「……ディーノさん?」
「ん?」
「あの……
ずっと黙ってるから、どうしたのかと思って……」
「ああ……悪いな、ちょっと昔のこと思い出してて」
「昔?」
オレの隣には、自分を犠牲にしてまで護ろうとした
大切なひとがいる。
こいつを護るために、必死になって……
結局、オレは死神ではなくなってしまった。
先生の期待を裏切ってしまったかもしれないが、
後悔はしていない。
オレにとっては、そのくらい大切な存在だから……。
「オレが死神になった頃のこととか……色々な」
「そう、ですか」
「思い出してみれば、オレもお前と同じ
『強大な力を持つ魂』だったんだ」
「えっ……ディーノさんも?」
「ああ」
もう、すっかり忘れてた。
「意外か?」
「い、いえ……でも、」
「ん?」
「言われてみればそうかなぁ、なんて」
「……そうか?」
「はい」
自分じゃそんな感じしないけどな。
「だってディーノさんには、周りを元気にする
不思議な力がありますから」
「それって『強大な力』か?」
「え? えっと……で、でも、とっても優しいひとです!
その優しさがなかったら、私も救われなかったかも」
「……!」
『その優しさが無ければ、
「強大な力を持つ魂」を救うことも出来ません』
先生……
「確かに、その方法は合っていたかもしれません。
だけど、それだけじゃいけない気がします」
「……」
「ディーノさんの優しさがあったからこそ、
成功したんだと思います」
「……ああ」
そうだと、いいな――……
「……よし!
じゃあなんか食いに行くか」
「はい!」
の返事を受けてオレが立ち上がった、
そのときに気がついた。
「……!」
少し離れたところに、オレ俺を見て優しく微笑んでいる人がいる。
間違いない、あの人は……
「せん、せい……」
なんで……だって先生は……
焦りだすオレとは裏腹に、
その人は微笑んだままそこに立っている。
「…………」
――あなたは……先生、なんですか……?
俺は声に出さず心の中で問いかけた。
だが、その人には伝わったようで……
変わらず笑顔のまま、しっかりと頷いた。
「先生…………」
「あ、あの、ディーノさん……」
が少し不安そうな目でオレを見ている。
……ああ、そうか。
お前には、先生の話をしたことが無かったもんな。
「あの人は……俺が、一人前の死神になるまで
修行を見てくれた先生だ」
「つまり……お師匠さん、ですか?」
「ああ。けど、先生は遠い昔に消滅してな」
「えっ!? どうして……」
「黒にやられた傷が原因だった」
「そんな……」
が今にも泣きそうな顔をしている。
――さっきオレのことを「優しい」と言ったけど、
お前も十分優しいと思うよ。
そんなことを思いながら、宥めるように頭を撫でていると。
「あ、あの、ディーノさん……」
「ん?」
「だったら、あの人……先生と話してきてください」
さっきの泣きそうな顔とは違う、
強い意志の込められた瞳をして言う。
「……けど、幻覚かもしれないぜ?」
「それでも、何も話さないで後悔するよりはいいと思うんです」
「……」
……そうだ。
オレはこいつの、弱いようで強いところに惹かれたんだった。
「……悪い、じゃあちょっと行ってくるな」
「はい。私はここで待ってますから」
「ああ」
――ありがとう、。
「あの、……」
「お久しぶりですね、ディーノ。
あの頃はまだ、あどけなさも残っていましたが」
立派に成長したようで、とても嬉しいです。
「やっぱり、先生……なんですね」
「ええ」
どこをどう見ても、間違いなく先生なのに……
未だに、信じられないという気持ちの方が大きい。
けど、きっと……
先生はそれも分かった上で、また頷いてくれたんだ。
「あの方がさんですか」
「あ、はい……
のこと、知ってるんですか?」
「ええ、もちろん。
実は先ほど、スクアーロにも会ってきましてね」
そのときに教えてもらったのですよ。
「そう、ですか」
じゃあ、この人は……
オレが死神じゃないことも、もう知っている……?
