トントントン
「失礼します! です」
「ああ、入ってくれ」
ヴァスチェロ・ファンタズマ騒動から時は過ぎ、
冬の寒さも和らいで、少しずつ春の陽気へと移り変わろうとしてたある日……
朝ごはんのあとに呼び出され、あたしはパーパの部屋を訪ねていた。
「急にすまなかったな、」
「いえ、いーんですよ!」
ノヴァとおんなじ……と言っていーかは謎だけど、
あたしもパーパやマンマのこと大好きだし。
何か出来ることがあるなら、ぜひとも力になりたい!
……とゆー心持ちだったりするから全然問題は無い。
「それでだな、。
今日はお前に、依頼があるんだ」
「依頼……ですか?」
「ああ」
パーパが依頼なんて珍しーな……。
そんなことを思いつつも、事の詳細を聞くため言葉の続きを待つ。
「今日は、我が息子――ヨシュアの生まれた日でな」
「……!」
ヨシュアの……生まれた日…………
『私の息子を……
息子たちを、どうかよろしくお願いします』
あの日……
実の息子であるリベルタと……息子のよーに大切に想ってたアッシュを、
あたしに託して彼は消えていった。
「正確な命日が解れば、それが一番だろうがな」
それが解らないから……
パーパは彼の誕生日である今日、
花を手向けよーとあの日からずっと考えてたらしい。
「俺の代わりに、花を手向けてきてほしい」
彼のお墓は、あたしとリベルタがよく行く高台の近くにある。
どこにしよーかとゆー話になったとき、リベルタが強く希望したからだ。
「で、でも……
だったらパーパが、ご自分で行かれるべきでは?」
そー言ったけど、パーパは首を横に振った。
「俺はまだ……
どんな顔をして、あいつに会えばいいのか解らないんだ」
彼と向き合うのには、まだ少し時間がかかる……
そーゆーことらしかった。
でも、そうだとしてもパーパが行ったほうがヨシュアも喜ぶ気がする。
あの人は、過去のことを変に蒸し返すよーな人ではないはずだから……。
そーやって他にもいろんな言い方をしてパーパを説得したけど……
結局はその依頼を受け、あたしが代わりに行くことになった。
「あの、パーパ……
この依頼、リベルタとアッシュと三人でお受けしてもいーでしょうか?」
「ああ、そうだな……
ぜひ、そうしてくれ」
「はい」
パーパが行かないのなら、せめて……
元気な息子たちの姿を、彼に見せたい。
そー思ったあたしは、そんな提案をした。
そしてパーパもあたしの意図を汲み取ってくれたらしく、すぐに了承してくれた。
「手向けの花は、スミレに頼むといい」
「そーですね……そーします!」
マンマのバラ園に、確か……
今の時期にも咲いてるものが、あったはずだから。
手向けの花にバラってのは微妙かもしんないけど……
でも、マンマやノヴァが大切に育ててるものだから、いーと思うんだよね。
「じゃあ、パーパ……
支度ができ次第、行ってきますね!」
「頼むぞ、」
「はい!」
「――おい、ひよこ頭!
アイツはまだなのか?」
「だからさぁ、オマエ……『ひよこ頭』はやめろって言ってるだろ!
……あー、たぶんそろそろ来ると思うんだけど」
「リベルター! アッシュー!」
「「!」」
(なんかまた言い合いしてるっぽい)二人の名を呼ぶと、すぐに気づいてくれた。
『リベルタ! アッシュ!
