「じゃあ黒子くん、また朝ごはんのときにね」

「はい」


部屋の前で黒子くんと別れ、扉に手をかけたとき……
ふいにケータイが鳴った。





「もしかして桃井さんかな?」


さっきのメールの、返事をくれたのかもしれない。

そう思いつつディスプレイを確認してみると、
予想外の名前が表示されていた。
(ついでに、それはメールではなく電話だった)





「なっ、なんで!?」


理解できない状況に焦りながらも、あたしは部屋には戻らず
またエレベーター横のソファにリターンした。











「まだ鳴ってる……」


移動している間も、ケータイはずっと鳴り続けていた。

一度電話が途切れてくれれば、状況をゆっくり理解できたのに。

……なんてことを考えたのは、ここだけの秘密だ。





「と、とにかく、これ以上待たせるわけにもいかないし……」


電話に出ないと……!

あたしは意を決して通話ボタンを押した。





「も、もしもし……?」

『ああ、か? 秀徳の緑間なのだよ』


やっぱりですか……!!


そう、ディスプレイには「緑間真太郎」と表示されていたのだ。


あたしは緑間くんの連絡先を登録した覚えは無いので、
表示されるはずもないんだけど……

ないんだけど、実際表示されてしまっているのだから、
登録してあるということだ。


あたし自身が登録していないというのなら、
それをやったのは緑間くんに他ならない。





「あ、あの、どうして連絡先……」


そこまでしか口にしなかったが、緑間くんは理解してくれたらしい。





『ああ、オレが登録したのだよ。
 勝手にいじってしまってすまなかった』

「あ、いや、別に咎めてるわけじゃ……」


咎めてるわけじゃないけれど、
登録した理由がよく解らない……。





『お前は、オレを信用してケータイを貸してくれただろう?』

「うん、まあ……」


あのときも言ったけれど、きっと緑間くんならば、
変なことには使わないと思ったから。

だから心配することはないと、ケータイを貸したんだ。





『そんなお前に礼がしたいのだが、結局何も思いつかなかった。
 だから、オレの連絡先を登録しておいた』

「え?」


えーと……結局どういうことかな?

そんなあたしの疑問に答えるように、緑間くんは言葉を続ける。





『何か困ったことがあったら、遠慮せずに連絡してくれ。
 オレが力になれることは限られているかもしれないが、
 出来うる範囲で協力するのだよ』


緑間くんがそう言ったあと、
あたしはすぐに言葉を返すことが出来なかった。

彼の言葉が本当に嬉しくて……
油断したら、泣いてしまいそうだったから。











『……? どうした?』


あたしを呼ぶ緑間くんの声が、思いのほか優しかった。
それでまた泣きそうになってしまったんだけど、なんとかこらえる。





「ううん、なんでもない……
 それより、連絡先教えてくれてありがとう!」


何かあったら、連絡するね。





『ああ……待っているのだよ』


そう言って、緑間くんは電話を切った。











「うわー……」


なんか……すごい。

誠凛メンバーの連絡先を教えてもらったとき、
既にテンション上がってたけど……

桃井さん、緑間くんの連絡先までゲットできるとは。





「あ、そうだ、あと黄瀬くん・笠松くんのも登録しておかないと……」


この世界の知り合いがどんどん増えていくことが嬉しくて、
あたしは理由もなくアドレス帳を最初から確認してみる。






「こうして見ていくと、この世界の人と元の世界の友人たちの名前が
 同じように羅列してあるってゆうね……」


すごい微妙な心境……。

そんなことを思いつつ「タ行」に差し掛かったとき……










「……ん!?」


登録されているはずのない人物の名前を再び見つけて、
思わず叫んでしまった。

見間違いだったのかと思い、一度アドレス帳を閉じてみる。
(ついでに、自分の目もこすってみる)


そうして、再びアドレス帳を開き「タ行」を確認すると……





「見間違いじゃ、ない……」


そこには「高尾和成」という名前が堂々と表示されていた。





「高尾和成って、あの高尾くん……だよね?」


とゆうか、他に「高尾和成」なんて人、知らないしね。

そんな冷静なツッコミを自分で自分に入れる。





「どうしよう……」


掛けてみて、確認しといたほうがいいのかな。

今さっき緑間くんが電話くれたってことは、
高尾くんも電話に出られないわけじゃないと思うんだけど……。

いろいろ迷ったものの、
結局あたしはその番号に掛けてみることにした。











『おっ、もしもし、ちゃん?』


まだ一言も発していないのに、
電話が繋がったとたん名前を呼ばれた。

ということは、高尾くんのケータイにも
既にあたしのが登録されてるってことだ……。





「う、うん……おはよう、高尾くん」

『おはよーさん!』


んで、こんな朝っぱらからどーした?





