「今日は2人1組で、救助訓練を行ってもらいます!
片方がヒーロー、もう片方が負傷者役です」
今日の午後・ひとつ目の授業は、13号先生による救助訓練。
ヴィランの襲撃によって足場の悪くなった街から、
ヒーローが負傷者を連れて脱出するという内容だ。
「では、組み合わせはこのクジで決めましょう」
そう言った先生がクジの入った箱を取り出し、
みんなが順番に引いていく。
「……はぁ」
なんだか嫌な予感がする……。
うちのクラスは21人だから、
絶対に3人の組が出るんだよね。
で、なぜか毎回、わたしはその3人の組に当たる。
なんでなんだろう、ほんとに……。
「……J?」
箱から引いた紙には「J」とだけ書いてある。
Jチームってことかな?
「あっ、もしかしてちゃんもJ?」
「えっ……ってことは出久くんも?」
うん、と言った出久くんが、
「J」と書かれた紙を見せながらこちらにやって来た。
「そっか……よろしくね、出久くん」
「うん、こちらこそよろしBOOOOOM!!!
出久くんが言い終える前に、ものすごい爆音がした。
確かめるまでもなく、誰の仕業かは解る。
「…………勝己くん」
いつの間にかそばまで来ていたその人に対し、
非難の意味を込めて名前を呼ぶと。
「あァ? ただの挨拶だろーが」
なんて返されてしまった。
でも、それってつまり……
「勝己くんもJ?」
「おう」
ってことは、この3人で同じチーム……
「、ご愁傷様ー!」
「骨は拾ってやるからな〜!」
いつの間にかこちらのやり取りを見ていたらしく、
三奈ちゃんと上鳴くんがそんなことを言った。
……なんか絶対に楽しんでるよね、あの2人。
そう思って恨めしい視線を送るけど、
2人ともニヤニヤするだけだった。
+++
「組み合わせは決まったみたいですね。
では、それぞれ役割を決めてください」
先生の言葉で気を取り直し、
ヒーロー役と負傷者役を決めることにする。
とは言っても、僕たちは3人だから……
「とりあえず、負傷者役を決めればいいよね」
ちゃんが言った。
残りの2人がヒーロー役ってことになるし、
確かに、それが一番早いかもしれない。
「じゃあ、誰が負傷者役を……」
「お前に決まってんだろ!」「君に決まってるじゃないか!」
彼女が最後まで言い終わる前に、
僕とかっちゃんが同時に叫んだ。
「……なんでそうなるの?」
わたしだってヒーロー役やりたいよ、と、
彼女は不満そうに言うけれど。
「いや、この訓練を無事成功させるためにも、
絶対にちゃんが負傷者役の方がいい」
まだ納得のいかない彼女に説明するため、
僕はかっちゃんに向き直る。
「だって、僕が負傷者役でかっちゃんやる気とか出る?」
「ハァ? んなもん出るわきゃねーだろ!!」
悪いけど、それは僕も同じだし。
「だから、ちゃんにやってもらわないと」
「……もう、しょうがないなぁ」
完全に納得できてないみたいだけど、
ひとまずは折れてくれた。
「これくらいの訓練で躓いてちゃ、
しょうがないしね」
「うん!」
君ならそう言ってくれると思ってた。
ありがとう、と言うと、
ちゃんも笑い返してくれた。
+++
「……クソッ!」
はともかく……
なんで俺がデクと組まなきゃなんねぇんだよ!!
「とにかく、まずは作戦を立てようか」
「うん! わたしたちは一番最後だから、
先に訓練するみんなのことも参考にできるよね」
「…………チッ」
しょうがねぇな……
こいつだってヒーロー役やりてぇのに我慢してんだ。
今回だけは協力してやるか。
「オラ、行くぞ!!」
「え、ちょっ……かっちゃん、どこに!?」
「他のやつら、参考にするんだろうが!!」
構わず歩き出すと、後ろから
「ちゃんと聞いてたんだ」なんて声がする。
クソナードごときが偉そうだったんで、
軽く爆発させて威嚇しておいた。
「ああ見えて勝己くんは、ちゃんと周りを見てるよね」
「う、うん、そうだね」
BOOOOOOOOOM!!!
