「おはよー、アッシュ!」
「おう、か……
……って、なんだその格好?」
朝っぱらから船を訪ねてきたは、
いつものメイド服ではなく黒いスーツに身を包んでいた。
「今日、ジョーリィから指令が出てさ。
正直あんな奴の言うことなんて聞きたくねーんだけど」
なんて言いながら、嫌な気持ちを隠すこともせず顔に出した。
こいつは、なんでかあのグラサンをすげぇ嫌ってて……
まぁ俺もそこは同意するんだが。
「元々は、パーパとマンマからの指令だって言うから。
理由も理由だし、引き受けることにしたわけ」
その指令というのが、今日・明日レガーロで行われる
秋の収穫祭の運営補佐と、周辺警護。
何かと慌ただしくなる収穫祭に、
ファミリーで全面的に協力しようということらしい。
「あたしは運営のほうに回るかと思ってたけど、
周辺警護をしてこいって言われて」
「だから武器も持ってきてんのか」
「そーそー」
メイド姿のときには持っていない、の武器
――細身のカットラスを、今は背負っている。
スーツにカットラス。
なるほど、指令だって言われればそうなるわな。
「で? なんでここに来たんだよ」
これから警護に行くというのならば、街へ向かうはず。
それがなんでここに寄ったのか、理由が解らない。
「あー、それね。
アッシュにも指令が出たからだよ」
「はぁ?」
「だから、アッシュにも指令が出たんだって!
これ、あのグラサンから指令書ね」
あんまり受け取りたくない気もしたが、
とりあえずはその指令書とやらを受け取って開く。
“ 指令書
今日と明日の2日間は、収穫祭にて
と共に周辺警護に当たれ。
以上だ。
相談役 ジョーリィ ”
「って、なに当たり前のように言ってんだ!」
そもそも俺は、ファミリーに入った覚えはねぇ!
あのグラサン野郎、何考えてやがんだよ……
「まぁ、あのグラサンのことだから拒否権なさそーだけど。
どーする、アッシュ?」
まぁ、この言い方からすると
別に無視してもいいってことだろうな。
けど……
「…………」
「アッシュ?」
「俺がこの指令受けなかったら、お前はどうするんだ?」
「んー、そしたら一人で警護に当たるんだろーなぁ。
他のみんなも、それぞれペアが決まってるし」
今さら変更とか調整も出来ないだろうから、と言う。
「…………」
が一人で周辺警護か。
何も無ければそれでいいが、仮になんかあったら……。
運営補佐の方なら、一人でも問題ないだろう。
それをあえて周辺警護に回し、さらには俺にも指令を出した。
「…………」
あーくそっ!
やりやがったな、あのグラサン。
俺が指令を無視できねぇように、をわざと……
「……? アッシュ?」
黙り込んだ俺を、が不思議そうに見つめる。
つーかこいつも本当に、俺が断ったら
普通に一人で警護しようとしてて腹立つ……
「〜〜〜あーくそっ!
解った、その指令受けてやるよ!」
「え! いーの?」
「いいも何も、最初っから拒否権ねぇだろ」
「まぁ、確かにそーだけど……」
じゃあ、一緒に行こっか。
「準備してくるから、ちょっと待ってろ。
住人たちにも知らせてこねぇと」
「あっ、そーだよね!
皆さんに黙って行ったら、確かにまずい」
「すぐ戻るからな」
「おうよ!」
「人がすごい!」
「つーか、居すぎだろ……」
あれから船を出て、俺たちは街までやって来た。
収穫祭……祭りというだけあって、
人の数も賑わい方も、いつもの倍以上らしい。
「……あっ、お嬢とルカだ!
確か2人は、運営補佐のほうだったっけ」
の目線を追うと、確かのあの2人の姿がある。
祭りの運営を取り仕切ってるっぽいやつと、
何やら打ち合わせをしていた。
「運営も楽しそーだよね〜……」
2人の姿を見ながら、そうつぶやく。
「確かに、お前なら運営の方が好きそうだな」
「お! さすがアッシュ、よく解ってるね」
「いや、別に……」
『よく解ってる』というフレーズが妙に照れくさくて、
俺は曖昧な返事をしてしまった。
だが、が気にしている様子はなくて……
それに安心しながらも、俺は再び問いかける。
「なんで警護の指令を受けたんだ?」
運営補佐の方ならやる、って、
お前ならあのグラサンに反論しそうだろ。
「まーね。あたしも最初はそー言ったんだけど……
周辺警護は、アッシュとペアだって言われたからさ」
「え……」
「指令とはいえ、一緒に居られるのは嬉しーじゃん?
だから警護の指令をそのまま受けたんだよ」
なっ……
「お前……なんでそういうこと、
普通に言えんだよ……」
「え?」
「…………何でもねぇ」
――俺、今、絶対ぇ変な顔してる。
そう思って、少し足を速めた。
「あっ、ちょっと、アッシュ!?
歩くの速いんですけど……!」
そうしてが、慌てて俺のそばまで駆け寄ってきた。
言葉は焦っているが、顔が楽しそうだったのは
俺の勘違いじゃないと思う。
結局俺たちは まんまとハメられたわけだ
(あのグラサン野郎にな)