「みんなお疲れ様! 今日の練習はここまでよ」

個人練習をしていたみんなを集合させ、カントクがそう言った。

ヘトヘトになったみんなはそれぞれ、「腹減った」やら
「風呂入ってゆっくりしたい」やら色々つぶやいている。





「……あ、そうだわ! 旅館に戻る前に一つ連絡なんだけど」

何か思い出したかのような物言いを受けて、みんなが注目する。
するとカントクは……





「明日は午前中から、秀徳と海常とウチで総当たり戦をやるから♪」

……と、とんでもないことを、ものすごく楽しそうに言った。






「「「「「「「「「ええーーーーー!!!???」」」」」」」」」

案の定、みんなも驚きの声を上げている。





「朝の、さんの言葉で思いついたのよ」

「え? あたしの……?」

「そう。場所が無いなら、一緒に練習しちゃえってね」


確かに言ったけども……。





「それで、試合形式で合同練習をしてもらえないかと思って。
 午前の練習前に、両校の監督に提案しに行ってきたのよ」


そしたら思いのほか簡単にOKもらえちゃってね♪

カントクはこの上なく楽しそうな声音でそう言った。





「けど、そっか……」



さん、悪いんだけど私、準備したいことがあるから先に行ってるわね』


あれって、そういうことだったのか……。
スキップで出て行った彼女の姿を思い出し、「なるほど」と納得してしまう。





「まあ、そういうことだから。
 みんな、明日は覚悟しておいてね♪

そんなカントクの言葉に、みんなは無言で頷いていた。
(大丈夫かなぁ……)





「さ! 連絡は以上よ。さっさと旅館に戻りましょ」

そう言ったカントクに続き、
みんなも自分の荷物を持ってぞろぞろと歩き出す。





「よいしょ、っと……」

そしてなんとなくだけど、あたしは列の最後尾を歩く形になった。
隣には、いつも最後尾に居るイメージがある(気がする)黒子くんが居る。










「……あ」

そんなとき、ふと黒子くんがつぶやいた。

何かと思って目を向けると、彼は自分のケータイを取り出した後
通話ボタンを押して耳にあてた。

どうやら、電話が掛かってきたらしい。





「……はい、お久しぶりですね。ええ。
 え…? あ、はい、居ますが……」


電話の相手に対し不思議そうに返す黒子くんが、
何故かそのケータイをあたしに差し出してくる。





「……え?」


その行動の意味が解らず、ケータイを見つめたままでいると……






「……紫原くんが、さんに代わってほしいと言っています」

「え!?」


未だ不思議そうな顔で、黒子くんがそう言った。

っていうか、電話の相手って、あーちゃんだったのか…!

なんで急に、と思ったけど、あんまり待たせのも悪いので
あたしは戸惑いつつも黒子くんからケータイを受け取る。










「…………もしもし、あーちゃん?」

『あ、ちん〜。
 良かったー、出てくれて』


黒子くんが嘘ついてたとは思ってないけど、
ほんとにあーちゃんだ……。





「えーと……わざわざどうしたの?」


黒子くんを介してまで連絡を取ろうとするなんて、
何かよっぽどのことがあったのか……

一瞬悪いほうに考えてしまったけれど。





『うん、あのねー。
 ちんにもらったお菓子、全部おいしかったから』

「……え?」

『それを教えてあげようと思ってさ〜』


そ、それだけ……?

妙に身構えたあたしは、脱力してしまった。










ちん、全然食べてないのもあったじゃん』

「うん、まあ、確かに……」

『だから、また買いたくなったら味知ってた方がいいでしょー?』


まあ、それは一理あるかな……。





「でも、それを教えるためにわざわざ電話くれたんだ。
 ありがとう、あーちゃん!」

『別にー、電話くらい簡単だし』

それでも、あんまそういうことをしなさそうな彼が
わざわざ連絡をくれた、ということが、なんだか妙に嬉しかった。










『てかさぁ、いちいち黒ちんに電話するのめんどくさいから、
 ちんの番号教えて〜』

「え?」

『オススメのお菓子あったら、また教えてあげる』

「ほんと?」

それはだいぶ嬉しい……いや、というか、
あーちゃんとやり取りできることが感動なんだけど……!





