「はぁ〜、ホントにアイスおいしかった〜!」

「良かったっすね」

「うん!」


影山のおかげでしっかり気分転換できたし、
良かった良かった。





「それじゃー、買い物に戻る?」

「うす」


そんなことを言い合いつつ、
フードコートから出た……そのとき。










「……あっ! ちゃん、見つけた!!」





「……!!」


この声は……!





「及川さん!
 なんでここに……」


あたしがその名を呼ぶより先に、影山が言った。










「ちょっと待ってよ、それこっちのセリフなんだけど。
 なんで飛雄がちゃんと一緒に居るワケ?」

「なんでって……
 今日は一緒に買い物に来たからっすけど」

「何それ! ちゃん、
 さっきそんなこと一言も言ってなかったじゃない」

「だってあんたなんかに言う必要ないし」


つーかそれよりも、せっかく気分転換できたのに台無しだし!





「……さん、まさか」

「うん……さっき絡まれた変な奴、こいつ」


さりげなく影山の後ろに隠れると……
察してくれたのか、問いかけてきたのであたしも肯定した。










「ちょっとちゃん、またそんなとこに隠れて……」

「及川さん」


及川の言葉を遮るように、影山が口を開く。





「飛雄、何?
 今、及川さんはちゃんと話してるんだけど」

「何を言ったのかは知らないっすけど、
 さんは、及川さんの言葉で嫌な思いをしたらしいです」

「っ……だ、だから!
 そのことで、謝りたくて追いかけてきたんじゃん!」


おお!
あの及川が影山の言葉でたじたじになってる!

……なんて、あたしは場違いなことを考えた。










「と、とにかく!
 ちゃんに話があるから、飛雄はどっか行っててよ」

「お断りします。
 嫌な思いさせた張本人に、さんは渡せないんで」

「……飛雄のくせに言うじゃん」

「及川さんこそ、諦めてください」





「あわわ……」


よく解んないけど、一触即発みたいになってない?






















「…………あっ、居た居た! さん!」

「えっ……?」


こいつら、どーしよう? なんて悩み始めたそのとき……
聞き覚えのある声に呼ばれ、振り返ってみると。





「菅原! それに岩ちゃんも……」

そこには菅原と岩ちゃんの姿があった。





「どーしたの?」


確かに岩ちゃんはさっきも会ったけど、
なんで菅原と一緒に居るんだろ??










「俺も今日買い物しに来ててさ。
 それでさっき、偶然岩泉と会って」

「うん」

「それで岩泉に聞いたら、
 なんかさんが及川に悪口言われたっていうから」


悪口っていうか……
うーん、まぁ平たく言えばそーなるか。





「心配になって捜してたんだよね」


でも割とすぐ会えてよかった、と言って菅原は笑う。





「そーだったんだ……
 わざわざありがとう、菅原」

「このくらいはね」


そう言って、あたしの頭をなでてくれる。

ホント、なんてゆーか……
菅原と話してると、すごく安心できるなぁ……。















「……あ、そうださん。はい、これ」

「……?」


差し出されたので思わず受け取ってしまったけど、
なんで急に渡されたのかはよく解らない。

向こうにあったドーナツ屋さんの袋だというのは、
まぁ見れば想像つくんだけど……





「おいしいもの食べれば、気分が良くなるかなって。
 新作がおいしいってクラスで話題になってたから買ってきた」

「え! いいの?」

「もちろん。
 岩泉も一つ買ってくれたよ」

「え! 岩ちゃんも?」


まさかそこで岩ちゃんが出てくるとは思わなかったので、
あたしは思わず彼のほうを見る。





「うちのクソ川が迷惑かけたからな。
 ドーナツ一つで悪いが、良かったら食ってくれ」

「十分だよ! ありがとう、岩ちゃん!」


わー、どーしよう、すごく嬉しい!










