『じゃあ……またね』
『……ああ』
――あの別れから、一年が経って。
久しぶりに、この町に帰ってきた。
オレが、中学時代を過ごした場所だ。
「……チッ」
電車を降りると、思いのほか風が冷たくて。
無意識に舌打ちをしてしまった。
「……ホントに、久しぶりだな」
懐かしい、空の匂いが広がっている。
『一年後に、また……ここで会おうね』
『……ああ』
イタリアへ旅立ってから、一年が経った今日。
あの日の約束を果たすため、オレは帰ってきたんだ。
「……あいつは、ちゃんと来るんだろうな」
そう言いながらも……
あいつが来ないわけはないという、そんな確信はあった。
「……ここも懐かしいな」
いつも一緒に、くだらねぇ話をしていた砂浜。
一年後、そこでまた会おうと約束をした。
その場所は、この小さな駅のホームからもよく見える。
「まだ、約束の時間には早いな」
それは分かっているのに、
気持ちが先走ってあいつの姿を探してしまった。
『隼人……気をつけてね』
『ああ、お前もな』
『うん……』
あいつが涙をこらえていたのはすぐに気づいたし、
そのときの顔を今でも鮮明に覚えている。
『……我慢するくらいなら、泣けばいいだろ』
生憎やさしい言葉など持ち合わせていなかったオレは、
そう言うのが精いっぱいだった。
そんなオレに、あいつは必死に笑顔を作って……
『ううん……涙はみせない』
そう、答えた。
『隼人、約束だよ。
一年後に、また……ここで会おうね』
『……ああ』
最後まで泣くのを我慢していたあいつは、
ただただ手を振っていた。
「さよなら」は言わず、代わりの言葉を口にする。
『じゃあ、またね……!』
『ああ……』
オレは結局ろくなことも言えず……
手を振り返すだけだった。
「早く……来てくれ」
――……
「ずいぶん寒くなってきたなぁ……」
隼人が旅立ってから一年。
今日は、あのとき交わした約束を果たす日だ。
『オレはイタリアへ行く』
隼人は、自分の夢に向かってどんどん進んでいった。
だけど、私はというと……
何がしたいのか解らないままだ。
『はあ……』
少し錆びている、大好きなギター。
それを抱えて、今もまだ冴えない日々を過ごしている。
だけどね……私、思うんだ
きっと、誰かのために私たちは生きているんだ。
あなたは、綱吉くんのためにイタリアへ。
私は……
「私は……」
私がここに、あなたの帰ってくる場所を作っておくよ。
あなたのために、この場所で生きているから。
だから、きっと……また会おうね。
『じゃあ、またね……!』
『ああ……』
「さよなら」は言わない。
だって、また会えるのだから。
夕焼けに消えていく隼人を見つめながら、
私はただただ手を振っていた。
「さてと……そろそろ行かないとね」
あの場所に、隼人は来てくれるだろうか――……
「…………」
波が穏やかに揺れている。
駅を出て砂浜のほうへ移動したオレは、
そこであいつを待っていた。
「もう少しか……」
もう少しであいつに会える。
この時計の針が、12を指したときに……
「……けど、あいつはホントに来るのか?」
一年なんてあっという間だったが、
短いようでとても長い時間だ。
もうオレのことなんて、どうでもいいかもしれない……
「もし、そうだとしても」
あいつが来るまで、ちゃんと待っていよう。
たったひとり、オレが信じた女だ。
あいつは、絶対に来る――……
「もう少し、だね」
あの角を曲がれば、約束の場所はすぐそこだ。
「……だけど、隼人は本当に来てくれるかな?」
一年なんてあっという間だったけど、
短いようでとても長い時間だ。
もう私のことなんか、どうでもいいかもしれない……
「もし、そうだとしても」
まだ来ていなかったとしても、ちゃんと待っていよう。
たったひとり、私が信じたひとだ。
隼人は、絶対に来てくれる――……
期待と不安が入り混じったまま、オレは待った。
期待と不安が入り混じったまま、私は歩みを進めた。
「隼人……」
約束の場所で、すぐに見つけたのだ。
私が、ずっと会いたかったひとの姿を。
「……」
人の気配がして、振り向いた先に見つけたんだ。
オレが、ずっと会いたかった女の姿を。
そしてまた……
あのときと同じように、お互い手を振った。
I remember you
(君と交わした あの約束を果たすために)
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サイト1周年記念企画の第5弾でした。
曲に沿って書いていたのは分かっていたのですが、
ものすごくフワフワしていたので
修正してもフワフワしたままなのは否めません。
まあ、曲リスペクトすると毎回そうなりますね……。
二人は海沿いの町の出身だったり、
獄寺がなぜかイタリアに行ったりして捏造が多めです。