「……あ、さん。おはようございます」

「おはよう、伊月くん!」


広間に入ると、伊月くんが自分のおぼんを持って
席に戻ろうとしているところらしかった。





さん、一人ですか? カントクは?」

「リコちゃんは、練習メニューをきっちり練り上げてから来るみたい」

「そ、そうですか」


あたしの言葉を聞いた伊月くんは、ちょっと苦笑した。
(どんな厳しいメニューが来るんだろう、とか思ってるみたいだ)





「それより、伊月くんもひとりなの?」

「いや、オレは日向と一緒に来ました」

「あ、そっか……ふたり、同室だったよね」

「はい」


確かに、伊月くんが視線で示してくれた先に
日向くんが座っているのが見える。





「あの、もし良かったらご一緒していいかな……?」


リコちゃんが来るまでひとりで食べてるってのも、ちょっと……。
そう思ったあたしは、おそるおそる伊月くんに聞いてみる。





「今さら何言ってるんですか。
 もちろんいいですよ……飯(いい)だけに!」

「あ、ありがとう、あはは……」


うーん、今のはちょっと解りづらかったなぁ……。










「……あれ、さん?」

「おはよう、日向くん!」

「おはよっす」


不思議そうにしつつも、日向くんは挨拶を返してくれた。





「リコちゃんが後から来るんだけど、
 それまでひとりなのでご一緒させてもらうね」

「どーぞ」


今度は「なるほど」というふうな顔をして答えてくれる。





「じゃあ、あたしも食べるもの取ってくるよ」


広間に並べられている料理の中から、
好きなものを好きなだけ食べられる……

ここは朝昼晩すべて、ビュッフェスタイルの場所なのだ。
だから、自分が食べるものは自分で好きに取ってこれたりする。





さんは、何飲むんすか?」

「え? えーと……お茶かなぁ」


ふいに日向くんに問われ、なんとなく答えると。
「じゃあ取ってきます」とだけ残してさっさと行ってしまう。





「え、あ、ちょっ……」


なんかかなり申し訳ないんですけど……!
(ちなみに、日向くん含め2人はすぐに食べられるという状況である)










「気にすることないですよ、さん。
 日向もたぶん『先に食べてるってのもちょっと』
 とか思って気遣ってるだけですから」


「あいつなりの精一杯の気遣いなので、受け取ってやってください」
と伊月くんが言うので……

とりあえずお茶については、日向くんにお任せすることにした。





「それよりさん」

「ん?」

「朝はご飯派ですか? パン派ですか?」

「うーん、どっちも好きだけどやっぱご飯かな……
 というわけで今日もご飯にする」


今度は伊月くんに問われ、なんとなく答えてみる。

すると、「じゃあそっちはオレに任せてください」と残し、
日向くん同様さっさと行ってしまった。





「え、ちょ、伊月くんまで……!」


今のは誘導尋問ではないですか……!?