ちょっと、一緒にパーパからの依頼こなしてほしーんだけど』
『依頼? いいぜ!』 『はぁ? 依頼だぁ?』
やる気満々なリベルタとは違い、
予想通りアッシュは「そんなもん引き受けるか」って感じだったんだけど。
『どんな依頼なんだよ、』
『うん……
今日はヨシュアの誕生日だから、お墓に花を手向けてきてほしーって』
『『……!』』
依頼の内容を知ったとたん、口では色々言いながらも
結局ついてきてくれてるし……。
「ったく……遅せぇんだよ」
「いやー、ごめんごめん」
今だってこんなイラついてる感じだけど、
心の底から……ってわけでもないだろう。たぶん。
「墓に行く前に買ってきたいものがあるって言ってたけど……
結局オマエ、何買いに行ってたんだ?」
「うーん……まだ秘密!」
お墓に着くまでは、秘密にしとくね。
リベルタはまだちょっと知りたそーだったけど、
あたしの言葉を聞いてひとまず追及をやめてくれた。
「さ! あんま遅くなるとマズイし、さっそく行こっか」
「ああ」
「仕方ねぇな」
「……あの事件の後、お墓を作って以来だね」
「ああ……そうだな」
ヨシュアのお墓がある墓地に着くと……
お墓を作ったときとおんなじ、自然に囲まれたのどかな風景が広がってた。
「まずはお水くまないとね」
「じゃあ、オレが……」
「貸せ、俺がやる」
話の流れでリベルタが水をくもーとすると、アッシュが横から割って入ってきた。
「……お前らは手が塞がってんだろ。
俺は手ぶらだし、俺がやる」
「アッシュ……」
あたしは自分が買ってきたものを持ってて、
リベルタは手向ける用の花を持っててくれてる。
確かに、アッシュの言う通り一番水くみしやすいのは彼だった。
「いいから、先に行ってろ」
「……うん! 行こう、リベルタ」
「ああ。頼んだぞ、アッシュ!」
「アッシュって、何だかんだ優しーよね」
「だな」
一足先にお墓に向かいながら、リベルタとそんなことを言い合う。
「あのとき、さ……
ヨシュアが消える直前、オマエに言ったよな」
『私の息子を……
息子たちを、どうかよろしくお願いします』
「オレ、あのときは変に慌ててたからさ……
息子『たち』の意味がわからなかったんだよな」
でも、その後すぐにわかった。
「あれは、オレとアッシュのことだったんだな」
「うん……」
実の息子であるリベルタは、もちろん彼にとってすごく大切な存在だ。
だけど……
長い時間を共に過ごしてきたアッシュも、同じくらい大切だったと思うんだ。
「ヨシュアが、アッシュのこと大切に想うのもわかるんだ。
アイツ、あんなだけどいいやつだもんな」
「うん……そーだね」
でも忘れないで、リベルタ。
ヨシュアは、あなたのこともすっごく大切に想ってたよ。
だってあんなに真剣に、あなたをあたしに託してくれたのだから……。
「大丈夫……わかってるから」
もしかしてアッシュに嫉妬しちゃったのでは……
とゆーあたしの心配は、どーやら不要だったみたいだ。
そー言ったリベルタは、あたしの大好きな笑顔を見せてくれた。
だからあたしも、安心して笑うことが出来た……気がした。
「おい、お前ら……墓の前でイチャついてんじゃねぇよ」
「あっアッシュ!?
べべべ、別にイチャついてなんかねぇし!」
「お水ありがとー、アッシュ!」
「おう」
急に現れたアッシュに焦りまくってるリベルタだけど、
あたしは気づいていたので、ふつーにお礼を言った。
……その後は、アッシュがくんできてくれた水を使って墓石を綺麗にし、
マンマに用意してもらった手向けの花を供えた。
「じゃあ……最後に、これね」
あたしは、二人と落ち合う前に買ってきたものを掲げて言った。
「ああ、さっき買ってきたアレな」
「んで? 結局、その箱の中身は何だよ」
「えーとね……」
アッシュの問いに対し、あたしは箱から中身を取り出しつつ答える。
「、それ……」
「うん……ケーキだよ」
あたしが取り出したのは、小さめのワンホールケーキだった。
「……なんかさ、ホントはケーキって場違いだと思うんだけど」
今日はお墓参りとして来たわけだから、
ケーキなんて持ってくるもんじゃないだろう。
でも……
「でも、生まれた日には違いないじゃん?」
だから、ちょっとでもいーから祝いたかった。
自己満足かもしれないけど……それでも。
「…………なんて、やっぱムチャクチャだったよね!
ごめん、今これしまうから……」
あたしがケーキを取り出した後から、二人は何も言ってない。
やっぱ、さすがに常識はずれだったよな……なんて思いつつ、
慌ててケーキをしまおうとすると。
「別に、いいんじゃねぇか?」
アッシュが、何でもないことのよーにそう言う。
「お前、メイドのくせにカットラス使えたり
アルカナ能力使って色々やらかしたり、最初っからムチャクチャだったしな」
今さらだろ、と言う。
「オレは……すっげぇ、いいと思う!
オマエの考え……ヨシュアも、きっとわかってくれるよ」
誕生日にはケーキだもんな、と言う。
「っ……二人とも…………ありがとー……」
一瞬言葉に詰まってしまったけど、なんとかお礼は言えた。
「……あっ、そーだ! オレ、ちょっといいこと思いついた!」
そー言ったリベルタは、
あたしがケーキ屋さんでもらってきたナイフを使ってケーキを切り分け始める。
そして、同じくもらってきたフォークを、あたしとアッシュに手渡してきた。
「四等分で、ちょーどだよな」
ヨシュアと……リベルタ、アッシュ、あたしで四等分。
みんなで食べよう、とゆーことらしかった。
「フン……まあ、ひよこ頭にしちゃあ確かにいい考えだな」
「オマエはまた……!
