「う〜ん……」


「…………」



「う〜〜〜ん……」


「…………」



「うう〜〜〜〜〜〜ん…………」





「…………出来たぞ」

「あっ、ありがとー、ハル!」

テーブルの前に座り込んでいたあたしの目の前に、コトンと何かが置かれる。
それがハルの焼いてくれたサバだと気付くのに、あまり時間は掛からなかった。










「…………それで、何故あんなに唸っていたんだ?」

「…え? あたしそんな唸ってた!?

「…………」

オイちょっと待って!
ハルがなんか、めっちゃかわいそーな子を見るよーな目ぇしてんですけど!?





「……無意識だったのか」

「え、あ、うん……そーかも」

別に、バカにされたわけではないらしいな…。










「悩み事か?」

「あ、いやぁ、えーと……」

ていうか今日のハル、口数多い……
なんて場違いなことを考えつつ(いや考えるなって話だけども)あたしは答える。





「来月、渚くんの誕生日あるじゃん?
 それでなんかお祝いしたいけど、どーしようかな〜って」

「…………」

「……ハル?」

アレ? なんも反応ない?





「…………渚の誕生日、来月だったのか」

「オイ!!」

いや、確かにこの子そーゆーの疎そうだけど!
あんま興味なさそーだけど!










「……どうやってお祝いするのかってのもあるけど、
 プレゼントも、何あげたらいーのかなぁって感じだよね」

いつまでもツッコミを入れてるわけにもいかず、
あたしはひとまずそのまま話を進めることにした。





「そんなの簡単だろう」

「えっ? ハル、なんかいい案あるの!?」

「本人に聞けばいい」

「オイ!!!」

って、またつっこんじまったじゃねーかよ!!
もうなんなの、この天然少年!? いや、青年か!?
(って、そんなのはどーでもいいか!)









「本人に聞けばいい、って……
 そうは言うけど、案外難しーもんだよ」

そーゆー展開を今までいろんな場所で何度も見てきたわけだが、
果たしてそんな可愛い感じの展開を、あたしが繰り広げられるのかって考えると……





「……いやぁー、無理だわマジで!」

「…………」

てか、ホントどーしよ……
これ以上ハルに相談しても埒あかねーしマコに相談しよーかな?










「本人に聞いたほうがいい」

「ハル……」

マコに相談しよーとしたあたしの考えなどお見通し…と言われた気がした。

まぁ確かに、それが一番だってあたしも解ってるけどさー……





「真琴に聞いても、きっと同じことを言われる」

「う〜〜ん、それは一理あるかもね」

そーだな……
うん、そーしよう。

本人から情報を得ることにしよ!





「でも、ストレートに聞くとサプライズ感が薄まるし……
 ここはさり気なく探りを入れることにするよ!」

「まあ、俺には関係ないから好きにすればいいんじゃないか」

「おうよ!」

……って、いやいや待て待て!!





「ハルも他のみんなも、一緒にお祝いすんだよ?」

「……!
 それは……駄目だ」

「ええっ! 何故!?

「渚が喜ばない」

はぁ?
あんな「みんなで騒ぐこと大好きですよ!」人間の代表みたい子なのに!?






「理由は言えないが、とにかくそれはおすすめ出来ない」

「ええー……」

でも、この子もけっこう頑固なとこあるからなぁ……















「……うーん、解った。
 じゃ、とりあえずその話は保留にしとくとして、渚くんに探りを入れてきます」

「ああ」

よし!
そーと決まったら、明日さっそく行動開始よ!





「ハル! あたし明日、早起きするよ!」

「朝飯は?」

「ハルの手を煩わせてしまうので要らないです。
 コンビニ辺りで買おうと思う!」

「……お前がそう言うなら止めないけど」

自分で言っておいて寝坊するなよ、と、ハルは痛いとこついてきた。
(あたしだって寝坊が多いわけではないが、一度もしなかったわけでもない…)





「それでさぁ、ハル。一つだけ質問いーかな?」

「……?」

「渚くんの家ってどの辺?」

「渚の家?」


























「ここかぁ〜……」

昨夜、ハルに渚くんの家を聞いたあの後……



     
『渚くんの家ってどの辺?』

     『渚の家? 知らない

     
『オイ!!』

     知らないのかよ!!





