「……あっ、っち! こっちこっち〜!」

「……!」

待ち合わせ場所に着くと、相手は既にその場所に居た。

嬉しそうな顔をし、大きく手を振っていて…
それに合わせて黄金色の髪がゆらゆら揺れているので、とても綺麗だった。






何でもわがまま聞きますDayです





















「ごめんね、遅くなっちゃったかな」

「大丈夫っスよ!
 まだ時間前だしね」

「そっか…それなら良かった」

待ち合わせの相手――涼太くんは、気にしないで、と言ってにこっと笑った。





「それより今日はドコ行く?
 カラオケ? 買い物とかっスか?」

「あ、うん…
 今日はね、涼太くんのわがまま全部聞いてあげようと思って」

「え??」

あたしの言葉に、きょとんとした顔をする。
それがかわいくて、あたしは少し笑ってしまった。





「えっ、何?
 今の笑うトコ!?」

「もちろん!」

「ええっ!?」

なんて冗談を交えつつも……

そろそろ涼太くんが拗ねてしまいそうだったので、あたしは本題に戻ることにした。










「ホントに?
 ホントにワガママ聞いてくれるんスか?」

「うん」

「ホンッッッッッットーに!?」

「だからそう言ってるでしょ」

何故か妙に疑り深い涼太くんをなんとか納得させたあたしは、
意気揚々と歩き出す彼に続く。





「それで、最初はどこに行くの?」

「買い物行こ!
 オレ、っちに似合う服とか選ぶの一度やってみたかったんスよ〜」

「そ、そうなんだ」

確かに、一緒に買い物行ったりするのはよくあるけど、
(主にあたし好みの)雑貨屋とか本屋なんかが多かったしなぁ…

そもそもあたしの場合、デートで服を見るって概念が無いというか……。










「オレが選んだ服、そのままずっと着ててね」

「え…まさか、試着してそのまま?」

「そ!」

だってワガママ聞いてくれるんでしょ?
とかわいらしくウインクされては、断ることは出来ない。

そもそも「わがまま」のことは自分で言い出したんだから、
断ったりしたら女がすたる!……と、思うし。





「どんな服がいいっスかね〜!
 最近けっこう暑いし、涼しげなやつがいいかな〜
 でもあんま露出が多いとそれはそれで他の男に見せたくないし…
 いや〜、でもそういうのも絶対似合う気がする!
 う〜〜ん……」

「…………涼太くん、楽しそうだね」

「そりゃあもう楽しいっスよ!
 他でもない君と一緒なんだから」

「……!」

きらきらの笑顔で恥ずかしげもなくそう言ったので、
あたしは面食らってしまった。










「……?
 どうかしたんスか?」

「あ、ううん、何でもない!」

慌ててごまかし、未だ不思議そうにしている涼太くんを促して
あたしはまた彼と共に歩き出した。























「はぁ〜、楽しかったーー!!」

あれから涼太くんの希望通り服を見て、それに着替えて、
一緒にクレープ食べたりカラオケに行ったり……

よくもまあ、あの短時間でそこまで出来たな…なんて思うほどのことをした、気がする。





「涼太くんが楽しかったんなら良かった」

わがままのことを言い出したのも、正解だったと思える。





「……そういえば、なんで急にワガママ聞くとか言ってくれたんスか?」

「え? なんで、って……」

まさかこの子は、気づいてなかったんだろうか。





「……?」

その様子を見ると、どうやら本当に…。










「今日……涼太くんの誕生日だよね?」

「…………あっ!!!」

もう夕方なんだけど、今まで気づかなかったんだろうか?
いや、そもそも……





「学校で、ファンの女の子たちがプレゼントとか持ってこなかった?」

仮にもファンならば、「誕生日」というイベントを見逃すなんてこと
無いと思うんだけど……。





「あ、…あー!!
 あれがそーだったんスね!!」

ようやく合点がいった、みたいな顔をした涼太くん。

この様子だと予想通り女の子たちからプレゼント攻撃はあったみたいだけど、
それでも全然気づかなかったようだ。(それもそれですごい…)










「でも…プレゼント受け取ったんでしょ?
 そのとき、みんな誕生日のこと言ってたはずだよ」

「あ、いやー……」

「…?」

「受け取ってないんスよ…プレゼント」

え……?





「その……
 っちがオレの気持ちに応えてくれたあの日以来、
 他のコからはプレゼントもらわないようにしてるんスよ」

「……!」

そう、だったんだ……





「どうしよう……」

「え?」

「嬉しい…………」

「……!」

涼太くんは、自分のファンを大切にする人だ。
あたしは、この人のそういう優しいところも好き…だし、尊敬している。

でも、そんな涼太くんがプレゼントを断るなんて……










「……! 涼太くん…!?」

なんて考え事をしていたら、急に抱きしめられた。





「あ、あの…!」

一体どうしたのだろうか。
何か大変なことがあったのか、なんて少し心配になったとき……





「……も……い……」

「え…?」

微かに、何か聞こえる。





「オレも……嬉しい…………」

「……!」

今度は、ちゃんと聞こえた。










「な、なんていうか……
 っちが、こうやって思ってることを言葉にしてくれて、すごく嬉しいんス」

「涼太くん……」

「まあ、君の性格からして恥ずかしいのかもしれないっスけど……
 たまには、そういう想いも聴かせて?」

「…………うん!」

勢いよく返事をすると、涼太くんも満足そうに微笑んだ。










「……さーてと!
 今日はワガママし放題だし、最後にもう一つ聞いてもらおっかな〜」

「う、うん!
 言い出したのはあたしなんだし、もちろんいいよ!」

そろそろ帰ろうか、なんて言ってこうして歩いてたわけだけど……
やはり自分が言い出した手前、彼のわがままを聞くのは当然だ。





「じゃあー……
 もうちょっと、一緒に居てくんないスか?」

「……!」

それは……





「それは……『あなたの』じゃなくて、『あたしの』わがままだよ……」

そうつぶやいたら、涼太くんは再び満足そうに微笑むのだった。