「うん、それがその……」


いつもの声に口調……間違いなく「あの」高尾和成くんだ。
またもや微妙な心境になりつつ、あたしは事情を説明し出す。





「ついさっき、黒子くんを通して
 緑間くんからケータイを返してもらったんだ」

『ふーん?』

「それで、すぐ緑間くんから電話が掛かってきて、
 連絡先が登録してあることとか教えてもらったんだけど」


緑間くんが自分の連絡先を登録した理由は解ったけれど……
高尾くんのまで登録されている理由は、いくら考えても解らない。





「なんで、高尾くんの連絡先まで登録されてるのかな……?」


その疑問を、そのまま本人にぶつけてみる。
すると、特に気にするふうもなく答えが返ってきた。





『んー、別に深い意味はねーけど?
 ただ真ちゃんが登録してたんで、便乗して登録してみただけ♪』


って、ちょっと!
この人そんな理由で勝手に登録したの!?

あたしは唖然としてしまった。





『後はまあ、登録しとけば何かと便利じゃん』


便利って何が……!?





ちゃんってすげーおもしれーし、もっと色々しゃべってみたいしさ。
 今度メシでも行かねー?』

「えっ、ごはん……?」


これは、えーと……真面目に言ってるの?
それとも冗談?






『……あっ、もしかしてなんか警戒してる?』

「いや、そーゆーわけじゃ……」

『解ったよ、じゃー真ちゃんも付けるから。
 三人で行こうぜ!』

「えっ?」


てか、それ絶対緑間くんの許可取ってないよね……!?

さっきから心の中でツッコミ入れてばっかりだ、なんて思うんだけど、
結局口に出しては言えないまま……












『……まぁ、嫌だったらもちろん断っていーよ。
 でも誘うくらい、いいっしょ?』

「え、あ……」


少し間を空けて聞こえた高尾くんの声が思いのほか真剣だったので、
あたしは驚いてすぐに返すことが出来なかった。





「あ、いや、その……
 あたしもごはん行きたいので、いつでも誘って!……ください!」


慌ててなんとか返したものの、必要以上に声が大きくなってしまった。
そのことに、電話の向こうで高尾くんが笑いをこらえているのが解る。





「ちょっと、そんなに笑わなくても……」

『いや、正確にはまだ笑ってねーから』

「同じことだよ!」


そう言うと、「もう限界」と言って高尾くんは本格的に笑いだしてしまった。





『ったく、ほんとちゃんってかわいーしおもしれぇよなぁ〜』

「……それって褒めてるの?」

『おー、褒めてる褒めてる』


全くもってそんな気がしないんですけど……。





『とにかくさ、都合ついたら今度メシ行こうな!』

「う、うん!」


ほんとにほんとに誘ってくれるんだ……!

そんな状況にこっそり感動しつつ、
あたしは高尾くんとの電話を切った。













「もし実現したら、緑間くんと高尾くんとご飯食べに行くのか……」


なんて贅沢な……!





