「先生、ちょっと相談があるんですが……」

          「相談? うん、いいよ。どうしたの?」


          HRが終わった後、職員室に戻ろうとしていたところに
          月ちゃんからそんなことを言われた。

          月ちゃんは新米教師のあたしを何かと助けてくれるし、
          ぜひとも力になりたいと思ったんだけど……







          「あ、あの……
           できれば、人の居ないところで聞いてほしいんです」


          申し訳なさそうにそう言った月ちゃん。

          ――そっか、そうだよね。
          悩み相談って、普通は聞かれたくないよね。


          月ちゃんの言葉でそう思ったあたしは、国語科の資料室に行くことを提案し
          ちょっと用があるという彼女と、20分後に待ち合わせすることした。













































          「そろそろかな?」


          時計に目をやると、まもなく月ちゃんと約束した時間。
          そろそろ来る頃かな、と思っていると……案の定。

          ドアがノックされ、「失礼します」という言葉とともに月ちゃんが入ってきた。







          「いらっしゃい、月ちゃ……
           …………あれ?」


          彼女を迎え入れようとそばに寄ると、そこにはもう一人、立っていた。







          「哉太……?」


          その「もう一人」とは、哉太だったのだ。
          てっきり月ちゃんの悩み相談だと思っていたあたしは、ちょっとだけ混乱する。















          「あ、あの、先生!
           実は、相談ってゆうのが、錫也のことなんです」


          たぶん、あたしが混乱しているのが解ったんだろう。
          月ちゃんは慌てて補足してくれた。







          「あ、なるほど……」


          だから哉太も一緒だったわけね。
          納得、納得。









          「でも、錫也のことで相談って……?」


          もしかして、錫也に何かあったのかな。
          それとも、最近様子がおかしいとか?

          けど、そういう感じも見られないし……。















          「なんて顔してんだよ、先生。
           大丈夫だって、錫也になんかあったわけじゃねぇから」


          哉太が苦笑いしながらそう言った。

          それを聞いて、あたしはちょっと安心する。







          「そ、そうなんだ……
           じゃあ、錫也のことで相談ってどうゆうことなの?」


          あたしがもう一度そう言うと、月ちゃんが説明を始めてくれた。















          「実は……もう少しすると、錫也の誕生日なんです」

          「えっ、そうなの?いつ?」

          「7月1日だよ、先生」


          7月1日とな!?
          今日が6月26日だから、ええと……5日後!?


          ……ああ、でも、そっか。
          蟹座なんだから、そろそろ誕生日がきてもおかしくないんだよね……。

          あたしはそんなことを頭の片隅で考えながら、月ちゃんと哉太の説明に耳を傾ける。







          「先生の考えている通り、もうすぐなんです。
           それで、みんなでお祝いしたいなって思ったんですが……」


          先生も一緒にお祝いしてくれませんか、と、月ちゃんは言う。















          「え、あたしも……?」


          そりゃあ、錫也の誕生日ならお祝いしてあげたいけど……







          「でも、いいの?
           月ちゃんと哉太でいつもお祝いしてるんじゃ……」


          そこにあたしが入ってってのいいのかな、と、ちょっと不安になる。










          「もちろんですよ!
           みんなでお祝いした方が、錫也だって嬉しいと思いますし」


          そうかなぁ、と、いまいち踏み切れないでいるあたしに、哉太が続ける。







          「それに先生、錫也のこと好きだろ?」

          「えっ……!?」


          哉太のその言葉で、あたしは変に動揺してしまった。















          「そ、それは……!」


          てか、なんでバレてんだろ……!?

          そんなあたしの心を叫びが解ったのか、哉太は笑いながら言う。







          「隠してるつもりだったかもしんねぇけど、けっこう気づいてる奴いるぜ?」

          「う、嘘! 月ちゃんも!?」

          「あ、はい……
           それに確か、星月先生も気づいてる風なことを言っていたような……」


          ええっ! 琥太郎先生にまで!?


          動揺しまくるあたしを見て、哉太はますます笑う。

          対して月ちゃんは、おろおろしながらもあたしを宥めてくれた。















          「あの、先生!
           それで……ぜひ一緒に錫也の誕生日をお祝いしてほしいんです」


          横道にそれかかったところで、月ちゃんが本題に戻してくれた。
          未だに迷いはあったあたしだったけど、
          月ちゃんの真剣な瞳に断ることができず「うん」と答えた。










          「ありがとうございます、先生!」

          「そうと決まったら、いろいろ準備しねぇとな!」


          盛り上がる月ちゃんと哉太の横であたしは、
          次に琥太郎先生と会うとき気まずいな……なんて、また横道にそれたことを考えていた。






































          「ええっと……これがいいかな」


          錫也の誕生日前日――6月30日。
          土曜日ということもあり学校もお休みだったので、
          それを利用してあたしは街まで買い物に来ていた。

          買うのはもちろん……錫也へのプレゼント。







          「なんかありきたりすぎるかな?
           でもなぁ……」


          錫也にあげるなら、これけっこういいと思うんだけど……。










          「月ちゃんと哉太は、もう用意したって言ってたし」


          いつの間にって感じなんだけど、そこは、まあね。
          それより、あたしもちゃんとプレゼント用意しないと!