そう叫びたいのをひとまず我慢し……

このままではいつまでたってもご飯が食べられないので、
あたしもさっさとおかずなど諸々を取りに急いだ。
















「いただきまーす!」


手を合わせそう言ってからお箸を持ち、
いざ自分がお皿に盛ってきたものを見る。





「てか、ちょっと盛りすぎたかな……」










「朝からそんなに食べんのか? ……ですか?」


あたしがつぶやいたのとほぼ同時に、
そんな声(そして変な敬語)が背後から聞こえたきた。

驚いて振り返ってみると、声の主・火神くんと、同室の黒子くんの姿がある。





「おはよう、ふたりとも!」

「うす」

「おはようございます」


しっかり挨拶をしてから、本題に戻る。





「ほんと、そうなんだよね……
 あたしも、自分で盛りすぎたと思ってたところ……」


でも、自分で取ってきたのに、残すわけにはいかないし……。

どうしよう、と思っていると、黒子くんが「大丈夫ですよ」と言う。





「どういうこと?」

「心配しなくても、さんが食べきれなかった分は
 火神くんが食べてくれますから」

「なっ」


確かに、火神くんって大食いだったんだっけ……

黒子くんの言葉を聞いて、そういえばと思った。
だが、当の火神くんは「なんでオレ?」というふうな顔をしている。





「ね? 火神くん」


そんな困惑する火神くんに気づいているのかいないのか、
(たぶん前者だ)黒子くんは確認するように言う。





「……わーったよ、残った分は食ってやる! ……です」


微妙な表情をしたままだったけど、火神くんはそう言ってくれた。





「ありがとう、火神くん」

「いや、別にオレは……」


とりあえずなんか食いもん取ってきます、と言い残して、
火神くんはそそくさと立ち去ってしまった。

そんな彼の後を追って、黒子くんもいったん離れる。





「とりあえず、黒子と火神は置いといて先に食べるか」

「そうだな」


日向くんと伊月くんがそう言ったので、
あたしも「いただきます」と仕切り直してから食べ始めた。












「おっはよーさーーん!!」


少しして、元気よく挨拶しながらやって来たのは小金井くんだった。





「おはよう、小金井くん! 土田くんに、水戸部くんも」

「おはようございます、さん」

「…………」


一緒に居たふたりにも声を掛けると、土田くんは挨拶を返し
水戸部くんもぺこっと軽く会釈してくれた。

三人は既に自分の食べる分を取ってきていたらしく、
それぞれ持っていたお盆を置き席についていく。





「あれ? さん、カントクは?」

「うん、なんか今日の練習メニューを
 きっちり固めてから来るって言ってた」


すぐに行くって言ってたけど、
思ったより時間がかかってるような……。





「カントクのことだから、たぶん『これじゃ優し過ぎるわね』とか言って
 もっとキツいメニューに変えてんじゃね?」

「そうかなぁ……」

「そうだって!
 さんはカントクのことまだ解ってねーんだよ〜」


いや、たぶん……
ある程度は解っている、気がする。










「どーでもいーけど、コガ。
 その話、カントクが来る前にやめといたほうがいーぞ」


お味噌汁を手にした日向くんが言った。

その言葉で小金井くんも何かを察したのか、
急に黙り込んでしまう。

あたしもなんとなく理解したので、
それ以上は何も触れないことにした。





「それより、みんな知ってるか?
 この旅館に、海常と秀徳とウチの三校が泊まってるんだと」


思い出したように伊月くんが言う。





「はい、知ってます。
 黄瀬くんには昨日、聞いてもいないのに教えてもらいましたし
 緑間くんとも昨日・今朝と会いましたから」

ゲッ、朝っぱらから緑間の顔なんか見たのか?」


黒子くんの言葉に、火神くんはげんなりしながら言った。
(でも、ご飯を食べる手は止めないのがさすがである)





「あたしも昨日の夕ご飯のときに、高尾くんとばったり会って。
 海常のことは知ってたけど、秀徳まで?って思った」


すごい偶然があるんだね。












「その偶然のせいで、体育館が思うように使えないんだけれど」


またもや背後から声が聞こえたので振り返ってみると、
「後から行く」と言っていたリコちゃんの姿があった。





「リコちゃん!
 思ったより遅かったね。大丈夫?」


ご飯食べる前に練習メニュー練ってたんだし、
頭も使ったからお腹すいてるかも。

そう思ったからの言葉だったんだけど、あながち外れでもないらしい。





「もうお腹ぺこぺこよ」


そう言いながら、持っていたお盆をテーブルに置き、席につく。





「もしかして、体育館が思ったように使えないから
 メニュー考え直してた、とか……?」


問いかけると、「その通りよ」と答えが返ってくる。





「今日に関しては、一日ずっと海常が借りてるみたいだし」


あ、そっか……
確かに、「体育館は明日から使う」って昨日黄瀬くんが言ってたような。





「明日は午前中が秀徳で、午後がウチよ」

「おいおい、なんだよその争奪戦みたいなのは〜」

「つーか、体育館貸すときに管理者も言えばいーのにな」

「私も昨日そう言ったら、『忘れてた』って返されたわよ…」

「ずいぶんいい加減な管理者ですね」

「つーかホントにそいつ管理してんのか?」


なんか、聞けば聞くほど管理がずさんってゆうか……
そんなんでいいのかな。





「でも本当、体育館が思ったように使えないのは痛いわね」


リコちゃんがしみじみと言う。













「……あ、だったらみんなで一緒に使えばいいんじゃない?」


順番に使おうとするから思い通りにいかないし、
練習メニューも限られてきちゃうんじゃないかな。

あたしは深く考えずにそう言ったが、
何故かみんなのお箸を持つ手が止まってしまった。






「えっと……やっぱりダメかな?」


そんなみんなの反応に、
「馬鹿なことを言ってしまったかも」と思いつつ問うと……

リコちゃんがとたんに目を輝かせる。





さん、それいい!!」

「えっ? ほんと?」

「そうよ、その手があったわ! いいこと思いついちゃった♪」


そう言ったカントクは上機嫌な様子でご飯を食べる。












「……さん、オレ、知らねーぞ」

「えっ!? やっぱりまずかった……?」

「カントクのあの機嫌のよさは尋常じゃないって」

「何か企んでるな」


日向くん、小金井くん、伊月くんがそんなことを言うので、
ちょっと心配になった。





「まあ、しっかり練習できればいいんじゃないでしょうか」


煮詰まっていたらしいカントクもすっきりした顔をしていますし、
問題ないでしょう、と黒子くんが言う。





さんが、カントクにとって
 いいアイディアを出してくれたんだと思います」

「そ、そう、かな」

「はい。だから、心配しないでください」


黒子くんが微かに笑ってそう言ってくれたので、
あたしは「ありがとう」と伝えて再びご飯に集中することにした。












数十分後、食べ終えたみんなはそれぞれ食器を片づけ、
部屋に戻っていった。





「さてと、朝ごはんもしっかり食べたし……」


今日も一日がんばろう!!
















眩しい太陽が昇る



(今日という日が、また始まる。)





















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  第17Qは誠凛メンバーでわいわい(?)しました!
  誠凛のいいところっていうのは、こうしてみんなして
  わいわい出来るところな気もします。

  というか、合宿のお話として始まったこの長編ですが、
  14話使ってまだ合宿の1日目しか進んでいません。
  書いているわたしが、一番驚いています(え


  あと、ちょっと朝ごはんのくだりで書ききれなかったことを
  おまけ的な感じで書いておきます↓















「……あら? そういえば降旗くんたちは?」

「そろそろ来るんじゃねぇ? ですか?」

「そうですね……
 僕たちがここに来る前、一緒に行こうと部屋を訪ねたのですが」


まだ寝起きだったんで先に行くことにしたんです、と黒子くんが言う。





「けど、黒子たちが来てから相当たってっぞ?」

「確かに、着替えたりするにしても、もう来てもいいような……」


……。


…………。


………………。





「黒子くん、火神くん、今すぐ起こしてきて!」


絶対二度寝してるわ、あいつら!




……それから、数分後。

リコちゃんの予想通り二度寝していた降旗くんたちが、
慌てて広間に入ってきました。