死んだと聞かされていた、
オレのただ一人愛した女――。
だが彼女は生きていた。
幻でも、何でもなく。
一体どうして、そんなことになったのか……
言いたいことは、たくさんあったが。
オレは大人しく、10代目のお話を聞くことにした。
「つまり……は身を隠すため、
死んだフリをしていたということですか?」
「うん……そうなんだ」
一通り説明を聞いたオレが、そう聞き返すと……
10代目はつらそうな顔をしながらも、
しっかりと頷いてくださった。
「とあるマフィアに狙われているっていう情報が、
少し前に入ってきてたの」
その情報をつかんだ10代目は、偽の任務を与えて……
そして、任務に出た先で死んだということにして、
は姿をくらませたというのだ。
「極秘の作戦だったのよ、隼人。
ツナを責めないであげて」
「……分かってる」
「本当にごめんね、獄寺くん」
「いえ……謝ったりしないでください、10代目」
10代目は、誰よりも……
こいつの身の安全を考えてくださったのだ。
「謝って頂く必要なんて……ありませんから」
10代目がこれ以上、気になさらないように……
オレは出来る限りの笑顔で言った。
「……隼人。
この間あたしと一緒にやった任務、覚えてる?」
「ああ」
「そこでファミリーを一つ殲滅したわよね」
「そう、だな」
こいつの言葉の意図が読めず、
オレは曖昧な返事をすることしか出来ない。
「そのファミリーと親交のあった別のファミリーがね、
あたしたちを狙うっていう計画を立てたそうよ」
「あたし『たち』……?」
それって、つまり……
「狙われたのは、あたしだけじゃない。
隼人、あなたもなのよ」
「オレも……?」
だが、オレは今まで刺客に襲われた覚えなんてない。
狙われてたなんて、ちっとも……。
オレが考え込んでいると、彼女は呆れたように言う。
「あたしが姿をくらませたのは、
自分の身を守るだけじゃないわ」
「…………」
どういうことだ……?
「オレがに与えた本当の任務はね、獄寺くんの護衛なんだ」
「オレの、護衛……」
「そう。隼人の護衛が、あたしに課せられた最終的な任務。
そのために死んだフリをし、姿をくらませた」
こいつが……オレの護衛だって?
「でも、あたしが近くに居たことに全く気が付かなかったのね。
そんなことじゃ、これから困るわよ」
彼女はまた呆れたように、けれど少し笑ってそう言った。
「オレは、お前に……守られてたのか……?」
「だけど、結局襲ってきた奴は居なかったわよ」
そのファミリーの奴だと分かったら、
あなたに近づく前に始末してしまったし。
『オレが絶対にお前を守る。
だから、俺と一緒にイタリアに来てくれ』
オレはあんなデカイことを言っておいて……
ずっとこいつに守られていたのか……?
「オレは……
オレがお前を、守りたかったんだ……」
「隼人……」
オレの方が……守られてたのか……
「…………ごめん、ツナ。
ちょっと二人になってもいい?」
「うん。二人を狙ってるファミリーのところには、
ヴァリアーが向かってるから大丈夫だと思うよ」
「そう……」
彼らが動いてくれたのは意外だけど、
それならもう大丈夫そうね。
「じゃあ……オレは先に戻ってるね」
そう仰った10代目が、去っていくのを視界の端でとらえた。
「隼人」
立ちすくむオレのすぐ前まで、彼女が歩み寄ってくる。
「あなたの力を、見誤っていたわけじゃない。
ただ、ツナもあたしも、分かっていたのよ」
何をだ、という視線を向けると、
こいつは少し笑って答える。
「あなたは、あたしを守ろうとして無茶をするだろう。
だけど、それで死なれたらこっちが困るから」
「…………」
「だから……あたしのほうが、死ぬ必要があった。
もちろん、フリだけどね」
少し間を置いて、彼女は続ける。
「愛してる人だもの……
やっぱり、こんなところで死んでほしくない」
……
「そんなに落ち込む必要ないの。
あたしは、あなたにちゃんと守ってもらってる」
「けど、」
「今回は、色々な事情であたしが護衛することになったの」
たまには、あたしにもあなたを守らせて。
「いつも守ってもらってばかりじゃ、
マフィアとしての名がすたるから」
こいつは好戦的な笑みを浮かべて、そう言った。
「……はあ」
なんだか、いつまでも気にしてるオレの方が馬鹿みたいだな。
「……」
「ん?」
「ありがとな」
「……どういたしまして」
だけど、やっぱり……
オレがお前を守りたいと思うから。
今また、ここで誓わせてくれ。
「これから何があっても……オレが、絶対にお前を守る」
「うん……ありがとう、隼人」
は、さっきとは違う無邪気な笑みを浮かべていた。
オレはそんなこいつを……
ゆっくりと抱き寄せた。
もう一度、君に この手が届くなら
(何も言わずに 君を抱きしめるだろう)
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定期的にやりたくなるシリアスだと思います。
どうやら、大学生のとき大学の図書館で書いてたらしく
思い返すと「学校で何やってんだ」状態です。
当時タイトルがお気に入りだったんですが、
ストーリーに合わせてちょっとだけ変えました。