「……あ、」
あーちゃんと別れた数分後に、電話が掛かってきた。
通話ボタンを押して出ると、あの優しくて安心できる声が聴こえる。
『か? オレだけど』
「お疲れさまです!
電車、駅に着いたんですね?」
メールならまだしも、まさか先輩が車内で電話するはずないし……
そう思ったあたしは、ある程度確信を持って問いかけた。
『ああ、今、着いたよ。
はどこで待ってるんだ?』
「あたしは、北改札に居ます」
話を聞くと、どうやら木吉先輩は南改札から出てくるとのことだ。
「じゃあ、あたしも南改札前に向かいますね!」
『大丈夫か?』
「はい、反対側に歩いていくだけですから」
北と南と言っても改札口なので、単に両側に分かれているだけだ。
だから、移動するのもほとんど苦にはならない。
「……あっ!」
そう思いながら南改札に向かって歩き出したとき、
ケータイについていたバスケットボールのストラップが落ちてしまった。
ボールの形をしていて丸かったこともあり、
そのストラップはころころと転がっていってしまう。
「待って……!」
このままじゃ、誰かに踏まれてしまうかもしれない。
焦って追いかけると、あたしではない誰かの手が、
それをひょいと拾い上げた。
「どうぞ」
「あ、すみません……!」
その「誰か」が、拾ったストラップを差し出してくれた。
ストラップしか見ていなかったあたしは、そこでふと顔を上げてみる。
「……!」
目を見てもう一度お礼を言おう、と思っていたのに、
その顔を見た瞬間、あたしは言葉を失った。
「どうかしましたか?」
「あ、い、いえ……!」
本当に、ありがとうございました。
慌ててそう言うと、「どういたしまして」とだけ残して、
その人は去っていった。
「どうして、赤司くんが……」
あたしのストラップを拾ってくれたのは、キセキの世代・キャプテン……
現在は洛山高校に通う、赤司征十郎・その人だった。
「……いや、あーちゃんがここに居たのも驚いたけれど」
でも、赤司くんがここに居るのは、なんてゆうか……
予想外すぎて理解できないことだった。
「偶然…だよね?」
別に、深い意味はない……よね?
『……? どうした?』
赤司くんが消えていった方向を見ながら考え込んでいたとき……
実は繋がったままだった電話口から、
心配そうに問いかけてくる木吉先輩の声が聞こえてきた。
「あ、いえ……なんでもないです!」
すぐに向かいます、とだけ言って、ひとまず電話を切った。
「フッ……」
あれが、涼太からのメールにあった「誠凛のマネージャー」か。
「なるほど」
僕の顔を見たときの、驚いた顔……
まるで、「何故ここに居る」と言いたげだった。
かと言って、僕と彼女は面識があるわけじゃない。
確かに、面白そうな人だ。
あの涼太が興味を持つだけのことはある、かな。
「……楽しみだな」
偶然にも用があり、この近くまで来ていたわけだが……
思わぬ収穫があったな。
小走りで去っていく彼女の後ろ姿を見つめながら、
僕はそんなことを考えた。
「木吉先輩!」
南改札前に行くと、きょろきょろと周りを見回している先輩の姿を
すぐに見つけることが出来た。
……決して利用客が少ない駅ではないのだが、あの身長だ。
向こうからこちらを捜すのに苦労するかもしれないが、
こちらからは簡単に見つけることが出来るのだった。
「ああ、……悪いな、迎えに来てもらって」
「いえ、気にしないでください」
そう答えたら、「助かる」と言って先輩が頭をなでてくれる。
さっき妙に緊張してしまったからか、
その手のあたたかさですごくほっとした。
「とりあえず、車に移動しましょうか」
「そうだな」
そうして、ひとまず駅を出た。
「うーん……それにしても、少し遅くなっちまったなぁ」
「そうですよね……確かリコちゃんからは最初、
『お昼前に着くみたい』って聞きましたよ」
でも、時刻は既に12時を回っている。
聞かされていた予定の時間とそんなには変わらないから、
たぶん1本遅い電車だった、ってことだろうけど……。
「途中で何かあったんですか?」
リコちゃんに到着する予定の時間を伝えたのは、
他ならぬ木吉先輩のはずだ。
でも、先輩が何の理由もなく自分の言葉を違えるわけないし……
そんなことを思いつつ、問いかけてみる。
「ああ、実は家から駅に向かう途中で、
大荷物抱えて歩いてるばーちゃんを見つけてな」
それでその荷物を代わりに持ってあげて、
結局家まで送ってあげたのだと言う。
「そのばーちゃんの家は、ちょうど駅に向かう途中にあったんだよ」
だから別に大きく寄り道したわけじゃないんだけど、
そういった理由で電車が一本遅くなってしまったという。
……てゆうか、そんな漫画みたいなこと、ほんとにあるんだ!
いや、これ漫画なんだけどさ……!!