     『……真琴なら知ってるかもしれない』

     『ホント!?』

     『一応部長だからな』

     あー、なるほど……って、いや待てよ?
     それだったら、江ちゃんのほうが知ってそーな気が……





     『……もしもし、真琴か。聞きたいことがあるんだ』

     『ってオイ!! 有言「即」実行か!!』





     『渚の家?
      ちょっと待って、確か江ちゃんが作ってくれた部員の連絡先一覧があったはず……』

     なんてやり取りの末、あたしは結局マコから渚くん家の所在地を教えてもらったのだった。















「いや、っていうか……
 連絡もなしに押し掛けちゃったけど、これからどーしよ?」

さすがにこの時間なら、まだ家を出てはいないだろーけど……
出てくるまでここで待ってるっていうのも、なんかちょっと。

明らかに不審者っていうか……
ストーカー予備軍ってこんな感じなのかしら。





「って、違う違う!
 あたしは断じてそんなものでは……!!」















「……あれっ、ちゃんじゃない?」

「……!」

いったんここから離れて、出直そうか考え出したそのとき……
(100パー間違いなく)目的の人の声が聞こえた。





「渚くん!!」

良かった〜、なんとか会えたよ!
不審者として通報されずに済んだね!冗談抜きで!





「こんな朝から、僕んちの近くで何してるの?」

ハルちゃんも一緒? と無邪気に問いかけてくる渚くんに
「ハルは居ません」と即答しつつ、あたしは本題に入る。










「どうしても渚くんにお願いがあって、朝っぱらから訪ねてきたんだけど……
 もしかしてこれから学校に行くところ?」

「うん、そうだよ!」

制服をバッチリ着こなして鞄持って家を出てきたみたいだし、
ふつーに考えたら、これから登校するぞって感じだった。

……いや、っていうか自分で言うのもなんだけど、
こんな朝っぱらから訪ねてきたってのに全然気にしない渚くんを尊敬するよ。うん。





「そ、そっか!
 学校に行くところなら、ちょーど良かった」

あたしのその言葉に、渚くんはきょとんとしてみせる。





「もし渚くんが嫌じゃなかったらでいーんだけど……
 学校まで一緒についてってもいい?」

「学校まで一緒に? うん、いいよ!」

「えっ? ホントにいーの!?」

「うん」

マジですか!?
ってか決断、早ッ!!










ちゃんったら、変なの! 自分からお願いしてきたのに」

「いや、それはそーなんだけど……」

ここは、ふつー困惑するところじゃないの?
……いや、そもそもその「ふつー」ってのも、この子には通じないのか…。





「そういうことなら、早く駅まで行こうよ!」

「あ、そ、そーだね!」

乗り遅れたら大変だもんね!

そう言い終わるか終わらないかのところで、
渚くんはあたしの手を引っ張り急に駆け出す。





「なっ、渚くん……!?」

「全速前進〜〜!」

なんか、めっちゃ楽しそーなんですけど、この子…!















「……あっ! ちょうど電車来たところだね♪」

「はぁ、はぁ……うん……ぜぇ、はあ……」

そんなものすごい距離だったってわけじゃないけど、
もともと運動が得意ではないあたしは、駅に着いた頃にはだいぶ息切れしていた。

隣に居る渚くんは、というと……
走ってその上めっちゃしゃべってたのにも関わらず、涼しい顔をしている。





「ほら、ちゃん! ここに座ろ♪」

「う、うん」

車内はだいぶ空いていたので、すぐに座ることが出来た。

そして座ったとたんにどっと疲れが出てきた気がして、
「もう若くないんだな」と実感する。(悲しい現実だ……)





