※毎度のごとくすみませんが、うちのヒロイン、例の及川嫌いな子です









「最悪」


部活帰りにやってきた翔陽ちゃんと影山に、
あたしは一言、そう言い放った。

どうやら今日も競争しながらやって来たらしく、
2人とも少し息が切れている。





「えっ……あ、あの、」

「どうかしたんすか、さん」

「バカ! 影山!」


困惑している翔陽ちゃんとは正反対に、
なんのためらいもなく問いかけてくる影山。

そんな影山に、翔陽ちゃんは焦るけど……





「2人とも、聞いてくれる?」


結局あたしも話を聞いてほしかったので、
そこには触れずにそう言った。










「実はさっき、及川がここにやって来てね」

「及川さんが?」「大王様が?」


2人の声が重なる。





「今度デートしようとか練習見に来てよとか
 ウザいことを散々言ってきたわけ」

「つーかあの人、毎回それ言ってますよね」


あたしの言葉に、影山はいつものことだと返す。





「確かに……で、でも、さん。
 いつもはそこまで怒らないですよね?」


翔陽ちゃんの問いに対し、
あたしはテーブルをドンッと叩き……






「そこなの!!」


そう叫んで勢いよく立ちあがる。





「今日の及川の何が悪いって、
 あいつ1人で来たことだよ!!」

「え?」


岩ちゃん居なかったんだよ、今日は!





「あいつ、なぜ岩ちゃんを連れてこない!?
 いや、むしろ岩ちゃんだけ来て!!」


翔陽ちゃんが「なるほど」と言いたげな顔をしている。






「ホント岩泉さんのこと気に入ってますよね」

「おうよ!
 岩ちゃん、ホント優しいんだから!」


やれやれといった感じで問う影山に、
あたしは当然だという風に返す。

仲良くなれた、とまではいかないけど、
しつこい及川を追い払ってくれるし……

ほんと優しいんだよね。





「及川より断・然! 岩ちゃん派!!」


何度も言ってるこのセリフを、
あたしは今日もまた叫ぶのだった。










+++










「そんなわけで、こんなに荒れてるわけです」

「そ、そうだったんだ、ですか……」


確かに、自分で言ってる通り
今のさんは「荒れてる」気がする。





「…………」


でも、おれは楽しそうに笑ってる顔が好きだし、
このままにしておくのも、なんか……

……あっ、そうだ!