「すぐ食べる?」

「あ、……後でにしよっかな。
 今ちょーどアイス食べてきたとこだから」

「そっか」


でも、ドーナツ楽しみだなぁ……えへへ。





「良かったな」

「うん!」


そう言ってまた、菅原は頭をなでてくれた。














さんは買い物終わったの?」

「うん、自分のは終わったよ。
 今はアイスで気分転換してきて、
 影山の買い物に戻ろうかって言ってたとこ」

「そっか。じゃあもう帰ろう」

「えっ?
 いや、でも影山が……」


未だに及川と言い合い(?)してて、
菅原と岩ちゃんの登場にも気づいてない気がすんだけど……。





「影山には及川の足止めしててもらって、
 今のうちに帰ったほうが得策だろ?」

「え、いやぁ、うーん……」


そう……かな?





「確かに、また及川に追いかけてこられても嫌だし……」

「そういうこと。じゃあ帰るべ」

「うん。岩ちゃんも、もう帰る?」

「ああ」

「じゃあ一緒に帰ろ!」


そう言うと、岩ちゃんは割とすぐに了承してくれた。










「でも変な感じだよね、菅原と岩ちゃんと三人で帰るなんて」

「まぁ、あんまない組み合わせだからなぁ」

「どっちかっつーと、対戦相手っつーイメージが強いだろ」

「でも菅原と岩ちゃんって、同じポジションじゃん!」


あたしがそう言うと、二人の頭上に「?」マークが浮かぶ。





「俺たちポジション違げぇぞ」

「岩泉はウイングスパイカーで、俺はセッターだよ」

「あ、いや! バレーじゃなくて、えーっと……」


なんて言えばいーのかな……





「その〜……人間関係のポジション? みたいな」

「「ああ……」」


あたしの言いたいことはどうやら伝わったようで、
二人とも微妙な表情をしつつも納得してくれた。















「……っと、俺こっちだわ」


しばらく三人で雑談しながら歩いていると、
岩ちゃんが別の道を指した。

あたしと菅原はだいたい同じ方向だから、
岩ちゃんとはここでお別れということになる。





「岩ちゃん、ドーナツ、ホントにありがとね!」

「いや、そんな高いもんじゃねぇし」

「うん、でもありがと!
 気を付けてね」

「そっちもな」

「またコートでな〜」


そんなことを言い合いながら、あたしと菅原は
別方向に歩き出した岩ちゃんを見送った。















「……あっ、そーいえば今さらだけど、
 影山になんか連絡しといたほうが良かったかな?」


岩ちゃんと別れてから、ふと影山のことを思い出した。





「それなら心配ないよ、さっき連絡しといたから」

「先に帰ってるから、って?」

「そう」


そっか……
まぁ、それならいいか。

先に帰ってきちゃったのは申し訳ないけど、
及川のこと足止めしててくれれば助かるし……。










「はあ〜、それにしてもホント、
 菅原が来てくれて良かった〜……」


あのまま及川と影山が言い合いを続けてたとして、
あたしどーしたらいいワケ? とか思うし。





さんの役に立てたなら良かった」

「役に立てたなんて……!
 大助かりだよ!」

「あはは」


あたしの言い方が大げさでおもしろいかったのか
いや、あたし的には大げさではないが
菅原はおかしそうに笑っている。





「けど、さんって本当……
 いろんな奴に絡まれたり懐かれたりするよね」

「ホントにね!」


影山みたいに懐かれるのならまだしも、
及川みたいに絡まれるのはゴメンだし……

……とゆーか、そもそも及川のことが好かないからか?










「本当にさ……
 セッターに好かれるオーラでも出してんのかな」

「えっ?」


なんかよく聞こえなかったけど……












「……いや、何でもないよ」

「え! 
 でも絶対今なんか言ったよね?」

「秘密〜」

「えー!」


そんな言い方されたら、余計気になるんだけど……!





「もったいぶらないで教えてよ!」

「ダメ」

「なんで!?」

「なんでも」


こいつー!
珍しくいたずらっ子みたいな顔しやがって……!










「こんな意地悪じゃなくて、
 いつもの優しい菅原が好きなのに〜……」

「……!」




















何でもないふうに、そういうこと言わないでよ……



(それが殺し文句だってこと、解ってる?)