「そーいえば、黒子っちに火神っち。
実際のところ、どうなんスか?」
「何の話だよ」
「だから、っちのことっスよ!!」
ボクが何か言う前に、黄瀬君が叫んだ。
「さんがどうかしましたか?」
「いや、だから……」
「のこと好きなんだろって話だろ」
「ぶはっ!!」
「そーそー! さすが青峰っち!!」
意外にも、普通に話に入ってきた青峰君。
そんな彼の言葉に火神君はコーラを吹き出し、
黄瀬君は嬉しそうに答えた。
「……フッ」
「……?
どうしたのだよ、赤司」
「いや、何でもない」
スマホをいじる赤司君の、不敵な笑みも気になる。
けど、今はそれより黄瀬君ですかね。
「ボクは好きですよ、彼女のこと」
「おい、黒子!」
「火神君、まずは噴き出したコーラを拭いてください」
「あ、悪りぃ……」
何か言い返そうとした火神君に、
ボクはそばにあった布巾を手渡す。
「てか、火神の反応わかりやすすぎだし〜」
「んだと!」
「テツくらいサラッと言えねぇのかよ」
「うるせぇ!」
明らかにおもしろがっている紫原君・青峰君が、
火神君をいじり始める。
「オレは別に、好きっていうか……
たださんと一緒に居るとなんか落ち着くし、
困ってたらオレが助けてやりてぇし、
笑ってる顔を見ると嬉しくなるっつーか……」
「だから、それが『好き』だということだろう」
「「「「「…………!?」」」」」
何を今さら、といった様子の緑間君に、
ボクを含めた赤司君以外の全員が驚いた。
「はは、驚いたな。
まさか緑間の口からそんな言葉が出るとは」
「どういう意味なのだよ、赤司」
「いや、こういった話は疎いのかと思っていた」
「フン」
「てか、ホント赤司っちの言う通りっスよ!」
「みどちん、あんなキャラだったっけ〜?」
「いや絶対ぇ違げーだろ」
「さすがのボクも驚きました」
「オレってさんのこと、好き……なのか……?」
「ちょっと〜。
こっちはこっちで、何か考え込んでるんだけど〜」
「自覚なかったんスか、火神っち!?」
「黄瀬君、火神君はそういう人です」
「めんどくせぇ奴だな」
青峰君には言われたくないと思いますけど、
という言葉は、ひとまず飲み込んでおいた。
「本題に戻るんスけど!
2人は、っちの特にどこが好きなんスか?」
「いや、だからオレは……」
「じゃあ、言い方を変えようか」
未だ納得がいかないらしい火神君に、
そう声を掛けたのは赤司君だ。
「さんのいいところはどこか、それなら思いつくだろう?」
「さんのいいところ……」
問われた火神君が、真面目に考え始める。
「とにかく、周りをよく見てるとこだな。
選手であるオレらのことはもちろん、
カントクのこともよく気付いて声かけてるし」
「確かにそうですね」
いつも「大したことしてない」と彼女は言うけれど、
その小さな気遣いがいつも嬉しいしありがたいと思う。
「それと彼女は、誰とでも仲良くなれるところも
いいところだとボクは思っています」
合宿所が同じだった黄瀬君・緑間君はいいとして、
青峰君や紫原君ともいつの間にか知り合っていて。
「言われてみりゃあ、そうだな……
お前ら、いつの間にさんと会ってたんだ?」
「オレは、お前らの合宿所に近い公園だな。
アイツが下手くそなドリブルしてたんで声かけてやった」
「オレは駅で会ったよ〜。
ちん、初対面のオレにお菓子くれて優しかった〜」
確か青峰君には夕方の散歩中に、
紫原君には木吉先輩を迎えに行ったときに会ったとか。
「そう考えると確かに、さんってすげぇな」
「はい」
クセのある黄瀬君や緑間君とも、すっかり打ち解けていましたし。
「クセのあるって! ヒドいっス!」
「黄瀬はともかく、オレはクセなどない」
「緑間っち!?」
確かにタイプは全然違いますが、
どちらもクセが強いと思いますけど。
「そーいや、赤司も……」
「ん?」
「ウィンターカップのときさんに、
『また会ったね』って言ってただろ」
「ああ、そうだったね」
実はボクも、それはずっと気になっていた。
「オレも彼女と初めて会ったのは、駅だった。
おそらく、紫原と会う前か会った後だろう」
「えっ、赤ちんもあの日に会ったの〜?」
「ああ。彼女の持っていたストラップの、
ボールの部分が取れて転がってしまってね」
それを、赤司君が拾ってあげたということですか……。
「確かにそう考えると……さんってすげぇな」
「はい」
しみじみと言う火神君に、ボクも相槌を打った。
「火神っち的に、他にっちのいいところは?」
「いいところっつーか……すげぇな、って
思ったところはあるな」
「へぇ〜、どんなとこ〜?」
紫原君の問いかけに、一呼吸置いた火神君が答える。
「なんか嬉し泣き?が出来るところ」
「なんだそりゃ?」
「いや合宿中に、急に泣き出したことがあってよ」
慌てて確認してみたら、火神君の言った何かに感動して
嬉しくて泣いてしまった……ということらしい。
「お前が何か嫌な事を言って、彼女を泣かせたのだろう?」
「いや、なんで決め付けてんだよ!
