「えーと……」


集合した駅から電車に乗っていくつか乗り継ぎ、
目的地までの最後の乗り換えをするところで。

あたしは、ちょっと迷っていた。







「ここからこっちの線に乗り換えるんだから、ホームはあっち……
 じゃなくて、向こうかな?」


なんかよく解んなくなってきた……
案内板もあるけど、ちょっと見にくいし。

結局どっちに行けばいいんだろう?
(こういうことがあるから、東京周辺の駅は苦手なんだよね…)















「あっ…!」


そんな風に考え込んで俯いていたせいか、歩いてきた人とぶつかってしまった。
慌てて謝り、向こうも軽く会釈して謝ってくれたけど、転びそうになってちょっと危なかった。

まあ、こんなところで突っ立ってるあたしが悪いのかもだけど……















「とゆうか、結局どこで乗り換えれば……」


そうしてまた俯き加減になったとき、急に手を引っ張られた。
驚いて顔を上げると、その先に緑間くんの姿がある。







「み、緑間く……」

「こっちなのだよ」

「え…?」


「次の乗り換えはこっちだ」と言って、あたしの手を引いて歩き出す緑間くん。
どうやら、ここから目的地までの行き方を知っているらしい。













「あ、あの……
 緑間くんは、電車よく使うの?」


乗り換えとか、慣れている感じだけど……。







「よく、というほどではないが、
 練習試合などで移動する際にときどき使っているからな」

「なるほど…」


そっか、それなら乗り換えにも慣れてくるのかな。

そんなことを思いつつ、先をゆく形になっている彼の背中を見つめる。








「…………」


そういえば…緑間くんはどんどん歩いていっている感じだけど、
だいぶリーチの差があるはずのあたしも、別につらくない。

もしかして、歩調とか合わせてくれてるのかな……。


手を引く力だって、見た目よりも強くはない。
そんなところにまた、緑間くんの優しさを感じた。














「……どうした?」

「ううん…なんでもないよ」


緑間くんは優しいなぁって、思っただけ。

いったん振り返り、そしてまた前を向いた彼の背中に
心の中だけで答えを返した。



































「……着いた!」


公園の最寄駅に着いてからは、現地までずっと案内板があったので迷わずに行けた。







「緑間くん、見て!
 入り口から紫陽花がこんなに……!」


雑誌に載ってた写真を見ても、けっこう数ありそうだなって思ってたけど
これは予想以上かもしれない!

