『先生を、俺にください』


          月ちゃんや哉太と一緒に開いた誕生パーティで、錫也にそう言われ……
          それからあたしたちは(もちろん内密に)付き合いだしたのだった。




















          ――7月7日、土曜日。

          錫也に告白されて付き合いだしたあの日から、数日が経っていた。
          「教師と生徒」という関係上おおやけには出来ないけれど、
          ほぼ毎日メールしたり電話したりして楽しい日々を過ごしていた。



          まあ、あたしは教室とかで話せるだけで嬉しいんだけどさ……
          ……なんて言うのは(本当のことだけど)ちょっと恥ずかしいな…!










          「……って、違う違う!
           そうじゃなくて、授業の準備をしないとだよ」


          確かに錫也のことを考えている時間は幸せだけど、
          今はやるべきことがあるんだから。

          すぐ横道にそれてしまうのはあたしの悪い癖だな、と思いながら、
          図書館で借りてきた数冊の本を一つずつ読みだした。















          「来週の授業から、新しいところに入るんだもんね」


          しっかり研究して、楽しいと思ってもらえる授業にしたいな。







          「明日も日曜だから休みだけど、早めにやって何回も確認するのもいいかも」


          最近ようやく自覚してきたけれど、割と自分は心配性だから。
          石橋を叩いて渡る……とゆうか叩いて割ってしまうくらいの
          備えはしておいても差し支えないだろう。

          ……いや、実際に割っちゃったら大変だけどさ。
          例えですよ、例え。


          また横道にそれてしまいそうだった頭を再び戻し、
          あたしは授業の準備に取り掛かった。







































          「…………と、こんな感じで大丈夫かな」


          一通り読み込んで段落ごとの要点も簡潔にまとめたし、
          みんなにも理解してもらえるよう、まめ知識みたいなものも用意したし。







          「とりあえず、つまんなくて眠くなることはないと思うんだけど……」


          まあ、でも実際自分も学生の頃は、授業中けっこう寝ちゃってたしな。
          (もちろん好きな授業はちゃんと聞いてたけど)
          どうしたら興味をもって取り組んでもらえるか、もう少し詰めた方がいいのかも。


          そうは思いながらも、一段落いったとなると自然と集中力も切れてしまうもので。
          これ以上続けても成果は上がらないだろう、と思ったあたしは、
          少し休憩することにした。















          「……あれ?」


          お茶でも飲もうかとキッチンに向かったとき。
          ふと壁に掛けてあるカレンダーに目がいった。







          「あ、そっか……今日は7月7日――七夕だった」


          7月7日だということは朝から理解していたんだけど、
          イコール七夕だっていうことをすっかり忘れていたのだ。

          七夕っていったら、天の川。
          仮にも星について学ぶ学園の教師をしているのに、
          それを忘れてたっていうのも問題かも……。



          陽日先生にバレたら怒られそうだな、なんてことを考えながら、
          あたしは窓の外に目を移した。















          「今年は晴れてるんだ……」


          七夕と言えば、毎年あまり天気が良くないって言われてるけど。
          今年はそうでもないみたいだ。

          空は晴れていて、光り輝く星もたくさん見える。







          「織姫と彦星も、会えたのかな……」


          きっと会えたんだろうな。















          「……あれ?
           そういえばここ、七夕のイベントがあったような……」


          七夕と言えば笹の葉に短冊でしょ。
          確か、学園のどこかに笹があって、短冊にお願いを書いて飾れたような……。

          曖昧な記憶を手繰り寄せてみたけれど、「どこか」というのが思い出せなかった。
          一度考え始めてしまうと妙に気になるもので、
          どうしても知りたくなってしまったあたしは、ケータイを手に取った。







          「…………あ、もしもし、錫也?
           ですけど……」


          電話を掛けた先は錫也。
          七夕イベントのことを聞こうと掛けてみたのだ。















          「今、大丈夫?」

          『ああ、大丈夫だよ。どうしたんだ?』


          その返事にほっとしながら、あたしは本題に入る。


          ……あ、ちなみにだけど、付き合いだしてから二人のときは、
          錫也には敬語をやめてもらっている。
          (ついでに名前も呼び捨てなんだよね)










          「あの……今日って七夕でしょ?
           学園で何かイベント事ってあるかなぁ、って思って……」


          あたしはあくまで「今年赴任してきた新米教師」だから、
          あんまり核心についたことを言ったら怪しいかも。

          そんなことを考えた上での、曖昧な質問だった。







          『ああ……そういえば、今日は7日だったな』

          「忘れてたの?」

          『うん、忘れてたよ』


          そっか、錫也も忘れてたんだ……
          なんかお揃いみたいでちょっと嬉しいかも。















          『なんで笑ってるんだ?』


          こっそり笑ったつもりだったんだけど、錫也には聞こえてしまったらしい。
          不思議そうな声で問いかけてきた。







          「なんでもないよ」


          そう答えたら、納得はしていないものの
          それ以上問い詰めるようなことはしてこなかった。















          『ああ、それで……七夕のことだけどさ』

          「うん」

          『毎年、中庭に笹が置かれるんだ。
           それで、短冊に願いを書いて自由に飾れるんだよ』

          「そっかぁ……」


          なるほど、場所は中庭だったのね!

