「青峰くん!!」


     旅館に着くと、予想通り桃井さんの姿があった。
     青峰くんに駆け寄り、お小言を言っている。











     「さん」


     ふたりの様子をぼーっと見ていたあたしのもとへ、
     一緒に青峰くんを待っていたらしい、黒子くんがやって来た。





     「黒子くん……」

     「青峰くんと、一緒だったんですね」

     「……うん」


     あたしはそれしか答えなかったけれど、
     黒子くんも、特にそれ以上は何も聞いてこなかった。











     「っと、青峰くんのお説教はこのくらいにして」

     「つーか説教って何だよ」

     「テツくん! その子、誰?」


     青峰くんの言葉を軽く無視した桃井さんは、
     あたしに目線をやりながら黒子くんに問いかける。

     その視線にどぎまぎしながら、
     あたしは黒子くんの返答を黙って待った。





     「桃井さん、ご存知ないんですか?」


     てっきりあなたなら、もう知っているかと思ったんですが。


     ――確かに、黒子くんの言う通りだ。

     いろんなデータを集めている彼女ならば、
     あたしのことでさえ知っている可能性は高い。


     そんなことを考えながら、彼女を見つめていると。





     「うん……残念ながら、その子の情報は無いの」


     ちょっと悔しそうな顔をしながら、彼女は答えた。





     「そうですか」


     では改めて紹介します、と、黒子くんは言う。





     「こちらは、さん。
      訳あってうちのカントクの家で暮らしています。
      その関係で、僕たちバスケ部のことも色々手伝ってくれています」

     「あ、あの、です! 初めまして!」


     黒子くんの紹介のあと、あたしも慌てて自己紹介をする。





     「私は桐皇学園1年の桃井さつきです♪
      こっちは同じ桐皇1年の青峰大輝くん」

     「う、うん、よろしく……桃井さん、青峰くん」

     「さんはやっぱり誠凛なんですか?」


     親しみやすい笑顔でそう問いかけられ、
     あたしはちょっと考えたあとに答える。





     「え、えーと……一応高校は、とゆうか、
     大学ですら卒業している年齢です」

     「えっ!?」

     「マジかよ……」


     あたしの返答に、桃井さんはおろか
     青峰くんまでもが驚いた表情になる。

     とゆうか、この年齢で
     何度も高校生に間違えられるあたしって、一体……。

     そんな微妙な心境になりながらも、あたしは続ける。





     「よくマネージャーに間違えられるんだけど……
      正しくはちょっと違うってゆうか」


     やってることは、大きく変わらないかもしれないけど……。





     「こんな年上だけど、良かったら仲良くしてね」


     精一杯の笑顔でそう言うと、
     桃井さんの表情がみるみるうちに明るくなっていく。

     どうしたんだろう、と思った直後、
     彼女に両手をがしっとつかまれた。





     「も、桃井さ「かわいい!!」


     あたしの言葉を遮って彼女が叫んだ。

     わけが解らなくて何も言えずにいると、
     テンションが上がった勢いで彼女は続ける。





     「すっごくかわいー!
      さんって、呼んでいいですか!?」


     これから仲良くしてくださいね!

     可愛らしい笑顔でそう言われてしまったので、
     あたしはただ頷くしかなかった。












     「あ、そうだ!
      連絡先を……って、もうこんな時間!?」


     ポケットからケータイを取り出した桃井さんは、
     そこに表示された時間を見て慌てる。





     「そろそろ戻らないと……
      テツくん、私の連絡先を、後でさんに教えてもらえる?」

     「ええ、構いませんよ」

     「ありがとう!
      それじゃそろそろ戻るから、またね!」


     ――ほら行くよ、青峰くん!

     そう言って青峰くんを引っ張りながら、
     桃井さんは嵐のように立ち去ってしまった。











     「すごかった……」


     何が、と問われても答えにくいけれど、とにかく。
     なんか、色々とすごかった気がする。





     「でも……『戻らないと』って、どこに?」

     「隣町にある合宿所だそうです」

     「合宿所?」


     なんでも黒子くんが聞いた話によれば、
     桐皇メンバーは隣町で合宿をしているのだという。

     当然の如くここで誠凛の合宿先を知っていた桃井さんは、
     自由時間を使い、青峰くんと一緒に会いに来たというわけらしい。






     「そういうことだったんだ……」


     確かにそれなら、県外で鉢合わせするのも納得というか……。











     「……それより、僕も気になっていることがあります」

     「え?」


     いったい何だろう?





     「さんは何故、青峰くんと一緒に居たんですか」

     「……!」


     別に怒っているわけではなさそうだが、どこか強い口調だった。





     「あ、あたしは、その……」


     そんな口調に少したじろぎながらも……

     別にやましいことがあるわけじゃないので、
     事の経過を、順を追って話し出す。



     ――綺麗な夕日を見たくて、少し前に旅館を出て散歩に出かけたこと。
     その先で見つけた公園でボールを取り出し、ドリブルしてみたこと。

     そんなときに、青峰くんと偶然出会ったこと。





     「それでその、ちょっと成り行きで……
      少し、青峰くんにドリブルを教わってたんだ」

     「青峰くんにドリブルを?」

     「うん」


     あたしの言葉で、黒子くんは少し考え込んだ。
     でもあまり間を空けずに、また問いかけてくる。





     「青峰くんは……ちゃんと教えてくれましたか?」

     「うん! 
      口では色々言いながらも、結局ちゃんと教えてくれたよ」


     きっと優しいひとなんだろうね。











     「…………はい、そうですね」


     微かに笑って、黒子くんは答えた。





     「桃井さんとも仲良くなれそうだし……いろいろ得しちゃったな」


     女の子の知り合いは、リコちゃん以外ほぼ居ないしね。





     「良かったですね、さん」

     「うん!」


     あたしの返事を聞くと、黒子くんはまた微かに笑った。




















心配しないでいいよ


(君が伸ばした手は きっと彼に届くから)





















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      第11Qは桃井さんでした!
      割と少年漫画の女の子キャラって、苦手なのですが、
      リコちゃんと桃井さんに関しては、好きですね^^

      まぁ、わたしの推しキャラに、お相手がいることが多くて、
      それもあって苦手なのかもしれませんが……;