ま、まあ、四つのうち三つはオレらが食って、残りを供えようぜ」
「うん……そーだね!」
――――ヨシュア……見てますか?
あなたの大切な息子たちは、こんなに優しー人に育ってます。
リベルタは、その……いろんな意味で、あたしのことを支えてくれよーとしてる。
アッシュは、口ではいろいろ言いながらも困ってるときはちゃんと助けてくれる。
もしかしたら、これから先、二人にいろんなことがあるかもしれないけど……
ファミリーのみんなと一緒に、この子たちならがんばっていけると思うんです。
だから、どーか……
あなたは安心して、そこで見ていてください。
あたしも精一杯、この子たちの力になりますから――…………
――――ヨシュア、久しぶりだな!
ここに墓を作ろうって言ったのはオレなんだけど……気に入ってくれたか?
気に入ってくれたら、嬉しいんだけどさ。
オレは、隣に居ると出逢ってなかったら、ずっと成長できないままだった。
今こうしてオレが前を向いていられるのは、全部こいつのおかげなんだ。
でも、オレばっか頼ってるわけにもいかねぇから……
これからは、オレがこいつを支えていくよ。
オレはもっと強くなる。
だから、ヨシュア……あんま心配しないでくれよな。オレは、大丈夫だから。
……ついでにアッシュとも、うまくやっていければいいと思ってる。
みんなで一緒に、前を向いて歩いていくよ――…………
「…………んじゃ、そろそろ帰るか」
「うん……」
ケーキを食べたあと、あたしたちは揃ってお墓に向かい手を合わせていた。
二人の心の中まではわかんないけど……
きっとあたしと同じよーに、ヨシュアに何か伝えてたのかもしれない。
「オレ、水くんできたバケツ片付けてくるから」
「うん」
そー言って、リベルタが先にお墓を離れる。
「…………アッシュ?」
あたしもそれに続こーとしたが、アッシュは未だお墓の前に立ち止まったまま。
「悪りぃけど、先に行っててくれ」
「…………わかった!
じゃあ、墓地の前で待ってるから」
「ああ」
きっとまだ何か、ヨシュアに話すことがあるんだろう。
そー思ったあたしは、深くは追及せずその場を離れた。
「ヨシュア……見てるか?
お前の大切な息子と、その息子が大切に想ってるやつは毎日仲良くやってるぜ」
見てるこっちが呆れるほどにな。
「……リベルタ!
片付け、大丈夫そう?」
「ああ、ただゆすいで戻すだけだしな!」
「お前の息子は……いい奴だな。確かに、お前と似てると思う。
それに、その隣に居るアイツも……ムチャクチャだが、何か譲れないもんを持っててさ」
絶対ぇ本人たちには言わねぇけど。
「つーかアッシュは?」
「うーん……なんか、先に行っててほしーってさ」
「アイツらなら、たぶん心配いらねぇよ。
ま、そうは言っても気になるかもしれねぇが……
けど、お前はもう、ゆっくり休んで大丈夫そうだ」
「そっか……
じゃあ、行こうぜ」
「うん!」
「俺はまだ、『仲間』とか『ファミリー』って言われても、
正直よくわかんねぇ、けど……」
けど、この先……
お前が幸せを願ったアイツらの、助けにはなってやろうと思う。
だから、安心してくれ。
「……ああ、そうだ」
もしそっちで親父に会えるんなら、伝えておいてくれよ。
俺は元気でやってるから、心配いらねぇってさ。
「それじゃあな……」
おやすみ、ヨシュア――…………
希望の鎮魂歌
(遠く離れた場所に居るあなたへ この場所から送る歌は、)
ヨシュアの誕生日ということで、書いてみました。
なんか、もう亡くなってるキャラの誕生日って、
お祝いしていいのか解らなくなってきてしまったのですが……
まあ、生まれた日なのには違いないし、と思いつつですね^^;
出来ることなら、もうちょっとリベルタと一緒に過ごしてほしかったけど
こればっかりは、しゃーないですね。
アッシュとも、もうちょっと一緒に居てほしかったかな。
でも、リベルタもアッシュもあれでけっこうしっかりしてると思うので
心配いらないよ! みたいなのを、なんか書きたかったんですが
うまくいった感じしませんね…うーん。
とにかく……
ヨシュア、おめでとう!
そして、どうか、安らかにお眠りください――……