さん、明日ヒマ? ですか?」

「明日? 特に予定はないけど……
 何かあるの、翔陽ちゃん」


いいことを思いついたおれは、さんの予定を確かめる。





「明日、一緒に遊びましょう!」

「え! ずいぶん唐突だね?」

「大王様のことで嫌な思いしたなら、
 思いっきり遊ぶのがいいかなって!」


おれがそう言うと、「あーなるほど!」と納得してくれる。





「そうか、明日の部活は休みだって兄ちゃんが……」


どうやら、烏養さんの言葉を思い出したらしい。










「で、でも、せっかくの休みなのに
 翔陽ちゃんはそれでいいの?」

さんが嫌な思いしてるのは、おれも嫌だし」

「翔陽ちゃん……!」


さんは「なんていい子……!」と言いながら
おれに抱きついてくる。





「えっ!? あっ、あの、さん……!」


どうしたらいいか解らず、おれは慌てる。

でも抱きついてくれるのは嬉しいし、
さんが離れるまではこのままでも……










「あの、ちょっといいすか」


なんていうおれの気持ちを、解っているのかいないのか……

おれたちを引きはがしながら、影山が口を挟んでくる。





「日向と遊ぶんなら、俺も行きます」

「え! 影山も?」


影山の言葉に驚きの声をあげたのは、
おれじゃなくてさんだ。





「影山ってけっこうヒマなの?」

「いや、そういうわけじゃないすけど……
 さんのためなら、いくらでも時間割くんで」

「え!」


な、なんだよ、影山のくせに
かっこいいこと言いやがって……

おもいっきり睨んでやると、
影山も負けじと睨み返してくる。










「……2人とも、ありがとう!」


おれたちの心理戦(?)なんてお構いなしに……

そう言ったさんが、
今度はおれたち2人に抱きついてきた。





「こんないい子に育ってくれて……」

「いや、さんに育てられてないっす」

「影山、そこはつっこむなよ!」


その後もいろいろ話が脱線したけど……
とにかく明日は、この3人で遊びに行くことになった。









+++










「影山、お前さー……
 明日なんか用があるんじゃなかったっけ?」


さんに見送られて坂ノ下商店を出てからすぐ、
日向が納得のいかないような顔で言った。





「別に、明日じゃなくてもいいからな」

「何だよそれ!」


調子のいいヤツ、なんて言いながら、
日向はまたふて腐れた。

……つーか、お前に「調子のいい」とか
言われたくねぇよ。





「お前こそ、さっきの顔かなり気持ち悪かったぞ」

「は?」

さんが抱きついてきたとき」


すっげーデレデレしてただろ。





「はあっ!?
 デレデレなんて、おれは……!」

「してた」


でも、さっきのはさんも悪い。
俺らに対して、警戒心がないっつーか……

「かわいい弟」くらいに思ってるから、
そうなるんだろうけど。





「……けど、」


いつまでもそれじゃ困る。

俺が言うのもなんだけど、こっちから動かないと
さんはずっと気づかないよな……。










「あー、そういえば……
 明日の集合時間と場所はどうすんだ?」


遊ぶって決めたのはいいけど、
誰もそれについては話さなかった。





「はっ!」


なんも決めてねぇじゃん! 
と言いながら、日向が慌て始める。





「今俺らで決めて、さんにはLINEするか」


3人で長々と相談するよりかは、そっちの方がいい。

それにさんなら、
「2人に任せる」って言ってくれる気がする。





「とりあえず、思いっきり遊べるところがいいよな〜」


うーん、と言いながら日向が悩み始めた。





「…………」


思いっきり遊べるところか……。

そもそもさんは、及川さんのことでムカついてて
それをどうにかするのが目的だったよな。










「やっぱ……思いっきり身体を動かすのが一番か?」

「身体を動かす……
 ……あっ!」

「なんだよ」


急に声をあげた日向に、俺は問いかける。





「昨日たまたまニュースで見たんだけどさ、
 ちょっと前にオープンした施設が人気らしくて」


日向の言うその施設っつーのは、
同じ場所でいろんなスポーツができるらしい。





「おれらはバレーができればいいけど……
 さんって確か、バレー苦手だったよな?」

「あー……だな」


確か、そんなこと言ってた気がする。










「……まあ、とりあえず場所はそこでいいか」


あとは時間か。





「ここから電車で3駅くらいだから、
 そんなに遠くなかったはず!」

「じゃあ、慌てて集合することねぇな」


とりあえず集合時間と場所を決めてから、
それをさんにもLINEしておいた。










+++










「……あっ」


集合場所の駅前へ少し早めに向かうと。
意外にも、すでに2人の姿があった。




「おはよー!」

「おはようございます、さん!」

「うっす」


駆け寄って挨拶すると、2人も返してくれる。





「じゃあ、さっそく行こっか!」

「はい!」

「っすね」










「これから行くところ、すごく楽しみだよね!」


今日の集合場所や時間、目的地については
昨日LINEで教えてもらったんだけど……

たまたまニュースで見ていたこともあり、
目的地については自分でも調べてみた。





「いろんなスポーツが出来るみたいだし」


今までやったことないものに、
チャレンジしてみるのもいいかも?





「ちゃんとバレーも出来るね」

「それ、おれも思った! です!」


と言いつつ、3人でできることは限られそうだけど……

翔陽ちゃんほど騒いでないけど、影山も嬉しそうだし。
余計なことは言わないでおこう。










さんは、一番何がやりたいんすか?」

「え、あたし? 
 うーん、そうだなぁ……」


唯一、ちゃんと出来るのは卓球だから、それと……

あとバドミントンとかいいな。
バスケも好きだからやりたい!





