「リコちゃん、お待たせ〜。車、停めてきたよ」

     「ありがとう、さん。助かったわ」


     地元から少し離れたこの山奥……と言うのか、とにかく、
     誠凛バスケ部はここで約2週間の強化合宿を行う。


     あたしはというと……
     運転してきた車を駐車場に停めて、旅館に戻ってきたところ。

     駐車場がちょっとだけ離れているので、
     旅館の前で荷物だけ降ろさせてもらったのだった。




     今回の合宿について話を聞かされたのは、3日前……

     閉館時間を過ぎて、ジムを閉めたあと、
     リコちゃんと一緒にマシンを掃除していたときだった。







     
『山の近くで合宿?』

     『そ。海は行ったし、今度は山』


     海は行ったって……
     もしかして、秀徳と鉢合わせしたアレかな。

     リコちゃんの言葉を受けて、あたしは漫画の内容を思い出した。





     『移動手段なんだけど、車で行こうかと思って』

     『へえ〜』

     『そこでさんにお願いがあるの』

     『うん、何?』


     ご厚意でここに置いてもらっている身だし、
     何よりリコちゃんの手伝いならぜひやらせてほしい。

     よほど無理なことでなければ、当然引き受けようと思った。





     『車の運転をしてほしいのよ』


     最初は、電車で行こうと思ったらしいんだけど……

     荷物が多いし、他のお客さんに迷惑がかかるかも、
     ということを考慮した上での選択だったらしい。


     ただ、カゲトラさんの運転する車だけだと人数的に足りないので、
     あたしにも運転手をしてほしい、とのことだった。
     (ちなみに、レンタカーを1台借りてくれるらしい)





     『そのくらいならお安い御用だよ!
      合宿中も色々あるだろうし、出来ることは手伝わせてね』

     『ありがとう、さん! 大好き!』

     『えへへ』


     こんな可愛い女の子に「大好き」と言われて喜ばない人間は居るだろうか。
     答えは否である。

     とにもかくにも……

     こうしてあたしは、誠凛バスケ部のみんなと共に
     合宿に参加することになったのであった。








     「そういえば、あたしの荷物は?」

     「それなら、火神くんが部屋に運んでくれているはずよ」


     一番体力が有り余ってそうだったから頼んだ、と、リコちゃんは言う。

     ついさっき部屋に向かったから、
     今から追いかければちょうどいいだろうとのこと。





     「じゃあ、とりあえず部屋に行く?」

     「ええ、そうしましょ」


     そうして、先に行った火神くんたち(と荷物)を追いかけ
     あたしたちも部屋に向かった。















     「火神くん!」


     リコちゃんと二人、部屋の前までやって来ると、
     荷物を運んでくれた火神くんの姿があった。





     「あ、さん……
      車は大丈夫なんすか?」

     「うん、ちゃんと停めてきた」


     荷物ありがとね、と言うと、
     火神くんは照れくさそうに「大したことないっす」と答えた。





     「それに、カントクから言われたのに断ったら、後が怖いんで……」

     「あ、あはは……」


     その言葉に、あたしは苦笑するしかなかった。





     「とにかくさん。
      私たちはまず、荷物を部屋に置いてきましょ」

     「そうだね」

     「火神くんたちは、着替えてさっそく練習よ。
      みんなにも伝えてきてくれる?」


     うす、と短く返事をし、
     火神くんはみんなのもとに向かった。





     「……さてと。今日から2週間、しごき放題ね♪」

     「そ、そうだね……あはは」


     至極楽しそうなリコちゃんの横で、
     あたしはまた苦笑するしかなかった。




     ……とにかく、これから約2週間の強化合宿だ。

     あたしには専門的な知識があるわけでもないし、
     バスケがうまいとかいうわけでもない。

     出来ることは限られているだろうけれど、それでも精一杯手伝おう。
     そう心に決め、あたしも動きやすい服装に着替えた。


















それはまだ、始まったばかり。


(序章に過ぎないのだろう)