
「ちなみに、今日やろうと思っていた作業はこれです」
「えーと……今年度の年間行事予定?」
見せてくれた書類のタイトルを読み上げてみる。
「ええ、そうです。
半年分の行事は確定しているのですが、あと残り半年分がまだ仮の状態なので」
それを、色々話し合ったりしてこれから詰めていくらしい。
「そっか……。
そういえばさっき会長に、
『去年一年間の生徒会活動をまとめた』ファイルを少し見せてもらったよ」
「本当ですか?
それはちょうど良かった」
さっき会長がしまったファイルを、青空くんが再び取り出す。
「ちょうどこれを見て、ご説明しようと思っていたんです」
そうして、去年のものと照らし合わせながら今年の行事予定について説明してくれる。
会長の説明も解りづらかったわけじゃないけど、感覚的な説明も多かったからなぁ……
なんだか青空くんの説明がものすごく解りやすく感じる。
そんなことを考えつつ、あたしは彼の丁寧な説明に聞き入った。
「……と、つい説明が長くなってしまいましたね。
先生、退屈じゃないですか?」
「え? そんなことないよ!
青空くんの説明解りやすかったし、それに……
早くこの学校のこと、色々覚えたいから」
「……そうですか」
あたしの言葉に、ふっと優しい笑みを浮かべてくれた気がした。
「あ、そうだ。
質問があるんだけど、いい?」
「ええ、どうぞ」
「その〜、月ちゃんのことなんだけど……」
「月子さんの?」
話の方向が全然違うんだけど、大丈夫かな……
なんて、言っちゃった後じゃ仕方ないことか。
「その……ここの人みんないい人だろうから、大丈夫だと思うんだけど……
月ちゃんは、無理してたりしないかな?」
彼女が所属し活動しているのは生徒会だけじゃない。
弓道部に保健係……見てるこっちが心配になるほど、多くのことをこなしている。
「ここは、ほら……先生方も、男の人ばっかりでしょ?
だからさ、あたしは同じ女なわけだし、少しでも力になってあげたくて」
画面を通してだけどよく知ってたわけだし、大丈夫だろうって解ってはいるんだけど……
いざ手の届く場所に来たとなれば、力になりたいと思わずにはいられないのだ。
「そうですね……
確かに彼女は頑張りすぎるところがありますが、楽しそうに生徒会活動をしています」
少し間を空けて青空くんが答えてくれる。
「僕の見ている限りでは、心配は要らないと思いますよ」
「そっか、良かった……」
まあ、彼女に何かあればみんなすぐ気づくだろうしね。
なんだか、余計なお世話だったかな。
「それにしても……先生は月子さんと仲がいいんですね」
「え?」
「『月ちゃん』と呼んでいましたし」
「あ、なるほど……」
そういうことか。
「月子さんと話をするときも、彼女があなたのことを『先生』と呼んでいたので」
「そっか……
……って、あたしの話?」
ま、まさか悪口とか……
「ふふ……心配しなくても、悪い話題ではないですよ」
「そ、そうなんだ……って、そんな顔に出てた?」
「ええ……ふふ」
って、青空くん、(この人にしては)めちゃくちゃ笑ってない!?
「先生の授業は面白いですね、という話を、よく月子さんとしています」
「そっか……
でも確かに、『なんとかして興味を持ってもらえるような授業を』って思ってるから
そう言ってもらえるのは嬉しいな」
自分なりに色々調べて授業計画を練っているつもりだから、
それが伝わっているようで素直に嬉しかった。
「先生……
あなたが月子さんを心配してくださっているような感覚で、
彼女もあなたのことを頼れる存在だと思っています」
だから、どうか、引き続き彼女を見守ってあげてください。
さっきの笑顔からは一転して、すごく真剣な顔をして青空くんが言う。
「うん……
もともとそのつもりでしたが、あなたの言うようにこれからも彼女を見守っていきます」
そんな彼に応えるように、あたしもその瞳をまっすぐ見て答えた。
「っ……
ありがとう、ございます……先生」
「うん」
青空くんが一瞬言葉に詰まったような気がしたけど……
次の瞬間には既にいつもの笑顔に戻っていたので、あまり追及しないことにした。
First Time〜Ver.Virgo〜
(あまりにもあなたの瞳が真っ直ぐだったから、すぐに言葉が出てこなかった)
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First Timeの青空くんバージョンでした!
とりあえず、この二人は「月ちゃんを見守り隊」とか
作ってなんかいろいろ案じていればいいと思う(笑)
青空くんルートの犬飼くんとの絡みとかも、やってみたいので
後で何かしら書こう!うん!(意気込みだけはいい