あたしにとって特別な、唯一無二のひと。

          そのひとは何事にも熱心で、まさに文武両道。
          だからというのもあって会える時間は限られているけれど、
          その分会えるときは本当に嬉しくて、約束の時間がすごく待ち遠しい。

          いつもはあまり表情を崩さないんだけど、二人で会うときは
          毎回すごく優しい顔をして出迎えてくれる。
          「蠍」のイメージは全くない、あたしの大好きな笑顔――……





























          『先生、お疲れ様です。
           今日は部活が休みなので、放課後、会えないでしょうか』


          そのメールが届いたのは、お昼休みのこと。
          職員室でお昼を食べていたあたしは、周りの先生の目を気にしつつ
          返信画面を開いて文字を打った。







          『うん、あたしも会いたい!
           いつものところでいいかな?
           あんまり早い時間だと見つかりやすいかと思うので、
           6時半くらいでどうでしょう??』


          送信ボタンを押して、少しした後。
          さらに返信が来た。










          『そのくらいの時間がいいかと思います。
           では、6時半にいつもの場所で。

           HRからかなり時間がありますが、先生は大丈夫ですか?』





          『あたしは、明日の授業の準備をしたいから、ちょうどいいよ。
           宮地くんこそ、部活が無いんだったら暇じゃない?』



          『俺もちょうど終わらせたい課題があるので、時間は潰せます。
           心配いりません』





          『そっか、解った!
           じゃあ、また放課後にね!』


          次の返信は「はい」の二文字だけだったけれど、なんだか自然と笑みがこぼれた。
          こんなちょっとしたやり取りで嬉しくなれるのは、
          やっぱり相手が特別な人だから……なのかな。










          「……なんてね!」


          なんだか自分で言って(考えて)照れてしまった。
          














          「先生、何が『なんてね』なんだ?」

          「えっ!? あ、いえ……!
           別に何でもないですよ!?」


          向かいの席に座ってお昼を食べていた陽日先生に、つっこまれてしまった。
          本当のことを言うわけにもいかず、あたしは適当に陽日先生をかわす。

          すると、あまり興味がなかったのか、それ以上追及してくることはなかった。










          「それにしても……」


          今日の放課後、二人で会えるんだもんね。
          楽しみだな!


          そのためにも、午後の授業をいつも以上に頑張らないと。
          お昼を食べ終わったら、もう一度授業の流れを確認しておこう。

          そんなことを考えつつ、陽日先生とクラスについて話しながらお昼を済ませた。











































          「…………あ、もうこんな時間……」


          HRが終わってしばらくした後。
          明日の授業の流れを一通り確認し終わったとき、ふと時計に目をやると、
          約束の30分前を指していた。







          「今から行ったらちょっと早いかな?」


          でも、あたしも毎回早めに行ってるんだけど、
          毎回宮地くんの方が先に来てるんだよね……







          「なんか、それも悔しいとゆうか……」


          たまには、先に来てて迎える側になるのもいいんじゃないかな。

          そういう結論に至ったあたしは、後片付けをして屋上庭園に足を向けた。





































          「……さすがに30分前じゃ早いよね」


          目的の人の姿がないと解ると、ちょっと残念な気持ちと
          先に来てやったぞという妙な達成感が入り混じっていた。







          「宮地くん、びっくりするかなぁ」


          もともとそういう性格なんだろうけれど、宮地くんはあんまり表情を崩さないしね。
          びっくりする顔が見れるかもしれないと思うと、変にわくわくしてくる。

          そうしてにやけそうになるのをなんとかこらえつつ、あたしは周りを見回す。


          ……どうやら、他に人は居ないみたいだ。















          「だったら、今のうちに登っちゃおうかな」


          見られてたらまずいから、今のうちに……ね。

          あたしは目の前にある梯子に手をかけ、地を蹴った。










































          梯子を登ってからまもなく、屋上庭園の扉が開かれた。
          もしかして……と思いながらこっそりのぞいてみると、
          案の定そこには待っていた人の姿があった。

          あたしと同じく周りを警戒しているのか、はたまたあたしを捜しているのか。
          (たぶんどっちの意味もあるんだろうけれど、)宮地くんは同じように辺りを見回している。




          あたしももう一度周りを確認し、誰も居ないことが解ったので口を開いた。

          










          「宮地くん、いらっしゃい!」

          「……!」


          目を見開き、驚いた顔をして、先生……と、つぶやいた。
          最初はぽかんとしていたんだけど、何故かだんだん不機嫌な顔になっていって。

          そして無言のまま、宮地くんは梯子を登ってくる。
          あたしはたぶん自分が何かしたんだろうな、というのがなんとなく解っていたので、
          冷や汗を流しながら彼の到着を待った。















