「そういえば……
 夕ご飯の時間とか聞いてなかったけど、そろそろなのかな」


ふと思い出したことを、黒子くんに聞いてみる。





「確か……
 6時くらいから食べられるらしいですよ」


あたしが散歩で出かけている間、そういう知らせがあったらしい。

6時からは各自で食べに行って、夕ご飯を済ませるように……
というのが、カントクからのお言葉なんだって。





「6時か……あと30分くらいだね」

「はい」


まだ時間があるなら、一度部屋に戻ろう。
持ち出したボールも、ずっと持ち歩くわけにもいかないし。





「じゃあ、あたしはいったん部屋に戻るね」

「はい。それじゃあさん、また後で」


そうしてあたしは、いったん黒子くんと別れる。










「うーん……」


それにしても黒子くんは、
今の青峰くんに、どういう想いを抱いているんだろう……





「さっき聞こうかとも思ったけど、ちょっとなぁ……」


でも、教えてもらえるのならば知っておきたいとも思う。

この先が大丈夫だっていうのは解ってるけど、
なんか気になるってゆうか……。





「……後で、タイミングが合ったときに聞いてみよう」


さっきの今で聞くのは、やっぱりちょっとね。
少し時間を空けてみよう。

そんなことを考えながら、あたしは部屋に向かった。

















「おっ、ちゃんじゃん!」


6時を過ぎた、ということで……

旅館の一階にある、ご飯を食べる場所(広間)に、
リコちゃんとやって来た。

そこに入ったとき誰かに名前を呼ばれたので、
あたしは周りを見回してみる。





「……って、高尾くん!?」


そこには、先ほど体育館で別れた高尾くんの姿があった。





ちゃんたちも、今からメシ?」

「うん、そう。てゆうか、同じ旅館だったんだ……」


と、いうことは……
今ここに、誠凛・海常・秀徳の三校が揃っているってこと?

なんて豪華な……。











「なに、ちゃん。
 もしかして同じ旅館だったから喜んでる?」

「ち、違います!」


さっきと同じように意地悪な笑みを浮かべて言うので、
あたしは慌てて否定した。
(でも高尾くんはまた、けらけらと笑いだすのだった……)





