「あっ、菅原! 明日って暇?」

「明日?」


部活の手伝いに来ていたさんが、
帰り際にそう問いかけてきた。





「えーっと……」


さんからの誘いなら断りたくないけど、
明日は大地たちと集まって勉強するって約束してるし。

さすがに、先約を蔑ろにするわけにはいかない。


そう思って断ろうとしたものの……





「えっと……明日、何かあるの?」


一応、どんな用なのか聞いてみることにした。





「あのね、これ行ってみようかと思ってて」


さんが取り出したチラシのようなものには、

『みんなでチャレンジ! アスレチック大会!!』

と、書かれている。





「3人1組でアスレチックに挑戦して、
 クリアしたタイムを競うんだって」

「へぇ」

「場所もそんなに遠くないし、
 おもしろそうだから行ってみたいなって」


ただ、「3人1組」というのが引っかかっているらしい。





「あと1人見つければいいんだけど、
 なかなか一緒に行ってくれる人いなくてさ」

「そっか……」


……ん? あと1人ってことは、
1人は見つかってるってことだよな。










「ちなみに、行くのが決まってる1人って?」

「影山だけど」

「そっか、じゃあ俺も行く」

「ええ!?」


もう1人が影山だと聞いた瞬間、
俺は深く考えずに即答していた。





「で、でも、なんか用事あったんでしょ?
 大丈夫なの?」

「うん、大丈夫だよ」


大丈夫じゃなかったとしても、納得してもらう。
いや、納得させる。

他のやつならまだしも、影山となると……。

あいつもさんのことが好きなはずだし、
知らないところで抜け駆けされるのは嫌だ。





「じゃあ……
 菅原も参加してくれるってことでいい?」

「うん」

「やった、ありがと!」


迷いなく返事をすると、さんは嬉しそうにお礼を言った。









+++









「わ〜、すごい賑わってるね!」


電車で数駅ほど行って、その駅から割とすぐ。

あたしは影山、菅原と一緒に
アスレチック大会会場である公園へと来ていた。





「こんだけ居ると、知り合いも居そうだな」

「ちょっとやめて菅原、それフラグだから!」


そういうのは、口にすると会っちゃうパターンだから!





さん、会いたくないやつでも居るの?」

「居る!」


即答したあたしを見て、菅原が苦笑する。

……いや、でもほんと会いたくないし。
きっと影山なら、この気持ち解ってくれるはず!





「影山も居るよね?」

「うす」


期待をしつつ問いかけてみると、
予想通り普通に頷いてくれる。





「えっ、誰?」

「及川!」 「及川さん」

「あー……」


そしてあたしたちが同時に答えると、
菅原はいろいろと察してくれたようだ。

なるほどね、と言いながら、また苦笑している。










「とにかく、まずは受付してくるべ」


気を取り直して、という感じで菅原が言う。





「向こうでやるみたいっすよ」


影山が指さした方に、確かに「受付」の文字が見えた。
あのテントのところで、名前を書いたりするらしい。





「よし、じゃあ行ってみよっか!」


そう言って、あたしは2人と一緒に受付へと向かった。











+++









「……菅原さん」

「ん?」

「今日、本当は用があったんじゃないすか?」


受付をした後。
タイミングを見て、俺は菅原さんに聞いてみた。

……ちなみにさんは、別のテントに
ゼッケンをもらいに行っているので今は居ない。





「なんでそう思ったんだ?」

「いや……
 昨日、東峰さんが言ってたの聞こえたんで」


『大地、スガ、明日の勉強会の時間どうする?』


あんましちゃんと聞いてなかったけど、
3人で一緒に勉強をするとかいう話だった気がする。

だから菅原さんは、今日は来ないと思ってた。


それなのに、昨日さんからのLINEで
「もう1人、決まった! 菅原!」
って送られてきたから、すげぇビックリしたんだよな。










「ああ、なるほど」


そう言って、菅原さんは少し笑う。





「2人との約束があったのに、ここに来たんすよね」

「まあ、そうなるな。
 大地や旭には悪いと思ってるけど……」


彼女と一緒に行く「もう1人」が、お前だったから。





「だから一緒に行くって言ったんだ。
 お前に抜け駆けされたくないからさ」

「……それ、そっくりそのまま返します」

「はは、可愛げのない後輩だなぁ」


菅原さんは、どこか余裕そうだ。

それがすげぇムカついたけど、一応先輩だし、
日向にするように怒鳴ったりは出来ねぇ。

それに、そろそろさんが戻って……










「お待たせ、2人とも!」


そんなことを考えていたら、本当に戻ってきた。





「このゼッケン、付けてくれる?」

「うす」

「うん」


差し出されたゼッケンを受け取り、
俺と菅原さんはそれを付ける。





「5チームずつスタートしてタイム測るんだけど、
 あたしたちは最後の組だったよ」

「最後って、かなり待つんじゃないすか?」

「いや、それがそうでもなくて……」

「……?」


俺の言葉に、さんが少し不安そうな顔をする。





「あたしも今日初めて知ったんだけど……
 ここのアスレチック、激ムズなんだって」


そもそもクリアするのも一苦労らしいと、
同じ参加者の人から聞いてきたと言った。











+++










「まさか、そんな高レベルだとは……」


大丈夫かなぁ、とつぶやいて、
あたしはスタート地点を見やる。

今は、最初の組となった5チームが
それぞれ準備をしているところだ。





「大丈夫っすよ、さん」

「でも……」

「心配ないって。
 だって一緒に組んでるの、俺と影山だよ?」


そりゃあ、2人は運動神経いいだろうけど
あたしは違いますからね? そこ解ってる?





