ちん〜」

「あっ、あーちゃん!」


待ち合わせ場所に着いて少しすると、
背後から声を掛けられた。

振り返ってみると、予想通りあーちゃんの姿がある。





「久しぶりだね、元気にしてた?」

「まあね〜。
 てゆーか、ときどき連絡取り合ってるから
 だいたい状況しってるでしょ〜」

「それはそうなんだけど……」


でも、直接会って顔を見たら、
解ってても聞きたくなるってゆうか……。





「……まぁ確かに電話だと声だけだし、
 ちんの元気そうな顔みたらホッとしたけど〜……」


なんて言いながら最後のほうは口ごもって、
おまけにそっぽを向いてしまった。






「……ありがとう、あーちゃん」

「べ、別に〜……」


たぶん、これは照れ隠しなんだろうな。
それが解ったあたしは、素直にお礼を伝えた。










「じゃあ、そろそろ行こっか」

「おっけ〜」























「……あっ、あのお店だよ、あーちゃん!」


――数十分後。
あたしたちは、とある駅と隣接している地下街に来ていた。

ここにはお土産屋さんはもちろん、お惣菜が売っていたり
雑貨屋さんや本屋さんもあり、洋服も買えるし……

おまけに食事するところまであって、
いつも混み合っている人気の場所なのだ。





「うへ〜、人がいっぱい〜……」

「土曜日だから、お休みの人が多いのかもね」


うんざりした顔をするあーちゃんを、宥めつつ……
あたしは、先ほど見つけた目的のお店へと歩みを進めようとする。





「あーちゃん、迷子にならないでね?」

「ちょっと〜、子ども扱いしないでよね〜。
 そもそも、ちんのほうがちっちゃくて紛れそうなんだけど」

「あっ、でもあーちゃん背が高いから、
 もし人ごみに紛れちゃってもすぐ見つかるね!」

「ってちん、オレの話し聞いてないでしょ〜?」


なんか、あーちゃんが言ってる気がするけど……

いつまでもここに突っ立ってるわけにもいかないし、
とりあえずあのお店に行かないと!










「これから行くとこ、
 あの看板がきらきらしてるとこでしょ?」

「うん」

「じゃあオレが先に行くから、
 ちんは後ろからついてきて〜」


そう言ったあーちゃんは、
あたしの返事も待たずさっさと歩き出してしまう。





「ま、待って、あーちゃん……!」


あ……あーちゃんの後ろを歩いてるから、
人ごみをうまい具合に避けて歩けてる……





「そっか、だから先に行ってくれたんだ……」


マイペースなイメージで見られがちだけど、
実はこうやっていつも気遣ってくれるんだよね……。

あーちゃんのそういうところ好きだし、尊敬できるなぁ。










「うぅ……」


でも、いくら先導しててくれてても、
あまりの人の多さに離されちゃいそうだな……

ちょっとだけ、コートの裾とか掴んでてもいいかな……?





「…………」

「あっ……ごめんね!
 その、離されちゃいそうだったから、つい……!」


こっそりコートの裾を掴むと、それに気づいたらしいあーちゃんが
ふいに立ち止まってこちらを見た。

断りもなしにやったその行動が気に食わなかったのかと思い、
あたしは慌てて謝るけれど。










「……それでちんがはぐれないなら、
 別にそのままでいいよ〜」

「えっ……いいの?」

「うん」


けれど、あーちゃんはそれだけ言って再び歩き出した。
心なしか、さっきより歩調を緩めてくれている気がする。





「……そっか」


怒ったわけじゃ、なかったんだ。





「良かった……」


あたしは「ありがとう」の意味を込めて、
あーちゃんの服の裾を、ぎゅっと握り直した。




















「わぁ……見たことないお菓子、いっぱいあるね!」


あーちゃんに先導してもらい入った目的地は、
珍しいお菓子をいくつも取り扱っているお店だった。

国内のもあるし、パッと見た感じ、外国のも置いてあるみたい。





「どれにしよっかな〜」

「迷っちゃうよね、うーん……」


甘いものと、しょっぱい系のものを、両方買っておこうかな?
もしあーちゃんが買ってないほうがあれば、分けてあげられるし……





「……あー、これいいかも〜」

「どれどれ?」

「これ〜」


あーちゃんが手にしているのは……チョコレートかな。
どうやら国内産ぽいけど、全然見たことのないパッケージだった。





「地方限定とかなのかな?
 でも、この見本からするとおいしそうだね」

「うん。それに、これなら個包装だから
 ちんにも分けてあげられるし〜」

「え、……」


あーちゃんも同じこと考えてくれたんだ……
なんだか、ちょっと嬉しいな。










「……?
 ちん、なんで笑ってんの〜?」

「うん、ちょっとね」

「教えてくんないの?」


ケチ〜と言いながら、むすっとして見せるあーちゃん。
……でも、大丈夫。これは本気で怒ってる顔じゃないから。

そういうことも解るくらい仲良くなれたのかと思うと、
なんだかまた嬉しくなってしまった。





「……そんな嬉しそうな顔されると、怒るに怒れないんだけど〜
 ホントちんって卑怯だよね〜……」





「えっ?」

「何でもない」


うまく聞き取れなくて聞き返してみるけど、
あーちゃんはさっさと別のコーナーに行ってしまった。





「何だったんだろう……」


でも、何でもないって言うのに
しつこく聞いても良くないよね……。

そう思ったあたしは、
奥の通路に行ってしまった彼をひとまず追いかけた。




















「いっぱいお菓子買えてよかったね!」


あれから、お店の中を二人でくまなくチェックして……
それぞれ気に入ったお菓子をたくさんゲットした。





「てゆーかちん、お土産とか言って買いすぎなんだけど。
 ここ都内なんだから、いつでも来れるでしょ〜」

「それはそうなんだけどね」


でも、なんかお土産を買いたくなっちゃうんだよね、
こういうところで買い物すると……。





「そもそも、あーちゃんこそちゃんとみんなにお土産買った?
 チームのみんなと、先生にはせめて買っていってあげないと」

「え〜、めんどくさい……」

「ダメだよ、いつもお世話になってるでしょ?」

「もう、解ってるよ〜」


そう言いながらあーちゃんは、
右手に持っている紙袋を見せてくる。
(ちなみに、左手にも大きな紙袋を持っているんだけれど)





ちんがそう言うと思って、これ部活の人たち用〜」


あっ、なんだ、ちゃんと買ってあったんだ……。





「えらいね、あーちゃん! よしよし」

「だから子ども扱いしないでってば〜、もう」


なんて言ってるけど、あたしが頭なでやすいように
わざわざ屈んでくれるんだから、あーちゃんはやっぱり優しい。










「あーちゃんと一緒にお菓子買うの、
 やっぱりすごく楽しいね」


オススメのお菓子について話したりはしてたけど、
こうやって一緒に買いに行くのは初めてだったから。





「わざわざ来てくれてありがとう、あーちゃん」

「別に、オレもお菓子買えてよかったし〜……
 ……まぁお菓子を買うのは、ついでだけどね〜」

「えっ?」

























いちばんの目的は、きみに会うことだったから



(ごめんね、聞こえなかったからもう一回……)

(ぜってー言わねーし)

(ええっ!)