んなことするわけねーだろ」
緑間君の指摘に、火神君が慌てて返す。
「んー、でもそれって結局、
火神っちが泣かせたのと同じことっスよね?」
「はぁ!?」
「確かにそうかもね〜。
嬉し泣きだとしても、火神が言ったことが原因だし」
「おい!」
言われてみればそうかもしれない……
嬉し泣きとはいえ、泣かせたのは火神君だ。
「おい黒子、その顔やめろ!」
「その顔ってどんな顔でしょう?」
「真顔で怒ってるその顔だよ!
それ怖ぇからやめろっつったろ!」
「泣かせた」こと自体は、許せないですが……
だとしてもさんは、
火神君の言葉が泣くほど嬉しかったんですよね。
ちょっと、いやかなり悔しいです。
「お前も負けていられないな、黒子」
「言われなくても解っています」
どこか楽しそうに言った赤司君に対し、
ボクは間を空けずにそう答えた。
+++
「でも、っちの方はどうなんスかね〜」
「テツか火神かってことか?」
「そうっス!」
「てか、その2人に限定するのもおかしくない〜?」
「確かに、の知り合いはほぼ男だからな。
可能性は至るところにあるのだよ」
「ったく……」
コイツら、自分たちだけでどんどん盛り上がってやがる。
「ところで赤司君、その荷物は何ですか?」
「ああ、これかい?
これはさんにお土産をと思ってね」
黒子と赤司なんて、もう違うこと話してるじゃねーか。
『だから、それが「好き」だということだろう』
「…………」
オレは……
オレはホントに、さんのことが好きなのか?
今まで全然考えたことねぇけど……
『火神くん!』
『おはよう、火神くん』
『左手のほうも、すっかり慣れたね!』
「…………」
まぁ確かに、さんと話してると頑張らねーとって思えるけど……
それが好きってことになんのか?
「……あーくそっ」
ゴチャゴチャ考えてもしょうがねぇ。
とりあえず今は、明日の練習試合のことだよな……
そう思いながら、なんとなく外の方を見てみると。
「…………!?」
さんに桃井……!?
なんでこんなところに……!
「んだよ火神、急に立ち上がって」
「どうかしましたか?」
「あ、いや、別に……」
「外になんかあるんスか?」
「なんもねぇよ……!」
「あ〜、あれちんじゃない〜?」
「桃井と一緒のようだな」
くそっ、コイツら気づきやがった……!
(いや、さすがに気づくか……)
「2人がこちらに気付いたのだよ」
「せっかくだし、2人もこっち来るっスよ!」
黄瀬がそう言いながら手招きするが、
申し訳なさそうな顔をしたさんが首を振る。
「黄瀬君の誘いには乗れないということでしょうか」
「ちょっ、黒子っち!?」
「なんか理由があんだろ」
「とりあえず電話してみるね〜」
紫原が言いながら、電話を掛ける。
「あっ、もしもしちん〜?」
「…………」
しかも、桃井じゃなくてさんかよ。
「うん、うん……
そーそー、オレたちみんなで食べてたとこ〜」
「…………」
「……え? ふーん、そうなんだ〜。
わかった、ちょっと待ってて〜」
……なんだ?
紫原が一瞬、驚いてたような……
「ちんとさっちんね、
もうご飯食べてきちゃったんだって〜」
それで、今から帰るところだったらしい。
「あー、だから断られたんスね!」
「黄瀬が嫌だったわけじゃねーのか」
「青峰っちまで!?」
つーか黄瀬って、黒子以外からもこんな扱いなのか?
