寝ていたら、突然ケータイが鳴った。
ディスプレイを見ると、大切な人の名前がある。
「……もしもし?」
電話を掛けてくれたことが、本当は嬉しい。
だけど、そんなこと知られたくないから
わざと機嫌が悪いふりをする。
『夜中にごめんねー、恭弥〜』
「悪いと思ってるなら、考えてから電話してくれる?」
嘘だよ。
本当はすごく嬉しい。
『あはは、ごめんって』
「反省してるようには思えないけど」
『……ごめんね』
突然しんみりとするから、内心焦った。
でも、それを悟られたくはない。
「……どうかしたの?」
努めて冷静に……
でも、キツくならないように問いかける。
『今ね……海にいるの』
「海……?」
こんな夜中に?
「君、まさか……
一人で居るなんて言わないよね?」
『うん、正解♪』
彼女は馬鹿なんだろうか……
こんな夜中に、一人で出歩くなんて。
「危機感とか無いわけ?」
『うーん、どうだろうね』
「ふざけないでよ」
『……ごめん』
さっきより声がしんみりしていたから、
僕はまた言いすぎたのかと焦ってしまう。
『……あのね、』
しかし、そんな僕の心中など知らず
がぽつりと話し出す。
『ちょっと見たいものがあって、海まで来たの』
「……」
『でも、なんか寂しくなっちゃって……
思わず恭弥に電話しちゃった』
おかしいね、一人で出てきたのは私なのに。
「…………」
僕が彼女に惹かれたのは、
僕じゃできないことをやってのけるからだ。
こうして自分の想いを素直に伝えるところは……
本人には絶対に言わないけれど、尊敬している。
「……ねぇ、海にいるって言ってけどさ」
『うん』
「どの辺にいるの?」
一口に海なんて言ったって、場所はたくさんあるけど。
『恭弥と初めて会った場所だよ』
場所を特定するには、それで十分だった。
「……寒くないわけ?」
「恭弥!? なんで……」
「迎えに来たんだよ。決まってるでしょ」
「……突然電話切っちゃったから、
怒って寝ちゃったのかと思ったよ」
……そんなことするわけないだろ。
僕は、君のことが本当に大切なんだ。
そんな人との電話を、無意味に切ったりしない。
そして、そんな大切な君を……
夜中、一人きりにしておいたりしない。
「ほら」
「わぁ、ココアだ!
ありがとう、恭弥」
「……どういたしまして」
さっき自販機で買ってきたものを渡す。
彼女はそれを見ると、嬉しそうに受け取った。
「それで……見たいものって何だったの?」
さっき、君は言ったよね。
「見たいものがあって海に来た」と。
それはいったい何なのか。
こんな夜中に来てまで、見る価値があるのか……?
「まだ、秘密」
「どうして?」
「それも秘密」
今のところは、話すつもりも無いみたいだけど……
「まだ」と言っているくらいだから、
そのうち教えてくれるんだろう。
「恭弥は優しいね」
「……唐突に、何?」
「改めて、そう思ってから」
僕が優しい、なんて……
「僕は……優しくなんかない」
「ううん、優しいよ」
「…………」
もし仮に、僕のことを優しいと感じるのなら……
「……それは、君だからだ」
「え?」
思わず、口に出してしまった。
「…………」
今さら誤魔化すことも出来ないだろう……それなら。
――たまには言ってみようか。
この人のように、素直に……
「もし僕のことを、優しいと感じるのなら」
「うん」
「それは……一緒にいるのが、君だからだ」
「……!」
君じゃなかったら……
他の誰かだったら、こんな夜中にわざわざ迎えに行かない。
そもそも、電話を掛けてきた時点で無視しているはずだ。
「恭弥……」
「……何」
「私、嬉しい」
嬉しいって、何が……。
「恭弥が……自分の想いを伝えてくれたから」
「……大げさじゃない?」
「そんなことないよ」
恭弥は、いつも自分の感情を表に出さないから。
「だから、すごく嬉しい」
「……そう」
「うん!」
僕は、ただ……
君の真似をしてみただけだ。
僕がこうして自分の気持ちを伝えたのは……
君がいつも、そうしてくれているからで。
結局は君の力なんだよ。
「ふふっ」
「何かおかしかった?」
「ううん、ただ……
珍しく考え込んでるなって」
笑いながら君は答える。
その笑顔が僕に大きな影響を与えているる事を、
君は知らないんだ。
「…………」
今だって、ほら。
僕はその笑顔に癒されている。
癒されているという事実に、
驚いている自分も同時に存在している。
「……変なの」
自分が、ここまで穏やかな気持ちになれるなんて……
そんなこと無いと、思っていたのにな。
「……あ!」
ぐるぐると考え込んでいたら、ふいに彼女が声をあげた。
何かと思って、いつの間にか俯いていた僕も顔を上げる。
すると……
「……日の出?」
「うん、そう」
日が昇っていた。
「私が見たかったのはあ、あの日の出なの。
よく見えるかな、って思って海に来たんだけど」
「ふぅん……」
そういうことだったのか。
「恭弥と一緒に見れて良かった」
「……そう」
「うん!」
本当に嬉しそうに笑う君を、僕はただ守りたいと思った。
君を、守るよ。
(あの日の出に誓って。)
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◇姫咲さんのリクエスト夢◇
2008年・お年賀企画、ゲスト枠の第二弾でした。
こちらも漏れず、修正させて頂きました。
当時わたしが友人からヒントをもらって
「真冬の海に、日の出を見に行く」という話にしたようです。
以前のシンデレラが楽しかったので、
白雪姫の案もあったようですが。
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