小学生の頃、私は泣き虫だった。

それが理由で、周りからは嫌な目で見られていた。
アイツはすぐ泣くから、と。





『っ……』


そんな風に言われるのが嫌だったから、
私は泣くことをやめた。

……いや、我慢をするようになったと言う方が正しいかな。









『うっ……ホント泣ける……』

『……』


中学に入学してからも、一度も泣いたことはない。

友達と一緒に映画を観に行っても、
彼女は感動して泣いているのに私は無表情のままでいた。





『…………』


映画自体は面白かった。
彼女たちが泣いたのも分かる。

だけど、私は泣かなかった。





『…………違う、そうじゃない』


私は泣けなかったんだ。


泣くことを我慢し続けた私は、
どうやって泣けばいいのか分からなくなってしまった。

だから、泣きたくても泣けない。



でも、それで良かった。
だって、私は……泣きたいわけじゃないから。




『そうだ、』


泣きたいわけじゃない――……





















ある日、この学校に転入生がやって来た。

大して興味の無かった私だけど、
友達の話から少しくらいの情報は持っている。


転入してきたのは三人。
中でも、六道骸とかいう奴は女子の人気がすごいらしい。





「ねぇねぇ、! あの人よ!」

「何が?」

「六道骸先輩!!」


友達の指差す方向には、例の三人の転入生らしき人物が居た。
一人で少し前を歩いているのが、その「六道骸」だという。





「へぇ、アイツが」

「ねー、カッコいいでしょ?もそう思うよね!?」

「……まぁまぁ」

「えーなんで〜?
 ホントにはクールなんだから〜」


私は最近よく、こんな風に「クール」だと言われる。

おそらく泣かないことが関係して、
感情も表に出にくくなっているからだろう。










「…………」


それにしても、六道骸……か。
実際に本人を見ても、特に興味は沸かないけど。





「……クフフ」

「……!」


もしかして、今……

アイツと目が合った?





「……まさか」


気のせい、だよね。










「どうしたの、?」

「……なんでもないよ。
 体育遅れちゃうから行こう」

「うん、そうだね!」

「…………」


六道骸……
なんか気になるな……。














――放課後になって。

私は教室で、先生に頼まれて資料作りをしていた。





「あの先生、人に仕事なすりつけて……」





、お前は帰宅部だからどーせ暇だろ?
 これホチキスで留めといてくれよ!』





確かに暇だけど……
だからって決め付けないでほしい。





「……!」


そんなことを考えていると、唐突に扉が開かれた。
ビックリしつつ目を向けると、そこには……





「六道、骸……」


そう、アイツだ。
六道骸が立っていた。





「クフフ……」

「……!」


六道骸は何も言わず、ただ微笑む。





「っ……」


そして、その直後に……

私は意識を手放してしまった。














――……


――――…………





「ここは……どこ……?」


気づくと、薄暗い場所に居た。

なんとか状況を把握しようと、辺りを見回すと……





……」

「お母さん!?」


近くにはお母さんとお父さんが倒れていた……

……血だらけの姿で。





「お母さん、どうして!?
 何があったの!?」

……ごめん、ね……」

「何が……なんで、こんな……!」

「お母さん……もうダメ、みたい……」


息も絶え絶えに話をするお母さん。




「なんで……」


どうしてこんなことに……!









「……!?」


混乱しながらも、さらに周りを見回してみると。

友達もみんな、そこら中で倒れていた。
お母さんと同じく、みんな血だらけで……。





「うそ、……」


いつも一緒にバカな話をする友達。

委員会で一緒の子。

近所の子供たちに、そのお母さんたち。

いつもすれ違う並中の生徒。

コンビニのアルバイトの人。

さっき私に仕事を押し付けた先生までもが、みんな。



みんな、血だらけで倒れているのだ。









「いやだ……どうして……!?」


どうしてみんな倒れているの!?





「何があったの……!?」


薄暗いせいで、倒れている人たちしか見えない。
それが、余計に恐怖心を煽った。





「誰か居ないの!?
 誰か……無事な人は……!」


今だ混乱したまま叫んだ私の耳に、
誰かの足音が入ってくる。

良かった、誰か居てくれたんだ!
少しだけ安心して、慌てて振り返ると……





「あんたは……」


そこには、謎の転入生――六道骸の姿があった。





「身近な人がみな死にゆく光景を目の当たりにして、
 あなたはどう思いましたか?」

「なっ……
 これは、あんたの仕業なの!?」

「さあ、どうでしょう」


六道骸は、クフフ、と微かに笑う。





「…………」


間違いない……コイツがみんなを……!










「自分以外が死んでしまって、悲しいですか?」

「当たり前じゃない!」


悲しくないわけない……





「私は、こんな……
 誰もいない世界で生きていかなきゃいけない……」


そんなの嫌だ……!





「私は……本当はそんなに強くないの……」


本当はつらいときだってある、
それに……





「泣きたいだってあるよ……!」


独りなんて嫌だ……
みんな……私を置いてかないで……!















「……そう、それでいいのですよ」


そう言って、六道骸は再び微笑む。

でも、心なしか……
さっきとは違って、どこか優しさを感じさせる。





「泣きたいときは、泣いてもいいんです」

「……!」


戸惑う私に触れた六道骸は、その指で私の涙をぬぐう。

そのとき私は、初めて気づいたのだ。
自分が泣いていることに。





「わたし……泣いて、る……」

「ええ、あなたは泣いています」

「そんな……」


泣くのを止めたあの日から、一度も泣いたことは無かった。

私はどこかに……
涙を置いてきてしまったはずなのに……。










「置いてきてしまったわけではありません。
 ただ、少し……忘れていただけですよ」

「忘れた……」

「ええ、そうです」


『自分は泣きたくなどない』と暗示をかけて、
そのうち忘れてしまったのですよ。





「…………」


……そうだ。
私はずっと……涙を忘れていたんだ。





「ですが、もう大丈夫ですね」

「……どうして?」

「現に今、あなたは泣いているじゃないですか」

「……!」


そういえば、そうだ……。





「クフフ」


六道骸は、再び私の涙をぬぐってくれる。










「あんたは……いったい……?」


少しだけ落ち着いてきた私は、単刀直入に問いかける。





「僕はただの転校生ですよ」


六道骸がそう言った直後、
私は再び意識を手放してしまった。
















次に気がつくと、私はもといた教室に戻ってきていた。





「お帰りなさい、さん」

「……!」


声のした方を振り返ると、六道骸が立っていた。





「思い出せて良かったですね」

「…………」


そうか……
私は、涙を……。










「さあ、帰りましょうか」


そう言ってまた、
六道骸は私の涙をぬぐってくれた。




















涙を思い出させてくれたあなたは、


(私にとって かけがえのない人になるのだろう)















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◇はぎの様のリクエスト夢◇

これも、かなり修正させて頂きました。
これが骸さんの初書きだったようです。

あ、わたしの中の骸さんって、こういうイメージなのか……
と、改めて思いました。



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