「じゃあ、その辺から攻めていく感じで」

「バレーは?」

「もちろんやりますけど、後でもいいっすから」


さんが楽しめるものをやらないと意味ないし、と、
小さい声だったけど確かに影山はそう言った。





「影山……ありがとう!」

「いや、元々そういう目的だったじゃないすか」


まぁ、そうかもしれないけど……

でもそれをちゃんと解ってくれてることが、
すごく嬉しいな。









「……あっ、次が降りる駅だよね」

「うす」

「楽しみだなー!」










+++










「……!」

「どうした?」


目的地について受付を済ませた後、
日向が何かに驚いたような顔をする。





「か、影山、あれ……!」

「……?」


日向の指差す方向を見てみると、
そこには及川さんと岩泉さんの姿があった。





「……やばいな」

「いや、やばすぎだろ!」


さすがの日向も、まずい状況だということは
よく解っているらしい。





「そもそも及川さんのせいで
 今日ここに来たわけだしな」

「おれらはともかく、
 さんが大王様と鉢合わせしたら……」


やばいよな。

そう言いながら、俺はさんに目を向ける。





「うーん、どこから行こうかなぁ……」


地図を見ながら施設の確認をしていて、
まだ及川さんには気づいてないようだ。










「とにかく、及川さんたちに注意しながら
 さんを鉢合わせさせないようにするぞ」

「お、おう!」


こういうとき菅原さんとかだったら
うまく及川さんをかわせそうだけど……

残念ながら、今日一緒に居るのは日向だ。



かなり不安はあるけど、しょうがねぇ。

とにかく、さんに楽しんでもらいつつ
及川さんに気を付けていくしかねぇよな。










「ねえねえ、卓球からでもいい?」


だいたい施設のことを確認できたらしく、
顔をあげたさんが言う。





「…………」


バレないように及川さんの方を見ると、
ちょうど卓球スペースに入るところだった。

それを確認した上で、日向を見ると。





「……!」


慌てて首を振ったので、俺も頷き……





「先にバドミントン行きましょう」


悟られないよう、なるべく普通にそう言った。





「なんで?」

「通りすがったやつが、空いてたとか言ってたんで」

「あー、なるほど!」


……さんがこういう性格でよかった。

そんなことを思いながら、
ひとまずバドミントンスペースに向かった。










+++










「……はぁ〜」


あれからおれは、影山と協力し……

なんとか大王様と鉢合わせしないよう、
施設内のいろんなスポーツで遊んでいった。





「とりあえず、今んとこうまくいってるか」


隣で影山がつぶやく。

……自分で言うのもなんだけど、
試合のときよりも連携が取れてる気がした。






「つーか、もう大王様も帰ったんじゃねぇ?」

「確かに、少し前から見かけねぇな」


おれらも遊び始めてからけっこう経ってるし、
大王様たちが帰ってても不思議じゃない。





「もう帰ったかもな」

「だろ!」


そしたら、最後はあれやろうぜ。

おれがそう言うと、影山も「そうだな」と返す。










さん!」

「ん?」

「いっぱい遊んだし、最後に卓球やろう! です!」


たぶん、一番やりたかったっぽいんだけど……

なぜか卓球をやろうとするときに限って、
その近くに大王様がいて。

影山と相談して、後回しにしてたんだ。





「おー、いいね! ついに!」

「それ終わったら、今日のところは帰りましょう」

「そうだね」


やっぱり一番やりたかったんだな。

最後になったのは、微妙だったけど……
こんなに笑ってくれてるし、まぁいっか。





「んじゃ、卓球スペースに移動するか」

「おう!」

「うん!」


先に歩き出した影山に、おれとさんも続いた。














「はぁー、楽しかった!」


しばらく卓球をした後……

そろそろ帰ろうってことになって、
片付けを済ませたおれたちは出口に向かう。





「てか、卓球以外も全部楽しかった!
 2人とも、今日はありがとね」


昨日の「荒れてる」姿はもうどこにもなくて、
そんなさんを見てホッとする。





「また一緒に来よう!」

「うす」

「はい!」


影山と3人だったのは微妙だけど、
さんに楽しんでもらえたし……





「……来てよかった!」


同じことを考えてたたらしく、
影山もさんを見ながら笑ってた。




















影山飛雄VS日向翔陽


(つーか、今度来るときはさんと2人だな)

(お、おれもそのつもりだし!)