          知りたかったことが解って、あたしはすごくすっきりした。







          『気になるんだったら、今夜行ってみるか?』

          「え……中庭に?」


          「それ以外に無いだろ」と言う錫也は、きっと苦笑いしてるんだろうな。

          電話越しでも、なんとなくそれが解った。










          『どうする?』

          「行きたい!!」


          もう一度優しく問いかけてくれた錫也に、あたしは当然という風に答えを返す。
          そんなあたしに対し、錫也も「決まりだな」と乗り気な感じで答えてくれた。















          「あ、……でも、大丈夫かな?
           誰かに見られたりとか……」


          付き合っているとはいえ、(何度も言うようだけど)仮にも教師と生徒だ。
          誰かに見られたらまずいと思うんだけど……。







          『時間を遅くすれば平気じゃないかな……
           門限もあるから、7時くらいでさ』

          「うーん……そうだね、それなら大丈夫かな」


          けど、念のため警戒はしておこう……!

          変な方向に意気込んだあたしは、「また後で」と告げて錫也との電話を切った。


















































          「ご、ごめん、お待たせ!」


          まだ約束の5分前だったけれど、中庭にはすでに錫也の姿があった。







          「俺も今来たばっかりだから大丈夫だよ」


          慌てて謝るあたしに、優しくそう言ってくれた。










          「それにしても、すごい荷物なんだな」

          「あ、うん、その……
           休みの日に学校来てるのが怪しく思われないように、
           授業の準備してる風な感じでいろいろ持ってきたんだけど」

          「……本当にお前は用意周到だよな」

          「ただの心配性と言った方が正しいかも……あはは……」


          目を丸くして驚く錫也に、あたしは苦笑まじりに返したのだった。















          「……と、じゃあ、せっかくだから短冊に書いてみような」

          「うん!」


          あたしは錫也の後に続き、笹が飾ってある場所に近づいた。







          「これに書いていいの?」

          「ああ、そうだよ。
           ほら、ペンはこれを使いなさい」

          「はーい」


          今ちょっと「おかんモード」だな、とこっそり笑いながら、
          あたしは短冊にペンを走らせる。

          ここに来るまでは何をお願いしようか正直悩んでたんだけど、
          いざこの時になったら意外にもすらすらと書くことが出来た。















          「なんて書いたんだ?」

          「知りたい?」

          「うーん……そんなにもったいぶられるとな」


          錫也もすでに願い事を書き終えたらしく、
          そう言いながらペンを元の場所に戻している。







          「じゃあ、いっせーので見せっこしようよ!」

          「解った。じゃあ、いくぞ?」

          「いっせーの!」


          自分が書いた短冊を、お互い相手に見えるように掲げる。










          「「あ、……」」


          あたしたちは、一瞬言葉につまってしまった。
          何故ならば、まるっきり同じことを書いていたから。















          「何これ……お揃い?」

          「そうみたいだな」


          なんだかおかしくて、ひとしきり笑い合った。

          そして少し間を空けて、錫也は言う。















          「お前のその願いを叶えるためには、
           他でもないお前が、俺のそばに居てくれないとな」

          「その言葉、そっくりそのまま返すよ!」


          あたしも、同じことを考えていたよ。















          「……ずっと、そばに居てくれな」

          「うん……ずっと、そばに居る……」


          錫也も離れちゃ駄目なんだよ、と続けると、
          「そうだな」とまたあの優しい笑みを浮かべて言ってくれた。

























          『 錫也がずっと幸せでいられますように 』


          『 がずっと幸せでいられますように 』





































































The Star Festival
〜Ver. Cancer〜







(星に、願うよ。)






























































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            またスタスカやってしまいました!(何
            そしてまたしても錫也です……好きすぎる……!

            七夕だったんで、ゲームを思い出しながら書いてみました。
            あやふやなので、ちょっと違うところがあるかもしれません……
            夏はまだポータブルやってないので(え
            記憶が曖昧なんですよ^^;
            手繰り寄せていたのはさんではなく、むしろ千夜です。(何

            てか、本当にスタスカ抜きにしても、星が好きです。あたし。
            もう一度大学に通うならば星を勉強したいですね。(もしくは日本史)
            
            つーか、いっそのこと星月学園に入れてください。頼むから。(何