目の前に広がる景色にテンションが上がり、あたしはそのままの勢いで緑間くんに話しかける。















「ああ、見事だな。予想以上なのだよ」


話しかけた後で「はしゃぎ過ぎたかな」と心配になったが、
嫌そうな表情もせずに答えてくれた。







「……良かった」


そうやって答えてくれたことに、少し安心した。















「……? 行かないのか?」


いつの間にか公園の入り口のほうへ歩き出していた緑間くん。
立ち止まったままのあたしに、不思議そう問いかけてくる。







「ううん、行く!」


慌てて彼の後を追った。






























「人いっぱいだね……」

「ああ、ちょうど見ごろだからだろうな」


駅から入り口に向かうまでの間でも、目的地が同じだろう人はたくさん居た。
でも、中に入るとその比ではないような気がする。







「わぁ、綺麗……」


青と紫と、赤と濃いピンク…って言えばいいかな。
とにかく色とりどりの紫陽花が辺りに咲き乱れていた。










「緑間くん、ちょっと写真撮ってっていい?」

「構わないのだよ」


綺麗なのを撮って、リコちゃんやカゲトラさんにも見せてあげよう。
あ、あと、急に来れなくなっちゃった高尾くんにも。


















「ん?」

「せっかくだから、お前自身も写ったらどうだ?」


オレが撮ってやるから、と、カメラを寄こせと手を出す緑間くん。
けど、あたしはその手を見つめたまま動かない。







「どうした」

「うん…『せっかく』って言うのなら、緑間くんも一緒に写ろうよ。
 あたし、誰かにカメラお願いしてくる!」

「あ、おい、…!」



































「あたし、誰かにカメラお願いしてくる!」

「あ、おい、…!」


……行ってしまったか。







「全く…仕方がないのだよ」


だが、こうして二人でゆっくり出かけるのも新鮮で……
彼女の色々な表情が見られて、嬉しくもあった。













「少し癪だが、まあ……」


今回だけはお前に感謝するのだよ、高尾。



































「緑間くん、お待たせ!」


あたしは近くに居た同い年くらいの女の人にカメラをお願いし、
緑間くんのところに戻ってきた。







「じゃあ、行きますよー」

「はい、お願いします!」


そうして、ふたりで紫陽花と並んで写真を撮ってもらった。







「はい、カメラ」

「ありがとうございます!」


お礼を言うと、女の人も友人らしき人たちのところへ戻っていった。















「見て見て、よく撮れてるよ」

「そうだな」

「後でプリントしたら、緑間くんにもあげるね」


それにしても……







「緑間くんは綺麗だから、花と並ぶと映えるよね……」

「き、綺麗?」

「うん」


全体的に整っているのが、最大の理由だろうけれど……
なんてゆうか、羨ましい。















「綺麗だなどと言われても、嬉しくないのだよ……」





「え?」

「……何でもない!」

「ええっ!?」


何故か怒ってしまったらしく、緑間くんがずんずん歩き出してしまう。










「待って、緑間くん……!」


慌てて後を追うが、その差は広がるばかりだった。

やっぱり、駅を歩いているときは歩調を合わせてくれてたんだ……
……なんてのん気に考えてる場合じゃない!







「どうしよう…このままじゃ見失う……!」


走れば追いつくだろうけれど、人が多いからうまく追いかけられないし……!










「緑間く、……」


もう、見えない……







「どうしよう……」


完全にはぐれてしまった。
とりあえず、ケータイに電話してみようか…















「でも、何故か怒らせちゃったみたいだし…」


出てくれないかもしれない。
かと言って、自力で探し出せるような場所じゃない気がする…。

さっきと同じように、考え込んで俯き加減になったとき……










「……!」


名前を呼ばれたと同時に、手を引っ張られた。
驚いて顔を上げると、やはりその先には緑間くんの姿がある。







「緑間、くん……」

「どうした。 何かあったのか?」


良かった……










「緑間くんが、怒ってどっか行っちゃったのかと……」


思ったんだけれど、そうでもなかった…とも思える。
だって、こんなに心配そうな顔をしてくれているのだから。















「っ……
 その件については、すまなかった」

「……あたしが何か変なこと言っちゃった?」

「いや、そうではない。
 オレが……勝手に拗ねていただけだ」


拗ねてた?
どーゆうことだろう…。







「お前は何も悪くない……
 だから、気にしないでほしいのだよ」

「うん……解った」


全く気にしないっていうのは難しいけれど、
そう言うのならもう話題にするのはやめよう。

そんな風に思いつつ、あたしは頷いて見せた。















「この先に座れる場所があった。
 そこで少し、休憩しないか」

「そうだね」


行くぞ、と言った緑間くんと一緒に、あたしも歩き出した。
駅のときと同じように、手は繋いだまま――……





































「今日は一緒に行ってくれてありがとう、緑間くん」


あれから公園を一通り見終わって、駅周辺でお昼ご飯を食べたり
ちょっと買い物をしたりして、少し早めに帰ってきた。

まだ明るいから大丈夫だって断ったんだけど、
緑間くんがどうしてもと言うので、今は送ってもらっているところだ。










「いや……オレも、いい気分転換になった。ありがとう」

「どういたしまして!」


目的地はあたしの行きたい場所だったんだけれど、
緑間くんも楽しめたのなら良かった。















「……あ、そうだ!
 これ、どうぞ」


そこでふと、まだプレゼントを渡していないことに気づいた。
慌ててバッグの中から用意していたものを取り出す。







「何なのだよ」

「プレゼントだよ。
 緑間くん、忘れてたかもしれないけど……今日、誕生日でしょ?」

「あ、……」


この顔は、ほんとに忘れてたみたいだ。
それがおかしくて、少し笑ってしまった。


































プレゼントを渡されすぐ言葉を返せなかったオレを見て、
隣に居るが笑いをこらえている。(正確には、もう笑っている)