「ねえねえ、ちゃん!
 昨日僕の家でね、こういうことがあって……」

さっき走ってる間もあんなに話題振ってくれてたのに、まだ尽きないんだなぁ。

そんなことを考えつつも、あたしはそろそろ本来の目的を果たさなければ、と思い……
(バレない程度に)渚くんのことをよ〜く観察することにした。















「……――それでね〜……って、もう学校着いちゃった」

「……え!?」

話を中断した渚くんが残念そうに言ったところで、
もう学校の目の前までやって来ていたことにやっと気づいた。





「もうちょっとちゃんとしゃべりたかったんだけどなぁ〜」

ざ〜んねん! と、渚くんは可愛らしく言う。





「……あれ?」

そこでふと、あたしはあることに気づいた。










「どうかした?」

「いや、えっと……
 よくよく考えたら、渚くん今日は怜ちゃんと一緒じゃないよね」

勝手なイメージだけど、いつも一緒に登校してるような…。





「あ〜、怜ちゃん? そういえば会わなかったけど…
 まあ、いつもより一本早い電車に乗ったからね」

「え?」

「僕んちから駅まで一緒に走ったでしょ?
 あれでいつもより早く着けたから」

な、なるほど……
じゃあちょうどよく来たあの電車は、いつもより早いやつだったのか…。

でも確かに、怜ちゃんが居たら居たで
朝っぱらから渚くんを訪ねた理由をしつこく聞かれそうだから、
居なくてよかったかも……(怜ちゃんには悪いけど)










「でも、そのおかげでちゃんと二人で登校できたからね♪」

「え? あぁ、うん…」

それは、どーゆーことだろ…
別に深い意味は無い……のかな?










「ねえ、ちゃん!
 僕からもひとつお願いしてもいい?」

「う、うん、いーよ!」

渚くんが快く引き受けてくれたとはいえ、
あたしの目的のため付き合わせてしまったのは事実だ。

その代わりに何か出来るなら、それもいいかも…とう思いからそう答えると。





「来週の金曜日もね、こうして一緒に登校してくれない?」

「え?」

「あっ! 出来れば下校も!」

「ええっ?」

なんで急に?
っていうか、来週の金曜日って……





「……あ!」

来週の金曜日は、8月1日……
渚くんの誕生日当日だ!!










「僕ね、その日が誕生日なんだ!
 誕生日の朝から好きな子の顔を見れたら、一日頑張れるでしょ?」

「え!?」

「ダメ?」

「いや、ダメっていうか……」

今なんか変なことを言ったよね?
気のせい?





「じゃあ、いい?」

「うっ、うん……いい…けど」

「ホント!? やったぁ!!」

なんかもう「今のどーゆーこと?」なんて聞けないよね……
完全にタイミング失ったわ。

でも……





「約束だからね、ちゃん! 忘れないでね?」

「う、うん、大丈夫、忘れないよ!」

渚くんが嬉しそうにしてるから、ま、いっか。















来週の金曜日、あなたをお迎えに上がります


(わざとかしこまって言ったら、一瞬目を丸くした後、渚くんは珍しく照れ笑いを浮かべた。)




















「……あれ?
 学校の前で何してるんだ、、渚」

「マコ! ハルも」

「おはよ〜、二人とも!」

そーか、もう二人も学校に来る時間なのか……
なんて思いつつ、ハルのほうに目をやると。





「お前の計画だと渚が喜ばない理由は解ったか?」

「え!? あ、いやぁ……まぁ、なんとなく」

「…………」

「ってオイ!! その目で見ないで!!」

昨日と同じよーに、ハルがまた
めっちゃかわいそーな子を見るような目をしてきた。

そしてさらに、そのすぐ後……
「こんなところで朝から何を騒いでいるんですか」と
ジト目で見てくる怜ちゃんにつっこまれるのであった。











+++++++++++++++++++++++++++

 いや、結局は渚くんも二人きりで登校したかったので
 わざと走って電車一本早くしたんですよ、っていう話。


〜2014.08.04追記〜

っていうか、渚くんの誕生日ってもう夏休み中ですよね…orz
ま、いっか。一緒に登校したかったし(オイ