「ヒィ!」
「おいテメェ、聞こえてんぞ!!」
「はいはい、ごめんね」
そう言いながら、俺のそばまで駆け寄ってくる。
「……何だよ」
「ううん……ただ、
その視野の広さは見習わないとなって」
「……フン」
おだてても何も出ねぇぞと言いたいところだが、
こいつは思ってもないことを口にするようなやつじゃねぇ。
それが解っているから、俺はあえて何も返さなかった。
+++
「…………」
Aチームから訓練が始まり、
今はHチームまで終わったところ。
わたしたちの出番は、次の次だ。
「うーん……とりあえずざっくりまとめると、
負傷者を発見したら怪我を具合を確認し、」
「それにより適切な搬送方法を決めてから、
ヒーローが負傷者を連れて街を脱出……だね」
言葉を続けてくれた出久くんに、わたしは頷き返す。
「ただ脱出するだけじゃねぇ。
仮想ヴィランもことも忘れんなよ」
「うん、解ってる」
『あ、言い忘れていましたが……
この街にはまだ、ヴィランが潜んでいますので』
Aチームの訓練が始まった後……
13号先生がそんなことを言ってきて。
ただ脱出するだけなら簡単そうな訓練だけど、
そこが少し厄介だった。
「じゃあ作戦通り……
怪我を確認したら、僕が応急処置をするね」
「うん!
その間、勝己くんが現場の状況を確認して……」
「それをみんなで共有してから、
僕が先頭で街を脱出……と」
脱出の流れとしては、出久くんが引率、
勝己くんがわたしを運ぶということになった。
……実はこれ、どっちが運ぶかでかなりもめたんだよね。
正直どっちが運んでも同じだと思うんだけど……。
「とにかくよろしくね、勝己くん」
「おう」
……あ、でも、重たいとか言われたら
けっこうショックかも……
そんなことを考えつつ、最終確認をして
自分たちの番に備えた。
+++
「それではJチーム、スタートしてください!」
13号先生の掛け声により、僕たちの訓練が始まった。
「まずは、ちゃんを探さないと」
この訓練では、負傷者役は先に街へ入って
見つかりづらいところに隠れる。
それで、ヒーロー役はその負傷者役を
見つけるところからが訓練なんだけど……
「んなもん、言われなくても解ってんだよ!!」
そう言いながら、かっちゃんは迷わず走り出した。
「ちょっ……かっちゃん、どこに!?」
「テメェにはあれが見えねぇのか!!」
闇雲に探してもしょうがないよ、と言う前に、
かっちゃんがそう叫んだ。
指し示された方を見ると、小さな竜巻が見える。
「あれは、ちゃん……?」
「負傷者が、個性使って居場所知らせてんだよ」
なるほど、確かにそういう状況もあり得るな。
個性も身体能力のうちだから、
怪我の具合によっては使えない場合も多いけど……
「あいつの個性は、例え自分が動けなくても使える」
……そうだ、彼女の個性はそういうものだった。
かっちゃんはあの竜巻をいち早く見つけたから、
迷わず走り出したのか。
「やっぱり、かっちゃんはすごいな」
前を走るその人の背中を見て、改めてそう思った。
「……けど、僕も負けてられない」
ちゃんに誇ってもらえるような、
誰よりも立派なヒーローになるために。
+++
「!!」
竜巻のある場所までたどり着くと、
予想通り、そこにの姿があった。
「あ、2人とも気づいてくれたんだ」
「当たり前だろ」
そう言いながらのそばまで降りると、
デクも後ろからついてきた。
「それじゃ、えっと……
どこか怪我はしていますか?」
「右足が痛くて、動かせないんです」
「なるほど……ちょっと失礼します」
負傷者役は、街へ入る前にカードを手渡される。
そこに負っている怪我の内容が書いてあって、
実際にそれを演じるっつーわけだ。
「おい、どうだ?」
「うん……もしかしたら、折れてるかもしれない。
応急処置として、固定してから搬送しよう」
そう言ったデクが、慣れた手つきで応急処置を始めた。
「ありがとう、ヒーローさん」
「あっ、いえ!」
いろいろ言ってた割に、
ノリノリで負傷者役やってんじゃねぇか。
つーかデクの野郎も真っ赤になってんじゃねーよ。
真面目にやれ。
「……ケッ」
こいつらを2人にすんのは嫌だが、
そうも言ってらんねぇ。