「じゃ、じゃあ口頭でもいい?
 メモできるものある?」

『あるよー』

「それじゃ、番号教えるね」

そうしてあたしは、自分のケータイ番号をあーちゃんに伝えた。






『じゃ、これで連絡するね〜』

「う、うん!
 色々ありがとう、あーちゃん!」

『どういたしまして。
 じゃあね〜』

「うん、ばいばい」

電話を切ったあとケータイを返そうと黒子くんに向き直ると、
案の定訝しげな顔をしている。





さん……どうして紫原くんと?」

「え、えーと、あの……」

怒っているのとは違うけど、どこか有無を言わせない威圧感がある。

別にやましいことがあるわけではないので、
あたしは素直に事情を説明した。












「なるほど……それで『あーちゃん』ですか」

「う、うん」

一通りの説明を終えると、黒子くんはそう言った。

というか、今までの説明を聞いて
思うところはそこだったのかな……。





「……さんは、キセキの世代メンバーと
 どんどん仲良くなっていきますね」

「え?」

「紫原くんも……言っていなかったかもしれませんが、
 青峰くんもキセキの一人です」

でも、確かに言われてみればそうだ。

黒子くんに黄瀬くん、緑間くん、青峰くん、あーちゃん、
それから、赤司くん……

この2日間という短い時間で、
あたしはキセキメンバー全員に会ってる……。






「こんなことを言うのは、非現実的ですが……
 キセキのメンバーが、あなたに引き寄せられているみたいですね」


えっ……





「そ、それは……言い過ぎだよ」

「はい。自分で言っておいて何ですが、ボクもそう思います」

「く、黒子くん!」

「ふふ、すみません」


途中からからかわれているのだと解り、あたしは怒ってみせるが
黒子くんは楽しそうに笑うだけだった。





「電話している間に、みんなと少し離れてしまいましたね。
 急ぎましょう」

「……うん!」


そう言って歩き出す黒子くんに、あたしも続いた。




















「……あ!」


部屋に戻り、夕ご飯までの空いた時間を部屋でゆっくりしていると。
ケータイに一通のメールが届いた。





「……ショートメール?」


電話番号で送られてきてる。
これは、えっと……



     これちんのケータイで合ってる?
     オレだよ、紫原敦。
     番号とアドレス送るから、登録しといてよね。
     それじゃ〜。







「これ……あーちゃんだ!」


わざわざアドレス送ってくれたんだ!

あたしは嬉しくなって、急いで登録をする。
アドレス帳の中に、「紫原 敦」という名前が追加された。





「……そうだ!
 メール送って、あたしのアドレスも登録しといてもらおう」


あたしはアドレス教えてくれたお礼と、
良かったら登録してくださいという旨を伝えるメールを送った。





「……あ、もう返ってきた」


今度は普通のメールで送られてきた。
意外とマメなのかな、なんて思いつつ、あたしはそのメールを開く。








     201X/09/XX 17:58
     From 紫原 敦
     Sub 無題

    ―――――――――――

     オッケー、登録して
     おくよ。ちんも、
     なんかおいしいお菓
     子あったらすぐ教え
     てよね。じゃーまた。

    ――――END―――――







「……やっぱりお菓子のことは外せないんだ」


メールでも変わらない様子がなんだか可愛くて、微笑ましく思った。






















これはお菓子の研究をしないと……かな?


(でも食べ過ぎには気を付けないとね)



























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 あーちゃんの連絡先もゲットしました。
 やりましたね、ハイ。(何

 アドレスにキセキメンバーの名前が並んでたら
 それだけでテンション上がる気がします。いいなぁ……。