「んで、オレたちがもう帰るなら
一緒に帰ろうって言ってた〜」
「なるほど、それでこちらに来なかったんですね」
確かに、帰るところだったんなら
わざわざ中に入ってくることねーよな。
「だが、よくこのタイミングにここを通ったな」
ああ、言われてみれば確かに……
「赤ちんがLINEしたからでしょ〜」
「赤司が?」
「ああ、さっき彼女に送っておいたんだ。
『おもしろい話をしているから、良かったら来ないか』と」
「おい、赤司!」
なんでそんなLINE送ってんだよ!
「そうか……
さっき赤司君がスマホをいじっていたのは」
「そういうことだ」
いや、黒子も気づいてたんならつっこめよ!
「とにかく、あまり彼女たちを待たせたら悪いだろう。
これ以上は遅くなってしまうし、オレたちも帰ろう」
「ああ、そうだな」
「賛成〜」
「じゃあ、っちと桃っちに合図しとくっス!」
黄瀬が両手で大きく丸を作ると、
意味が伝わったらしく、外に居る2人も大きく頷いた。
「んじゃ、行くぞ」
「はい」
そうしてオレらは、揃ってマジバを出た。
+++
「みんな、出てきちゃって大丈夫だった?」
黄瀬くんからの合図があったあと、
みんなが揃って出てきてくれたけど……
「何かおもしろい話をしてたんだよね?」
「それが、今しがたキリがついてしまってね」
せっかく立ち寄ってくれたのにすまなかった、と言って、
LINEをくれた赤司くんが申し訳なさそうにする。
「ううん、大丈夫。
あたしたちも、いっぱいおしゃべりしてきたし」
「そうそう、私たちは女子トークしてきましたもんね♪」
あたしの言葉に、さつきちゃんも続いてくれた。
「そうか……それなら良かった」
では帰ろうか、と言って歩き出した赤司くんに続き、
みんなもぞろぞろと歩き出す。
「……と、オレたちはホテルに戻るからもうここで」
ほんの数分歩いたところで、赤司くんがそう言った。
同じホテルに泊まるあーちゃんも、彼に倣うようにする。
「ちん、これいつものお土産ね〜」
「今回はオレからも用意したんだ」
「わあ、ありがとう、2人とも!」
いつももらってるあーちゃんだけじゃなく、
今日は赤司くんまでお土産をくれた。
京都のお土産だよね……楽しみだな。
「オレたちも用があるから、今日はこちらから帰るのだよ」
「さつき、お前も来い」
「もう、しょうがないなぁ〜」
「オレも駅だから、こっちから行くっス!」
「うん」
せめて東京メンバーだけは一緒に帰りたかったけど、
用事があるんならしょうがないよね。
「テツと火神に、ちゃんと送ってもらえよ」
「うん!」
「2人も、しっかりを送り届けるのだよ」
「言われなくても」
「解ってんだよ」
「じゃあみんな、また明日の練習試合でね!」
そう言って、歩き出したみんなを見送る。
「じゃあ、帰ろっか!」
「はい」
「うす」
彼らとは別の方向に向き直ったあたしも、
黒子くん・火神くんと一緒に歩き出した。
「ところで、おもしろい話ってどんな内容だったの?」
「はぁ!? い、いや、それは……」
「ここで話してしまうとつまらないので、
今は内緒にしておきますね」
「おい、黒子……!」
「そっか……じゃあ、楽しみにしてるね!」
「(頼むからそのまま忘れてくれ……)」
「赤ちん、良かったの〜?」
「ああ……さんのことかい?」
「他にないでしょ〜」
「オレたちの会話、っつーかテツと火神の話も、
アイツに聞かせてやりゃー良かったんじゃね?」
「それって、もしかしてさんが好きっていう話?」
「その通り! さすがっスね、桃っち」
「まあね♪」
「青峰の言うことにも一理あるのだよ、赤司。
確かに、少々脱線し始めてはいたが……」
「やろうと思えば、最初の話に戻せたよね〜」
「いい加減、どっちかとくっついてほしいっス」
「そんなに心配しなくても、いずれそうなるさ」
「えっ!?」
「赤司、それはどういう意味なのだよ」
「テツか火神のこと好きなのかよ、アイツ」
「全然そんな感じしなかったけど〜?」
「桃井なら何となく解っているだろう?」
「うーん、まだ確証はないんだけどね」
「どっちなのだよ、桃井」
「どっちとくっつくんだよ」
「っちは、どっちが好きなんスか!?」
「もうさっちんの予想で正解じゃない〜?」
「答え合わせは、またいずれ」
そう言った赤司に、桃井以外のメンバーが
間髪入れずブーイングを入れるのだった。
火神大我VS黒子テツヤ
(楽しみは、後にとっておく方がいいだろう?)