「ディーノ」
「は、はい!」
「私の言葉が、あなたを縛り付けていたのですね」
「そんなことは……!」
そんなことはない。
ただオレが、あなたの期待に応えたかっただけで……
「あなたは本当に長い間、
死神というものを全うしてくれました」
「先生……」
「だから幸せになったとしても、
きっと罰は当たりませんよ?」
少しおどけた感じでそう言ったけど、
オレが気にしないようにしてくれたんだと分かった。
「……幸せになりなさい、ディーノ」
「…………」
「それが私の、心からの願いです」
「……!」
先生……
「先生……ありがとう、ございます……」
「ふふ。
彼女の前で泣いていたら、格好が付きませんよ」
「はい……」
そう返事をしたけれど、やっぱり涙は流れてしまった。
「え、ディーノさん!?」
それに気づいたらしく、驚いたが走りよってくる。
「大丈夫ですか?
とりあえず、涙拭いてください……!」
「あ、ああ……」
「さん」
「は、はい!」
「ディーノのことを頼みます」
「……!
……はい、任せてください」
「ふふ、とてもいい瞳をしている」
もしかすると、あなたにも死神の素質があるかもしれませんね。
「え……?」
先生はそのまま、この場から去ろうとする。
「先生! 最後に一つだけ……」
「なんでしょう」
先生は……
「先生は……どうしてここに……?」
すると先生は、首だけこちらに向ける形で言った。
「……ふふ、すぐに分かりますよ」
それだけを言って、先生は今度こそ立ち去った。
「……どういう意味だ?」
「たぶん、また会えるってことだと思います」
「そうか……そうだといいな」
「そうですよ、きっと!」
が眩しいくらいの笑顔でそう言うから……
俺も信じてみよう。
――翌日。
の学校が終わってから、一緒に出掛けようと約束していた。
「そろそろだよな……」
待ち合わせ場所である、正門前に立っていると。
「あっ、いた! ディーノさん!」
慌てた様子のが、オレのところまで走って来た。
「ディーノさん、大変なんです!」
「どうしたんだよ、。
大変って何が……」
……!
「まさか、……」
先生……?
「こんにちは、ディーノ。昨日ぶりですね」
に続いてこちらにやって来たのは、
間違いなく昨日会った先生だった。
「なんでここに……!?」
「言ったでしょう、すぐに分かると」
「それはそうですけど……」
一体どういうことなんだ……?
「ディーノさんのお師匠さん……先生は、
うちの学校の新しいALTだったんです」
「え……?」
どうやら先生は、英語を教えるため
の学校に今日赴任してきたという。
『二人とも、後は任せましたよ……』
あのとき確かに、先生は消滅したけれど。
今は転生して、普通の人間として生きていた。
「私が消滅してから、長らく経っていますからね。
転生してもおかしくはないのですよ」
驚きすぎて拍子抜けした感じもあるけど、
本当に……
「本当に良かったです……先生……」
「私もまたあなたと会えて嬉しいですよ。
まさか、お互い人間になっているとは思いませんでしたが」
先生は、あの頃と変わらない笑顔でそう言った。
「色々と話したいところですが、私も仕事でして。
もう戻らなければいけないのです」
「そう、なんですか」
「お二人の邪魔をしてもいけませんしね?」
「「先生……!」」
オレとの、焦る声が重なった。
「……ディーノ、幸せになりなさい」
「……はい!」
オレの返事を聞いて微笑んだ先生が、
今度はの方に向き直る。
「さん」
「は、はい」
「あなたにも、お礼を言わねばなりませんね。
本当にありがとうございます」
「そんな……」
オレを救ってくれた先生と、こうしてまた話せてるんだな……。
「良かったですね、ディーノさん」
「ああ……」
先生が転生してここに存在していることと、
オレとが出会ったことは、関係のないことかもしれない。
けど、なんとなく……
この再会はこいつが与えてくれたんじゃないかと、そう思えた。
「……よし! 出掛けようぜ、!」
「はい!」
「ふふ、行ってらっしゃい。
遅くならないようにするのですよ?」
「「はい、先生!」」
再び重なり、何だかおかしくて笑ってしまった。
先生もそんなオレたちを見て、優しく微笑んでくれた。
「昨日も思ったんですが……
本当に、素敵な先生ですね」
「ああ……そうだな」
オレはもう死神ではないけれど、
大切な人を護るためにしたことだ。
後悔はしていない。
「先生……ありがとうございます……」
オレを救ってくれたあの人も、
オレの幸せを心から願ってくれたのだから――……
助けれくれた、あの人に感謝を
(オレが死神にならなければ とも出会えなかったから)