そうだ。
思えば君は、初めから少し変わっていた。
いつものように、応接室で仕事をしていると。
とても唐突に、思いきり扉が開いた。
『……誰?』
『私はだ。お前が雲雀恭弥だな?』
『そうだけど、何』
ノックもせずここに入ってくるなんて、いい度胸だね。
『私と手合わせしてくれ!』
『…………はぁ?』
予想外のことを言われ、思わず間抜けな声を出してしまった。
『不良の頂点とまで言われているお前の戦い方……
それをこの目で見てみたいんだ』
『へぇ』
自分から言い出してきたくらいなんだ、
この女子もそれなりに強いのだろう。
僕も少し退屈してたところだしね。
『いいよ、やろうか』
『本当か? では外に行くぞ!』
僕の返事を聞いたその女子は、
早くと言わんばかりに僕の手を引っぱっていく。
『ちょっと……
ちゃんと歩くから引っぱらないでよ』
『ああ、悪い!
早く手合わせがしたくてな』
その女子は満面の笑みで言った。
なんだかよく分からないけど……
きっと、戦闘マニアか何かなんだろう。
その後、僕はその女子と手合わせをしたんだけど……
彼女は僕に勝てなかった。
だからと言って、僕が勝ったわけでもない。
彼女――が、途中で戦いを放棄したんだ。
『途中でやめるなんて、どういうつもり?』
『どうもこうもない。
私の目的が達成されたから戦いをやめた、それだけだ』
『目的?』
それって、僕に勝つことじゃなかったの?
『私の目的は、お前の戦い方を見ること』
そしてその良いところを吸収する。
『お前を倒すことじゃない』
『……』
何それ……。
『意味わかんないんだけど』
『それはよく言われることだな。骸にも言われたぞ』
骸……
『六道骸を知ってるの?』
『お前も知っているのか、さすがだな』
知ってるというか……
いつか咬み殺す相手ってだけだよ。
『骸が強いというのは、見たら分かった。
だから手合わせを頼んだ』
『僕のときみたいに?』
『ああ』
彼女は骸と戦ったときも、
やはり今みたいに途中で戦いを放棄したと言う。
『骸には、「変わった方ですね」と言われたな』
『ふうん……』
ちょっと癪だけど、僕もその意見には賛成かな。
『とにかく、時間を取らせてすまなかったな!
助かったよ、ありがとう』
『…………』
本当に何だろう、この女子は……。
「おい、恭弥」
「何?」
「随分と考え込んでいたな。
いったい何について考えてたんだ?」
「……秘密だよ」
手合わせをした日から、
彼女はなぜかこの応接室に入り浸るようになった。
黒曜生のくせに、時間も気にせず平気で訪ねてくる。
「…………」
それにしても……
君のことを考えていた、だなんて、本人に言えるわけがない。
これ以上追究されても面倒だから、話題を変えよう。
「……ねえ」
「何だ?」
「なんで君は、いろんな人と手合わせするの?」
後から聞いた話だけど……
彼女は、獄寺隼人や笹川了平なんかとも手合わせをしたらしい。
「ああ、そのことか」
そこまで言って、彼女は何故か嬉しそうな顔をする。
よくはわからないけれど、聞いてほしかったんだろうか。
「相手の戦い方を見て、良いところを吸収する……
ってところまでは、前に言ったよな?」
「うん」
実を言うと、その時点ですでに謎なんだよ。
どうして良いところを吸収する必要がある?
「良いところを吸収するのは、もっと強くなるためだ。
そして、もっと強くなりたいのは……」
「強くなりたいのは?」
「守りたいものを守れるように」
「……」
自分が強くなるのは、守るため……
「恭弥は並盛の秩序を守っているよな」
「そう、だけど」
「それと似たようなものだよ」
ただ、私が守りたいのはヒトだがな。
「大切なヒトを守りたいときが、いつかきっと来る。
そのときのために、私は強くなりたいんだ」
「……ふうん」
手合わせを頼んで回っている背景には、
そういう考えがあったわけだ。
「恭弥も、大切なヒトを守りたいと思わないか?」
「は?」
「秩序を守るものいいと思うがな。
ヒトを守るのも、けっこう素敵なことだぞ?」
「…………」
そうかな……。
「はは」
「ちょっと……何わらってるの」
「いや、お前がきょとんとしてるからな。
珍しい表情だと思って」
「……君がおかしなことを言うからだよ」
君が、僕が考えてもいなかった……
「大切なヒトを守る」なんて言うからだ。
「まあ、今はよく分からなくても……
そのうち分かるかもしれないぞ?」
「……」
守りたい、大切なヒト……
「あ、哲矢。お茶くれないか?」
「はい、さん」
ちょっと……
草壁のやつ、なんで普通に彼女に従ってるわけ?
「なあ、恭弥」
「何?」
「私は結局、仲良くなった奴はみんな守りたいんだ。
もちろんお前もな」
何言ってるんだよ、全く……
「……そう。
でも、僕は君に守ってもらうほど弱くないよ」
「はは、全くだな」
「…………」
だけど、この先……
彼女の言うように、僕も誰かを守りたいと思うときが来るのかな。
「あ、このお茶うまいな。
哲矢、何処で手に入れたんだ?」
「ただの、市販のものですよ」
「そうなのか、市販も侮れないな……」
「…………」
今はよく分からない。
けど、もしそんなときが来るのなら……
僕が守りたいヒトは、君であったらいいな、と。
そう思った。
未来で分かること
(守りたいと思ったヒトは やっぱり君だったよ)
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◇妹のリクエスト夢◇
2008年・お年賀企画の第二弾でした。
こちらも修正いたしました。
今はとにかく風紀と並盛を守ることしか頭にないのに、
数年後とかに、いい意味で思い知ってくれたら
ちょっとかわいいなぁと思って書いていました。
この口調のヒロインはあんまり書かないので、
わたしの作品の中でもかなり珍しいですね。
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