変にテンションの上がっているあたしの横で、先輩が続ける。
「まあ、ばーちゃんも喜んでたから良かったんだけどな」
そう言って嬉しそうに笑う先輩を見て、思った。
「なんか……先輩らしいですね」
「そうか?」
「はい」
そうやって誰かのために躊躇いもなく行動できるところ、
すごいと思うんだ。
言えば「そんなことない」って、
返されるかもしれないんだけれど。
「……あ、そうだ。
先輩、お腹すいてますか?」
つい先ほどまで電車に乗っていたわけだし、
確実にお昼ご飯はまだだろうな。
「ああ、実はすげー腹減ってるんだ」
「やっぱり」
ちょっと苦笑いを浮かべた先輩に、
途中でお昼を食べてくるよう言われてきたことを説明した。
「この通り沿いだと、けっこうお店が色々あるんですが……
何か食べいたものありますか?」
「んー……特に思いつかないなぁ」
ファミレスでいいんじゃないか、と言われたので、
「了解です」と答えて一番近くのファミレスに車を走らせた。
「さーて、何を食うかな」
ファミレスに到着後。
席についたあと、そんなことをつぶやきながら
先輩はメニューを広げる。
「うーん……」
でも、ほんとに……どれにしようかな。
ファミレスっていろいろあるけど、逆にそれで迷うんだよね……
……あ、ここけっこうデザートが充実してる!
おいしそう……
「、デザートもいいけど、メシが全部食えた後だからな」
「えっ!?」
バレた……!
そう思いながら慌ててメニューのページをめくる。
「ははは」
そんなあたしを見て、木吉先輩は隠すことなく笑う。
でも、なんてゆうか……馬鹿にされている感じはしなくて、
恥ずかしく思いつつも、あたしも一緒になって笑った。
「んで、は何にするか決まったか?」
「はい!」
「じゃあ注文するか」
そう言いながら、先輩がボタンを押して店員を呼んだ。
あれから注文をし、頼んだものが運ばれてきて……
あたしたちは、他愛もない話をしながらそれを食べ終えた。
今は、後から追加注文したデザートを待っているところ。
「うまかったなー」
「ほんとですね」
初めて入ったファミレスだったけど……
ドリンクバーとかサラダバーとか、いろいろ充実しててすごく良かったな。
チェーン店で確か近所にもあったはずだから、
後で行ってみるのもいいかも……。
「けど良かったな、。デザート食べられて」
「はい!」
ご飯を食べ終えた直後、まだ(お腹のほうは)大丈夫そうだと思ったため
あたしはデザートを追加注文したのだった。
……まあ、デザート食べること見越して、
軽めのご飯を頼んだから、ってのもあるんだろうけれど。
「…………」
「……?」
そんなことを考えつつ、ふと先輩のほうに目線を向けると……
とても優しく微笑んでこちらをじっと見ていた。
「先輩……?」
声を掛けてみるが、未だ黙ったままで。
「あの、……」
「お前はかわいいな」
「えっ!?」
どうしたんですか、と問いかける前に、
思いもよらぬ言葉が返ってきた。
「ななな、なんですか突然!」
「ずっと考えてたことだし、突然じゃないぞ?」
「ええっ!?」
いや、そっちのほうが驚きですけど……!
顔が赤くなるのを自覚しつつ、
そんなツッコミを(心の中で)入れた。
「お前は、考えてることがだいたい表に出てくるだろ?」
「そ、そうでしょうか…」
それって、あんま良くないような……。
「表情がころころ変わって、一緒に居て楽しいよ」
そう言って笑い、テーブル越しにまた頭をなでてくれる。
なんだかちょっと恥ずかしかったけれど、
やっぱりその手のあたたかさでほっとしてしまうのだった。
「お待たせいたしました」
「あ、ありがとうございます」
まもなくしてデザートが運ばれてきた。
「お、うまそうだなー」
「ほんとですね」
あたしが頼んだのは、抹茶パフェだ。
季節限定ものとか色々あったんだけど……
悩んだ結果結局これにしたのである。
(ちなみに、デザートを頼んだのはあたしだけ。)
「いただきます!」
スプーンで一口すくって食べてみる。
すると、抹茶アイスとあずきの
甘いけど食べやすい味が口の中に広がった。
「おいしい……!」
さすが抹茶! と思いながら、二口目。
「良かったな、」
「はい!」
先輩の言葉に、あたしは大きく頷いた。
「……あ、そうだ。
先輩も、ちょっと食べてみますか?」
「いいのか?」
「もちろんです」
確か使ってないスプーンがあったな、なんて思っていたとき……
「えっ…?」
ふいに手を引っ張られた。
そしてあたしのその手にあったスプーンを使って、
木吉先輩はパフェを一口ぱくっと食べたのである……
「……!?!?」
って、冷静に解説してる場合じゃない……!
「お、見た目通りうまいなーこれ」
相変わらずにこにこしながら先輩は言う。
「あ、……」
てか、これって、間接キ……
……!!!
「どうしたんだ、」
「ななな、なんでもありませんっ!」
不思議そうにしている先輩の前で、
あたしは再び赤面するのだった。
タチが悪い人なんです
(天然だから、余計に)
+++++++++++++++++++++++++++++++
第20Qは、やっとの木吉先輩でした!
わたしの持論なんですが、木吉先輩は一家に一台(?)
居たほうがいいと思います。和むので。
そして、木吉先輩に対してだけ、呼び方が「木吉先輩」。
深い意味はないのですが、こう呼びたかっただけです。
あと、急に赤司くんが出てきましたね。何も考えていません(え
黄瀬くんも、いつの間にメールしてたんだろう……。