          「あ、あの……ごめんなさい」


          正直よく解らなかったけれど、宮地くんがあたしの行動で怒っているのは事実だ。
          だから、とにかく謝った。







          「…………先生は、なんで俺が怒っているか解ってるんですか?」


          あたしは無言で首を振った。
          すると、居たたまれなくなってうつむいていたあたしの頭上から、ため息がこぼれた。


          ――どうしよう。
          宮地くんは、あたしに呆れちゃったのかな。
          何か、そんなにいけないことをしちゃったのかな……。

          だんだん心配になってきて、そんなことを考え始める。















          「先生……俺は怒っているわけじゃありません。
           ただ、あなたが心配だったから」

           
          だけど、あたしの想いとは裏腹に、次に聞こえた声はとても優しくて。
          その声に少しだけ安心して見上げてみると、同じように優しい顔をした宮地くんが居た。










          「この梯子は、幅が狭くて危険です。
           だから俺は、先生一人で登ってほしくなかった」

          「…………」

          「だから俺はいつも先生より先に来て、
           梯子を登るあなたの手を引いていたんです」


          あなたが、危ない目に遭わないようにと。

          俺が、あなたを守れるようにと。



          そう言いながら、宮地くんはあたしの左頬に手を添える。










          「宮地、くん…………」


          その手のぬくもりは心地よかったけれど、宮地くんがあまりにも真剣で。
          ちょっと照れくさくなってしまったあたしは、思わずまた下を向いてしまった。












          「先生……?」


          そんなあたしを心配してくれたのか、宮地くんはのぞき込んでくるようにしてあたしを見る。
          その優しさがすごく嬉しかったから、頑張って目線を合わせて言った。







          「宮地くん、ごめんなさい……
           それから……ありがとう」


          解ってくれればいいんです、と、答えた。




















          「…………でも、あたしもたまには先に来て、宮地くんを迎えてあげたかった」


          だから早めに来て、一人で梯子を登ったの。

          そう言うと、宮地くんはさっきみたいに一瞬ぽかんとしていたものの、
          すぐ我に返って今度は困ったように笑った。







          「本当に……先生には敵わないですね」

          「え?そう……かなぁ」

          「そうですよ」


          ――ねえ、宮地くん。
          あたしはあなたの優しい顔も好きだけれど、やっぱりその困ったように笑う顔が好き。
          だって、あなたらしい気がするから。

          そんなことを言ったら反応に困ってしまうだろうから、
          心の中にそっとしまっておくことにした。















          「宮地くん……今日もあたしの話、聞いてくれる?」

          「ええ、もちろんです」

          「ありがとう!今日はね、面白いことがたくさんあったんだ」


          あたしが楽しい、嬉しいと感じたこと、あなたにも知ってほしいから。







          「それと、今日は宮地くんの話も聞かせてね」

          「む……あまり話すのは得意じゃないんですが」


          全力は尽くします、なんて真顔で言うから、
          あたしは思わず笑ってしまった。


















































The Secret Spot for Scorpio






(ふたりの秘密の場所で 今日も他愛のない話を)


































































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            またスタスカやっちゃいましたよー!(何
            今回は宮地でした。
            Afterやった関係で宮地がすごくきてます。格好いい。

            個人的には、あの髪をくしゃってやって困ったように笑うのが好きです。
            作中にも出しましたが、宮地らしい気がする。なんとなく。

            てか、宮地はおいしい設定がありすぎますよね。
            炭酸で眠くなるとか、クリーム好きだとか……
            何それ!そんなにネタにされたいの!? みたいな。(違

            炭酸ネタ、いいかもしれませんね。今度挑戦します。


            ところで、二人の秘密の場所とは、屋上庭園なんですが……
            なんて言うんですか、あの……
            よく(?)漫画とかで出てくる、あのタンク?が置いてあるところです。

            屋上の入り口の上に、こう、梯子があって登れたりするじゃないですか。
            タンクが置いてあるところに。
            あれをイメージして書いていたんですが……
            うまく表現できなくて力不足を痛感しているところであります。
            すみません……!(土下座

            と、とにかく、さんと宮地はいつもそこで秘密の逢瀬を楽しんでいるというわけです。
            人の目につかない場所を選んでいるのは、さんの用意周到さを表しています。


            こんなお話でしたが、最後までお付き合い頂きありがとうございました!