「……あっ、そういえば」


緑間くんといえば、聞きたいことがあったんだった。
でも、さっきの今で連絡するのってどうなんだろう……。





「とりあえず、メールなら大丈夫かな……」


すぐに返せる状況じゃなくても届いてさえいればいいしね。

そう思いながら、あたしは緑間くんへのメールを打ち始めた。





「これでよし、と」


ちょっとお節介だったかもしれないけど、まあ……
気になってはいたことだから、いいか。





「てか、いつまでも部屋に戻らないのもまずいな」


そろそろ戻らないと、リコちゃんが心配しそう。

そうしてあたしは、今度こそ部屋に戻った。





















「ただいま、リコちゃん」

「おかえりなさい」


ずいぶん黒子くんと話し込んでたのね、と言われたので、
とりあえず詳しい説明はせずに笑ってごまかしておいた。





「それより、あと10分くらいで朝ごはんが食べられるんだけど」


すぐに行く? と聞かれたので、
妙にお腹のすいていたあたしは「うん」と答える。





「そう。じゃあ悪いんだけど、
 さん先に行っててくれないかしら?」

「リコちゃんはまだ行かないの?」

「私は、今日の練習メニューをきっちり固めてから行くわ」


そう時間はかからないから、後からすぐに来てくれるという。
それならいいかな、と思い、「解った」とだけ伝えた。





「じゃあリコちゃん、先に行ってるね」

「ええ、気を付けてね」


そんなこんなで話しているうちに時間になったので、
あたしは1階にある広間に向かうため、部屋を出ようとする。

だけど、その直前でまたケータイが鳴った。





「メール……?」


あっ……
緑間くんからだ!








  201X/09/XX 06:58
  From 緑間真太郎
  Sub   無題

  ――――――――――――――

   心配は要らない、あの程度
   の練習なら慣れているのだ
   よ。体に負担がかかっては
   元も子もないのは解ってい
   るから、引き際も心得てい
   るつもりだ。
          
   ……だがオレのことを気に
   してくれたのだろう。あり
   がとう。そういった気遣い
   が出来るのは、お前のいい
   ところだな。

   何か困ったことがあれば、
   また連絡してくるのだよ。
   ではな。

  ―――――――END――――――


















「……さん? どうかした?」


扉の前で立ち止まるあたしを不思議に思ったのか、
リコちゃんが声を掛けてくる。





「ううん……なんでもない。
 それじゃ、先に行ってきます!」


ケータイをそっとポケットにしまい、
あたしは今度こそ部屋を出た。




















「真ちゃーん、たーだいまっ」

「……どこをほっつき歩いていたのだよ、高尾」

「べっつにー?
 ただちょっとモーニング・ラブコールがあったんで答えてただけ」


モーニング・ラブコール?
意味が解らないのだよ……。

だがいちいち相手をしていても話が進まないので、
それ以上は何も触れないでおこうと思った。





「……お?
 真ちゃん嬉しそうじゃん。なんかあった?」

「べ、別に……なんでもないのだよ」


オレは先ほどまで見ていたケータイのメール画面を閉じ、
探るような目で見てくる高尾を適当にあしらった。













   201X/09/XX 07:06
   From 
   Sub   ありがとう

   ―――――――――――――――

    余計なお世話かなって思っ
    たんだけど、そういうふう
    に言ってもらえて嬉しいで
    す。こちらこそありがとう。

    うん、何かあったら連絡し
    ます(*^_^*)
    それじゃあ、またね。

   ――――――END――――――























次の連絡を待ち遠しく思うなんて


(オレもどうかしているのだよ)





















+++++++++++++++++++++++++++++++

  第16Qは、また緑間と高尾でした! 
  ほんと、この2人が出てくると毎回長くなってしまいます。
  たぶん、書きやすいんですかね……。

  そういうわけで、またアドレスゲットなストーリーでした。
  たぶん、主要キャラは何とかしてゲットさせると思います。
  ちょいちょいこのネタ、出てくると思います^^;

  余談ですが、彼女が最初に緑間くんに送ったメールです↓














 
 201X/09/XX 06:50
  From 
  Sub   さっきの今で…

  ―――――――――――――――

   ごめんね、さっき電話して
   るときに聞けば良かったん
   だけど……

   昨日夕ご飯のときに高尾く
   んと偶然会って聞いたんだ
   けど、夜も自主練してたの?

   余計なお世話だって思われ
   るのは解ってるんだけど、
   その……あんまりやりすぎ
   るのも、よくないかと思い
   ます。ほどほどに、って言
   うと聞こえが悪いか……
   ええと、なんてゆうか……

   と、とにかく、すごく練習
   しているみたいなので、緑
   間くんのことが心配です。
   あんまり無理しないでね。

  ――――――END――――――