「…………」
土曜日、午後10時過ぎ。
バイト帰りの私は、ひとり電車に揺られています。
と言うのも、そのバイト先が
自宅から少し離れた場所にあるからなのですが――……
『今日からここで暮らすんですね……』
進学した大学が実家から離れていたため、
私は部屋を借りて一人暮らしを始めました。
『ちゃんは、バイトとかするの?』
『そうですね……』
そして、大学生活にも少しずつ慣れてきた頃、
仲のいい友人たちがバイトを始めていて……
とにかく挑戦してみようと思った私も、
バイトを始めてみることにしました。
『少し遠いけど、通えない距離ではないし……』
自宅の最寄駅からは、電車で5つ先の駅前にあるコンビニ。
そこが私のバイト先です。
自分の取っている授業の時間と、
条件の合う場所がなかなか見つからず……
『よろしくね、さん』
『は、はい!』
『俺たち、さんと同じ大学なんだ』
『じゃあ、先輩なんですね……!』
『そうなのよ〜』
もっと近い場所が良かったかな、
とも思ったのですが……
先輩方が皆さん優しくて、ここを選んで正解でした。
「……ふぅ」
私は毎週木曜と土曜の午後6時からのシフトで
ひとまず固定してもらっているのですが……
今は春休みでけっこう時間もあるので、
それ以外でもバイトするようにしています。
人手不足らしい、というのもあるし、それに……
「…………」
大切な人にプレゼントを贈りたい、
という目標があるんです。
離れて暮らす家族や、大学の友人たちも
もちろん大切な人ではあるのですが。
今回私がプレゼントしたいのは、別の人で……
『あ、あの……大丈夫ですか?』
私がその人――ディーノさんと知り合ったのは、
何もない道で激しく転んだ彼を見かけたのがキッカケです。
『あ、ああ、大丈夫だぜ。
心配してくれてありがとな!』
『……!』
そう言って、彼が顔を上げてこちらを見たとき……
私は一瞬、動けなくなってしまいました。
彼の、太陽のような明るい笑顔に見とれてしまって……
『オレはディーノってんだ。お前は?』
『わ、私は、と言います……』
『だな、覚えたぜ』
お礼をしたいから、一緒に来てほしいと言われて。
『あー、その……
急いでるわけじゃないなら、だけどな』
『あ、えっと……時間は大丈夫、です……』
『本当か!?』
『は、はい』
今思うととても不用心だったのですが……
あのときの私は、もっとこの人と話してみたいと
ただそれだけを考えていました。
私たちはそれ以降、
約束をして定期的に会うようになりました。
『あっ、ディーノさん!』
『よっ、……っとと!』
『ディーノさん……!?』
彼は部下の方がそばに居ないと、
極端なドジ体質になってしまうらしく……
『はは……悪い、驚かせたな』
『い、いえ、それは大丈夫ですが……
危ないから、気を付けてくださいね』
『ああ』
でも、そんなところも素敵だなと感じた私は
いつしか彼のことを好きになっていました。
「…………」
おそらく、嫌われてはいない……はずです。
でも今すぐ気持ちを伝えるのはさすがに怖いので、
まずはプレゼントをして……
少しでも変えていけたらいいなと思っています。
「……はぁ」
最近はたくさんバイトに入っていることもあり、
この帰り道にもさすがに慣れてはきたのですが。
誰もいない部屋に一人で帰るのは……
やっぱり少し、寂しいんですよね。
「今日は土曜日だし……」
途中まで方向が同じバイト仲間と、
一緒に帰ることもたまにあるんです。
でも彼女は土曜日のシフトには入っていないため、
今日は必然的に一人で帰ることになります。
「…………」
大学生にもなって、こんなに寂しがるのも
どうかと思うのですが……。
「……ディーノさん」
こんなとき、私は無性に彼に会いたくなります。
私が彼のことを好き、だからでしょうけれど……
でもそれって、私のワガママなんですよね。
だって、彼と付き合っているわけではないのですから。
きっと、お友達程度の関係だと思いますし……。
「…………」
そう、私のワガママだと頭では分かってるんです。
でも私の心が、彼に会いたいと叫んでるんです……
「ディーノさん……」
あなたに、会いたい――……
「……ふぅ」
色々と考え込んでいるうちに、最寄駅に着きました。
自宅までは、ここからすぐそこなのですが……
なんだかまだ家に帰りたくないので、
少しだけ遠回りでもしていきましょうか。
「こらこら、どこ行くんだ?」
「えっ……?」
今の声は……
「お前の家はこっちだろ?」
まさかと思いながらも、振り返ってみました。
すると、そこには……
「ディーノさん……!」
私が会いたいと思っていた人が立っていました。
でもあり得ないんです、彼がここにいるなんて……
だって、しばらくは仕事で来れないって言っていたから。
でも、そこに居たのは紛れもなくディーノさんで。
「どうしてここに……」
「うーん、なんかに会いたくなっちまってな」
「え!? そ、それって……」
なんだか意味深な言い方ですけど……!
「あー……まあ、ハッキリ言うとな。
オレ、お前のことが好きなんだ」
「ええっ!?」
うそ……
「だから急に会いたくなってな〜。
オレの仕事のせいで、最近会えてなかっただろ?」
「ええ、まあ……」
いえ、それよりも……
ディーノさんも、私と同じキモチだったなんて。
「これからはまた、定期的に会いに来るからな。
なるべく土曜日にな」
「……!」
寂しくなる土曜日に、わざわざ……
「……迷惑か?」
「い、いえ、嬉しいです!
私もディーノさんのことが……好きだから」
「そ、そっか!」
「はい!」
勢いよく頷いた私を見て、
彼は照れながらも優しく笑ってくれた。
そんな彼もとてもカッコよくて、
私はまた見とれてしまうのでした。
変わっていく私の土曜日
(もう、寂しくないですね)
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バイト帰り、ディーノに迎えに来てほしい妄想をしていました。
疲れたあとでも、その笑顔で癒されそうだなと……。
真冬に、寒そうにマフラーに顔をうずめながら
駅前とかで待っててくれるのが理想です。
いや、本当はあったかいところで待っていてほしいですけど。
ほとんどヒロインの独白だったので、かなり手直ししました。
と言っても、あんまり上手くまとめられなかったですが……。