「おい、クソデク!」
「なっ、何!?」
「周りの状況確認してくるから、
俺が戻ってくるまでに終わらせとけよ!!」
「あ、そうか……うん、解った!」
確かに、応急処置はデクの方が早いからな……
クソナードごときが生意気だが、そこは否定できねぇ。
「……フン」
まぁ仮に、本当にが怪我したとして、
応急処置もまともに出来なかったらまずいか……
後で練習しておいてもいいかもな。
そんなことを考えながら、俺は付近の状況を確認し始めた。
+++
出久くんによる応急処置を終え、
状況を確認した勝己くんの話を共有し……
潜んでいる仮想ヴィランも戦闘不能にして、
あとは脱出するのみとなっていた。
「あのゲートから外に出れる」
勝己くんがそう言った直後……
背後からものすごい音がした。
「何……!?」
いったん動きを止め、音のしたほうを見てみると。
他チームのときは出現しなかった巨大な仮装ヴィランが、
街を破壊しながらこちらに向かってきている。
「なんであんな巨大ヴィランが……」
「なんでもいい、邪魔してくるんならぶっ飛ばすだけだ!」
「まぁ、それしかないよね……
とりあえず僕が行ってくるよ」
そう言って、出久くんが向かっていった。
+++
「チッ……デクのやつ、手こずってやがる」
俺はを運ばなきゃなんねぇから、
ヴィラン対応は全てデクにさせてたが……
急に現れたあのヴィランはさっきまでと違い、
デカいのもあるのか、なかなか対処できないでいた。
「……デクなんぞを助けるのは嫌だが、しょうがねぇ」
「加勢する?」
「ああ。
ここなら安全だから、お前は待ってろ」
「うん」
保護した負傷者を、放置するとも見られそうだが……
この場所なら、最低限の安全は確保されるはずだ。
「気を付けてね」
「誰に言ってんだ」
心配そうにするにそう返し、
俺も巨大仮想ヴィランへと向かっていった。
+++
「大丈夫かな……」
いや、あの2人なら大丈夫だと思うけど。
とにかくわたしは、言われた通りここで待機を……
「……!」
そう思いながら、改めて2人のほうを見てみると。
背後から別の仮想ヴィランが忍び寄っていた。
「…………」
2人とも巨大ヴィランのほうに意識がいってて、
背後のやつには気づいていない。
負傷者役のわたしが動いたら、
絶対にダメだって解ってるけど……
「…………ダメだ!」
訓練としては絶対にダメだけど、
でも2人が怪我するのはもっとダメだ!
応急処置で固定された足を自由にして、
わたしは後から現れた仮想ヴィランに向かっていった。
+++
予想外に現れた2体の仮装ヴィランを倒したところで、
僕たちの訓練は中断された。
「使う予定でなかった仮装ヴィランが、
何かの誤作動で動いてしまったようです」
驚かせてしまってすみません、と、13号先生が頭を下げた。
「けれど、3人のチームワークはお見事でした」
先生はそう言って拍手を送ってくれるけど、
隣に居るちゃんの顔は冴えない。
理由はなんとなく解っている。
「でも……
負傷者役なのに、わたしも戦闘に加わってしまって……」
やっぱり、彼女が気にしているのはそこだった。
かっちゃんも察したのか、珍しく黙ったままでいる。
「確かに、今回実施した『救助訓練』としては、
さんの行動は非難されるかもしれません」
「…………」
「ですが、これはあくまで『訓練』」
うつむいてたままのちゃんに、
先生は優しく語りかける。
「そしてあなたは、あくまで負傷者『役』。
実際に動けないわけでない」
今回のように、仲間が予期せぬ危険にさらされたとき……
迷わず助けるその行動力は、
ヒーローに必要なものではないでしょうか。
「……!」
先生のその言葉で、ちゃんが顔を上げる。
「とっさの判断力、そしてその行動力。
お見事でしたよ、さん」
「先生……!」
そこでようやく、彼女に笑顔が戻った。
「まぁ……認めたくねぇが、俺らも油断してたからな」
「うん、ホントに助かったよ、ちゃん」
「2人とも……」
ありがとう、と言って、
ちゃんはまた嬉しそうに笑うのだった。
爆豪勝己VS緑谷出久
(今回はあいつのために協力しただけだからな!!)
(大丈夫だよ、かっちゃん。解ってるって)