「いざとなったら、俺らがサポートするから。
 な、影山?」

「もちろんっす」

「2人とも……」


そうだよね……

そもそも、一緒に行こうって言い出したのは
あたしのほうなんだし。


そのあたしが弱気になってたら、
話にならない気がする!





「……よーし!
 あたし、優勝するつもりでがんばるからね!」

「お〜、その意気その意気!」

「つーか、優勝しましょう」

「おうよ!!」


そう勢いよく答えると、2人も笑ってくれた。










「とりあえず、他のチームがやってるの見てみるべ」

「そっすね。
 最後の組なんだから、対策も立てやすいし」

「だな」


やっぱり2人ともセッターだからなのか、
こういう作戦を組み立てるみたいなことは得意そう。





「人選、良かったかも!」


なんて思いながら、
あたしは頼もしい2人の後ろ姿を見つめる。





さん、早く行きましょう」

「向こう行って、みんなで作戦立てるよ」

「うん!」


けっこう無理やり連れてきてしまった感じがあったけど、
いざとなったら真剣に取り組んでくれる。

そんな2人の想いが、すごくありがたかった。










+++










「じゃあ、作戦通りに行くぞ」

「うん!」

「了解っす」


やっと最後の組の順番が回ってきて、
俺たちは他のチームと一緒にスタート地点につく。





「影山が先頭で進んで、次があたし、
 最後が菅原だよね」

「そう。やっぱこれが一番安定しそうだし」

「確かに……」


そう言いながら、さんが俺の方を見て……





「影山が前を進んでくれたら迷わず進めそうだし、」

「えっ……」


今度は菅原さんの方を見てから、





「菅原が後ろから見守ってくれたら、安心できそう」

「うーん……」


そう言った。










「なんかさんって、たまにこういうの
 何でもないことのように言うよな」

「そっすね」


なんとなく困ってるような、
けど嬉しそうな顔でそう言った菅原さん。

でも、その気持ちは俺にもよくわかった。










「2人とも、どうしたの?」


さんが、不思議そうに聞いてくる。





「何でもないっす」

「うん、何でもない」


俺に続いて菅原さんまでそう言うから、
さんはさらに不思議そうな顔をした。





「それより、そろそろスタートみたいだな」

「ほんとだ!」

「ちゃんとついてきてくださいよ、さん」

「おうよ!!」


そう言って不適に笑ったさんに、
俺と菅原さんも笑い返した。










+++










「あとは、最後のアレをクリアすればゴールっすね」

「だな」

「うん」


走って移動している中、3人でそう言い合った。


影山が言った「最後のアレ」ってのは……

まぁ簡単に言うと、高い位置にある丸太を
綱渡りの要領で渡っていく感じだ。





「アレで落ちてる人、けっこう居たよね……」

「下にクッションみたいのがあるから、
 落ちても怪我はしないと思うんすけど」

「けど、確実にタイムロスにはなるな」


前の組で挑戦したチームのことを思い出したのか、
さんは少し心配そうな顔をしたけど……

割とすぐに、表情は戻る。





「ここまで散々2人に助けてもらってきたし、
 今さらクリアできないとは思ってないよ。ただ、」


そこで言葉を切ったさんは、
いったん後ろを振り返ってから言う。





「アレに追いつかれる前にゴールしなきゃなんだけどね」










「やっと追い詰めたよ、ちゃん・トビオ・爽やか君!!」





さんに倣って俺らも後ろを振り返ると、
及川に岩泉ともう1人、青城の一年生の姿がある。








「まさか、同じ最後の組の中に
 あいつが居るとは思わないじゃん!?」

「それは同意っすね」


変にテンションが上がっているさんに、
影山が淡々と返す姿が少し面白かったけど……

1分1秒を争ってる場面でも、
いつもと変わらない2人を頼もしくも思った。





「実況の話だと、このままノーミスでクリアすれば
 俺らが優勝するのは間違いないから」


及川たちは強敵だけど、このままゴールするよ。

そう言うと、さんも影山も不敵に笑い……





「「もちろん!」」


そして、そう答えた。




















「まさか、ほんとに優勝できるなんて……!」

「当然っすよ」

「だよな」


無事にノーミスでゴールした俺たちは、
参加チームの中で一番いいタイムをたたき出し……

見事、優勝を手にしたのだった。





「優勝できたことも、もちろん嬉しいんだけど……
 あんな思いっきりアスレチックできて良かった!」


そしてさんは、俺と影山に向き直る。





「2人とも、一緒に参加してくれてありがと!
 ほんとに……ほんとに楽しかった」


普段からけっこう、笑うことが多いさんだけど……

今の笑顔は、いつもと少し違ってて。
本当に楽しかったんだな、となんとなく理解できた。








「……今度同じようなイベントがあったら、
 また3人で一緒に来るべ」

「そっすね」

「うん!!」


また嬉しそうな顔をして頷いたさんを見て、
俺たちは自然と笑っていた。




















影山飛雄VS菅原孝支


(まぁ、こうやって3人で行動するのもいいかもな〜)

さんが喜ぶなら、別に俺はそれでいいっすよ)