「そ、それより、高尾くんも今からご飯でしょ?」

「おー」


向こうのほうに秀徳メンバーの姿があるので、
みんなでご飯を食べに来たのだろう。

けど……そのメンバーの近くにも高尾くんのそばにも、
目立つ緑の髪は見当たらない。






「緑間くんは一緒じゃないの?」


ちょっと気になったので聞いてみる。





「あー、真ちゃんね。
 なんかメシの前に、ちょっと自主練したいっつって出てるんだわ」

「自主練……?」


午前中もチームの練習前であんなにシュート練してたのに、
今もまた自主練をしているだなんて。





「大丈夫なのかな……」


緑間くんにとっては余計なお世話なんだろうけれど、
少し心配になった。





「何? もしかしてケータイ返してほしいとか?」


だったら呼び戻すけど、と、
高尾くんが自分のケータイを取り出してみせる。

そういうつもりじゃなかったので、あたしは慌てて首を振った。





「ううん、そういうわけじゃないんだ!
 ケータイは、緑間くんが要らなくなったときに返してもらえれば」


別にケータイ依存症なわけでもないし、
数時間くらい手元になくてもさほど問題じゃない。





「ふーん……そっか」

「う、うん」


高尾くんが変に間を空けたことが少し気になったけれど、
あえて聞かないでおいた。











さーん!」


と、そんなとき、向こうのほうからリコちゃんがあたしを呼んだ。
そこでやっと、話し込んでしまったことに気づく。





「やばい、戻らないと……」


すぐに行くという意味でリコちゃんに頷き返したあと、
あたしは再び高尾くんに向き直る。






「ごめん、高尾くん……また後で話そう?」

「オッケー、また後でな、ちゃん!」


そうしてあたしは高尾くんと別れ、リコちゃんのもとへ戻った。

















「ご飯おいしかったね〜」

「ええ、本当! さすが旅館って感じだったわね」


ご飯を食べ終わったリコちゃんとあたしは、
部屋に戻るところだった。


それにしても、本当においしかったからつい食べ過ぎちゃったな。

みんなは練習してるから問題ないんだろうけれど、
あたしはそこまで動き回っているわけじゃないし、やばいかも……。





「ねえ、リコちゃん」

「何?」

「ちょっとこの辺、散歩してきてもいい?」


え、また? と、リコちゃんが困ったような顔をして言う。





「ちょっと食べすぎちゃったから、
 少し歩いてこようかなって思ったんだけど」

「でも、さっきと違ってもう外は真っ暗よ。
 危ないんじゃないかしら」


心配そうに言う彼女に、あたしは大丈夫と答える。





「さっきは少し離れたところまで行ってきたけど、
 今はちょっと旅館の周りを歩いてくるだけだから」


だめかな、ともう一度聞いてみると、
リコちゃんはまたしぶしぶ了承してくれた。





「じゃあ、このまま行ってくるね」

「ええ。気を付けてね、さん」

「うん」


そうしてあたしは、リコちゃんと別れ旅館の玄関へ向かった。














「思ったより、外、暗いな……」


旅館のロビーまで来てみると、
ガラス越しに外の様子がよく見えた。

この辺りは東京近辺と違って建物が少なく、
まして夜まで営業しているお店なんかも少ないので
薄暗くて静まり返っている感じがする。





「でも、まあ……遠くに行かなければ大丈夫だよね」


旅館の周りを少し歩いてくるだけなら、全然問題ないな。

そう思いながら玄関の自動ドアをくぐろうとすると、
後ろから急に腕をつかまれる。

驚いて振り返ってみると、
先ほどご飯のときにも会った高尾くんの姿があった。





「高尾くん、どうかした?」


何か用でもあったんだろうか、と思って聞いてみると、
彼にしては珍しく難しい顔をして言う。





ちゃん、今から一人でどこ行く気?
 女の子が一人で出歩く時間じゃないっしょ」

「え、……」


もしかして……心配、してくれてる?

そうすると話さないわけにはいかないけれど、
正直ちょっとくだらない(そして恥ずかしい)理由だしなぁ……





「あ、あの、えーと……笑わない?」

「は?」













「ぶはっ……!
 食べ過ぎたから散歩とか、ちゃんマジかわいーわ」


あたしが外に出ようとしていた理由を知った高尾くんは、
予想通り大爆笑していた。





「笑わないって言ったのに……」


だから話したのに、やっぱり笑うんだもんな。
まったく、もう……。






「ごめんって。
 けど、オレが通りかからなかったらマジ一人で行く気だったわけ?」

「うん、そうだけど」


何を今さら、という思いで答えると、
隣を歩く高尾くんは、今度は苦笑していた。


……そう、実は、外に出る理由を話したあと、
高尾くんはあたしの散歩についていくと言ってくれたのだ。

すぐに戻るつもりだし悪いから一度は断ったんだけど、
断固として引かないので最終的にあたしが折れたというわけ。






ちゃんのそーゆーとこ面白くて好きだけど、
 あんま危ないことしないほうがいーよ?」

「え? あ、うん……」


なんか今すごいこと言われたような……
……いや、別に深い意味はないよね。きっと。





「んじゃ、そろそろ戻りますかー」

「う、うん、そうだね」


高尾くんがケータイで時間を確認すると、割と時間が経っていたらしく
あたしたちは旅館に戻ることにした。











「ついてきてくれてありがとう、高尾くん」

「別に気にしなくていーよ。オレも暇だったし」


そうは言いつつも、やっぱり心配してついてきてくれたんだろうな。
それが解ったから、もう一度心の中だけでお礼を言っておいた。


























ありがとう、


(あなたの優しさが 伝わってきたよ)

















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  第12Qは再びの(?)高尾でした!
  わたしの勝手なイメージですが、こういうタイプは
  いざというとき?めっちゃ心配してくれそうです。

  ただ、怒るときも本気で怒ってくれそうなので、
  ちょっとそこは怖いなと思ったり。

  ちなみに、リコちゃんも高尾もすごく心配していますが、
  社会人の彼女にとっては、大して遅い時間じゃないですね。