          意気込みながらいろいろ検討してみたんだけど、
          あたしは結局、一番最初に手に取ったものにすることにした。















          「喜んでもらえるかな……」


          楽しみだけど、ちょっと不安。
          二つの感情が入り混じったような微妙な心境で、あたしは当日を迎えた。










































          「みんな集まりましたね」


          翌日、あたしたちは早い時間から食堂に集合していた。
          もちろん、錫也の誕生日をお祝いするためで、
          この場所も貸してもらえるよう事前に許可を取っていた。







          「お料理とか慣れないこともありますけど、
           頑張って準備しましょう!」

          「うん、そうだね!」

          「おう!」


          月ちゃんの言葉で、あたしたちはさっそく準備に取り掛かった。























          ――そして数時間後。

          あれから食堂の一角をパーティ仕様にして飾り付けたり
          どうやってお祝いするか流れを確認し合ったり、
          お昼すぎてからは、みんなでお料理したり……

          でも心配していたほどのことはなくて、割と滞りなく準備は進んでいった。



          そして、あとは錫也が来るのを待つだけ。

          月ちゃんが食堂に来るよう伝えてくれたってことだから、
          もうすぐ来るだろう。










          「な、なんか、あたしちょっと緊張してきた……」

          「なんでだよ」

          「だ、だって……!」


          そもそも、やっぱりあたしが一緒にお祝いするの、変じゃないかな?
          錫也、嫌だと思ったりしないかな……!?


















          「本当、先生ってすぐ顔に出るよな」

          「う、うん……
           だけど、そんな心配いらないよね」

          「そうだな。
           錫也だって、誰よりも先生に祝ってほしいだろうよ」




















          そうこうしているうちに、待っていた人が姿を現した。










          「お待たせ、月子……
           ……あれ? 哉太に、先生まで……」


          何が何だか、という表情の錫也に向かって、
          あたしたちは用意していたクラッカーを一斉に鳴らす。







          「「「錫也、お誕生日おめでとう!!!」」」


          続いてそう言うと、錫也は一瞬ぽかんとしたあと、
          ようやく状況がつかめたのか、ちょっと照れながら「ありがとう」と言った。















          「お料理もあるんだよ、錫也。みんなで食べよう」

          「……お前が作ったのか?」

          「…………哉太と先生が」


          そっか、と明らかに錫也がほっとしたような表情を見せたのは……
          言わないでおこう。


          それからは、みんなでお料理を食べたりおしゃべりしたりして過ごした。



































          「あ、そうだ。
           ケーキ食べようよ」

          「あ……そうですよね!」

          「そういえば忘れてたな」


          あたしの言葉で二人も思い出したらしく、ひとまず空いている食器を片づけた。
          その後あたしは一人キッチンに残り、紅茶を入れることに。

          ちなみにこの紅茶は青空くんが教えてくれたもので、あたしも好きなものだったりする。















          「先生、手伝いますよ」

          「え……?」


          その言葉に振り返ると、錫也が立っていた。






          「え、いいよ!
           今日は主役なんだから、ゆっくりしてて」


          そう言ったんだけど、なんだかずっと何もしないっていうのが気になるみたいで。
          申し訳ないと思いつつも、せっかくだから手伝ってもらうことにした。










          「……あれ?そういえば月ちゃんと哉太は?」

          「二人なら、向こうで一生懸命ケーキにろうそく立ててますよ」


          錫也が指し示す方を見てみると、「そこじゃおかしい」「こっちの方がいい」
          と言いながら、懸命にろうそくを立てている二人が居た。







          「なんか可愛いね」

          「そうですね」


          その姿が微笑ましくて、錫也と笑い合った。















          「あの……先生」

          「何?」

          「俺、すごく欲しいものがあるんです」

          「えっ、本当!?」


          どうしよう、もうプレゼント買っちゃったよ……!

          不安に思いながら錫也の方を見ると、ふっと笑った。







          「大丈夫ですよ、今ここで用意できますから」


          あ、そうなんだ……
          でも、今ここで用意できるものって一体……?

          考え込んでいたためかうつむき気味だった顔を、再び上げようとしたとき……










          「……!」


          唇に、温かいぬくもり。


          一瞬頭が真っ白になったけれど、ようやく状況がつかめてきて……















          「……!!??」


          あたしは声にならない叫びを上げた。

          そんなあたしを真剣な瞳で見つめ、錫也は言う。







          「俺は、先生が欲しいんです」

          「あ、……」


          なんて返そうか解らず、口をぱくぱくさせるしかないあたし。
          だけど、錫也は構わず続ける。















          「先生を、俺にください」

          「あ、……は、はい…………」


          そう言った錫也が、すごく優しい顔をしていて。
          胸がいっぱいになったあたしは、そう答えるだけで精一杯だった。










































Happy Birthday〜Ver.Cancer〜







(なんだか、あたしがプレゼントをもらった気分……)


























































          +++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

            そんなわけで(?)錫也の誕生日祝いでした!いかがでしたか?

            スタスカは基本みんな好きなんですが、やっぱり錫也が一番だなぁと思います。うん。
            旦那シリーズの錫也が最高だった。あんな旦那を希望する。(何

            なんてゆうか、もう全てが好みなんですよ
            料理がうまいところとか、あの話し方もいいし、声も!
            好きすぎる。


            そういうわけなので(?)、なんか割と話が長くなってしまいました。
            愛ゆえですね……ということにしといてください。(え

            とにかく、読んでくださってありがとうございました!
            もっとスタスカドリも挑戦していきたいです!