「ちん、遅い〜。
しかも火神、まだいるし……」
「ごめんね、あーちゃん」
ベンチで休んでいるあーちゃんのところへ行くと、
むすっとした顔でそう言われてしまった。
最後のほうは、声が小さくて聞こえなかったけど……
……この感じからすると、
あんまり追及しないほうがいいパターンかもしれない。
「とにかく、さすがにちょっと疲れちゃったよね。
買ったお菓子も、早く食べたいし……」
さっきマップを見てたときも、
結局良さそうなお店を見つけていないけど……
「どこか、いいお店が無いかな」
「さん、
またあの地図んとこに行けばいいんじゃねぇすか?」
「うん……そうだよね」
ここで悩んでてもしょうがないもんね。
そう思いながら、さっきのと同じようなマップが
近くに無いかと探し始めると……
「何かお困りですか?」
「え、……」
ふいにそう言われ、声のしたほうを見てみる。
「あっ……、」
「タツヤ!?」 「室ちん〜」
あたしがその名を口にする前に、
驚いた火神くんとあーちゃんが同時にそう言った。
(あ、でもあーちゃんは特に驚いてないかも……)
「久しぶりだね、さん」
「あ、う、うん……久しぶりだね、氷室くん」
いろいろ聞きたいことがあったはずなのに、
氷室くんに微笑まれ、あたしは普通に返してしまった。
……いつも思うんだけど、
この笑顔を見るとなんだか和んじゃうんだよね……。
「って、さん! 和んでる場合じゃないっすよ!」
「あっ、そうだった!」
火神くんにつっこまれ、あたしは我に返る。
「それで、なんでタツヤがここに居るんだよ?」
「あーちゃんはあたしとの約束があったから解るけど、
どうして氷室くんまで東京に?」
状況が読み込めず慌てる火神くんとあたしに対し、
氷室くんは笑顔を絶やさないまま答える。
「実は、アツシと一緒に来ていたんだよ。
一人で東京に行かせるのは、少し心配だったから」
「あ……」
確かに初めて会ったときは、
あーちゃんだけ駅で迷ってたんだっけ……。
(そう言ったら、本人は絶対に否定するだろうけれど)
「でも、そっか……
だからあーちゃんは、氷室くんの登場に驚いてなかったんだ」
「オレだって一人で行けるって言ったのにさ〜
室ちんがどうしても一緒に行くって言うから〜」
「そうむくれるなよ。
ついでにオレも、久しぶりにタイガと会うつもりだったんだから」
ただ、メールしても電話しても返事が無いから、
どうしようかなって思ってたところだったんだ。
「あっ……マジだ。
メールも電話も、全然気づかなかった……」
氷室くんの言葉を受けて、火神くんが自分のケータイをチェックする。
彼の言う通りメールも電話も来ていたけど、見ていなかったみたいだ。
「けど、タイガとも君とも会えたし、
結果オーライだったみたいだな」
「うん、そう……かな?」
……あれ?
確かに火神くんとは会えてよかったんだろうけど、
あたしは別に関係ないんじゃ……。
「ちょっと室ちん〜、
さりげなくちんにアピールしないでよね〜」
「あはは、ごめんなアツシ」
なんだか楽しそうに内緒話してるけど……
いいことでもあったのかな。
「話が脱線してしまったね。
さん、さっき何か困ってたみたいだったけれど」
「あ、うん……
ちょっと買い物とかで疲れちゃったから、
どこか休憩できる場所はないかなと思って」
できれば、買ったお菓子を食べたりしても
大丈夫なお店とかあったりすると助かるんだけど……。
「ああ、それならちょうどいい店があるよ。
さっきパンフレットで偶然見たんだけれど」
氷室くんいわく、
他のお店で買ったものを持ち込んで飲食できる、
カフェみたいな場所らしい。
「今しがた通りかかったんだけれど、
けっこう空いていたから」
すぐに入れると思うよ、と、氷室くんは続ける。
「そうなんだ……そのお店、良さそうだね」
「行ってみるかい? 案内するよ」
「うん、お願いします」
そうしてあたしとあーちゃん、火神くんは、
氷室くんの案内でそのカフェへと向かった。
「ホントにすぐ入れたっすね」
「うん」
案内されたカフェに行くと、
氷室くんの予想通りすぐに中へと通してもらえた。
ものすごく広い場所ってわけではないけれど、
十分ゆったりとしていて休憩するのに良さそうだ。
「お菓子食べるんだし、何か飲み物あったほうがいいよね。
あたし、買ってくるよ」
そう提案すると、みんなして自分も行くと言い出す。
そんなことしたらレジが混み合っちゃうし……
何よりゆっくりしてほしい気持ちが大きかったので、
あたしはその申し出を断り一人でレジに向かった。
「……やっぱりさん一人じゃ心配だな。
オレも行ってくるよ」
「おい、タツヤ……!」
「う〜ん……」
みんながついてこないように、
強行突破して一人で来ちゃったけど……
「みんなが飲みたいもの、聞いてくるの忘れちゃったな……」
どうしよう……
なんとなくの好みなら解るものの、自信は無いし……
果たしてそれで大丈夫なのかな、というのは正直ある。
「……ああ、良かった、さん。
まだ注文してなかったんだね」
「えっ……氷室くん!?」
どうして……
「やっぱり、女の子一人に買いに行かせるのはね」
「氷室くん……ありがとう」
「どういたしまして。
それに君、みんなの注文聞いていかなかっただろ?」
「うっ……」
実はそこが一番問題だったり……。
「……なんて、
オレも二人の注文聞いてくるの忘れたんだけど」
「え!」
「でも、二人の好みはだいたい解るから」
確かに氷室くんなら、火神くんのことも
あーちゃんのことも、あたしより詳しいだろう。
なんだか、すごく説得力がある……。
「それじゃあ、注文しようか」
「うん!」
ええと……あたしは、ミルクティーにしようかな。
「ミルクティーが好きなのかい?」
「うん……とゆうか、紅茶や緑茶全般が好きなの」
お茶専門店とか覗いて、茶葉を買ってきたりもするし……
「けっこういろいろ、飲みやすいのがあるんだよ」
「そっか……今度、君のおすすめを飲ませてほしいな」
「うん、ぜひ!」
おすすめたくさんあるから迷っちゃうなぁ……。
「けど、紅茶やお茶全般が好き、ということは、
今はミルクティーの気分だった……ってことかい?」
「う、うん、その通りだよ!」
氷室くん、さすが!
「いつかオレも、君の気分を見極めて
そのとき飲みたいものを当ててみたいな」
「何だか、氷室くんなら出来そうだね」
ごく自然に、やってのけちゃいそうな感じがする。
「じゃあそのためにも、
君にもっと仲良くしてもらわないと」
「えっ、ええと……?」
「ふふ……よろしくね、さん」
「う、うん……??」
きっと君はまだ、よく解っていないだろうから
(オレも近いうちに 本気で仕掛けていくよ)