どうやら、オレが自身の誕生日をすっかり忘れていたと思っているようだが…
何も言えなかったのは、それが理由ではない。


ただ、彼女が、当たり前のようにプレゼントを用意してくれていた……
そのことに驚いて、何も言えなかったのだ。







「……ありがとう、

「ううん、どういたしまして」


気に入ってくれるといいな、と、つぶやくように言った。

――お前からもらったものを、気に入らないはずがないだろう。
そう思ったが、声には出さなかった。














「あのね、緑間くん」

「どうした」

「ちょっと言いたいこととゆうか……聞いてほしいことが、あるんだけど」

「何だ?」


少し改まった感じがしたから、何か重要な話かもしれない。
オレも彼女に向き直り、話を聴く体勢をとった。

































聞いてほしいことがある、と言うと、何か感じとったのか、
緑間くんがこちらに向き直ってくれた。

それを合図に、あたしも話し出す。











「その……緑間くんも高尾くんも、誠凛のみんなも……
 バスケが大好きなのは、あたしでも理解できてる」


だから、それを忘れて息抜きをしなよ、なんてことは言えない。







「そんなことを言うのは、逆に失礼な気もする」


けど、一時だけでもそれをほんの少し片隅に置いておいて…
その間は息抜きをして、また次からバスケに打ち込んでいってほしい。







「そう思うんだけれど、
 みんなにもうまく伝えることが出来ていないんだよね…」


ただ説明が下手なだけかもしれないけれど…。














「でも、今日それを、緑間くんにはちゃんと伝えておきたかった」

……」


いつも、誰よりも熱心にバスケに打ち込むあなただから。







「『頑張りすぎないで』っていう言葉が、あなたにとって良いのか悪いのかは解らないよ。
 でも、あえて言う」


――心配だから、あんまり頑張りすぎないでね。
あなたの努力はみんな解っているから、大丈夫だよ。


そう言うと、緑間くんはいつかのように一瞬目を見開き、
でもその後には、あまり見たことのない優しい笑みを浮かべていた。















「…………ありがとう、


その優しい笑みのまま、そう言ってくれたのだった。
あたしもなんだか嬉しくて、一緒に笑い合った。







































この温かい時間を大切にしたいと思った


(優しいあなたと一緒に居る、温かくて優しい時間を)























































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  かなり遅くなりましたが、緑間誕生日おめでとう!!!
  まじ小野Dな時点でツボなんですが、まあ、夢だと緑間が面白いと豪語してますからね、あたし。
  シリーズ長編でも、けっこう贔屓されているかと思います…。

  今回のは、さん誕生祝い→和成誕生日祝い の、続きみたいな感じです。
  時間軸おかしいんですが、まあ、そこは見逃してください…!(逃

  緑間は割とスマートに高尾のために動いてやりましたが、なんてゆうか、
  高尾はけっこう大げさにやってくれる気がします。それはいいかもしれないけれど
  別の言い方で表現すると、ちょっとうざい…かも。(笑)
  いや、和成くん好きですけどね!あたしは!!

  この夢はまだくっついてない設定のつもりなんですが、
  書いているうちに(思ってたのより)どんどん甘くなってしまって(?)
  困りながら書いていました。


  あと、この続き物たち(?)けっこう色々こだわっています。文字の配色とか!
  タイトルも、おんなじようなリズムの長いやつで合わせてますしね。
  視点がいろいろ変りすぎるのはあたしも苦手なのですが、あえてやってみた。
  でも結果、割といいと思っています(何

  
  まあ、色々言ってますが結局緑間が好きってことですよ!(え
  とにかくおめでとう、なのだよ!!(笑)