「さてと……早く広間に行かないとね」


リコちゃんももう食べ始めてるはずだし、
なんてことを考えつつ廊下を歩いていると。

見知った後ろ姿を見つけたので、声を掛けてみる。





「笠松くん!」

「あ、ああ……どーも」


やっぱり、まだちょっとよそよそしい……
でも、目はちゃんと合わせてくれている。

少しでも仲良くなれたみたいで、なんだか嬉しいな。










「笠松くんも、これからご飯?」


一緒に歩き出しながら、あたしは問いかける。






「ああ。あんたも?」

「うん」


メールやら電話やらしてたから自分が悪いんだけど、
あたしもなんかお腹ペコペコ……。





「……あ、そうだ。
 つい今、笠松くんにメールしておいたよ」

「メール?」

「そう。今朝やっと手元にケータイが戻ってきて、
 教えてもらった連絡先も登録できたから」


登録自体は、さつきちゃんのと一緒にしてたんだけど……
メールを送るのだけ、後回しにしちゃってたんだよね。

さっき青峰くんとの電話を切ったあと、
実は笠松くんと黄瀬くんにもメールをしていたのだった。










「ああ、悪りぃ……
 ケータイ、今は部屋に置いてきちまった」

「え、いいよ、そんな慌てなくて。
 あとで時間があるときに、一応見ておいてくれる?」


ちゃんと届いてるかだけ、確認したいから。





「解った、後で確認してみる」

「うん、お願いします」


もし間違って登録してたら、直さないとだしね。










「それにしても……
 今日の夕ご飯は、どんなメニューなのかな」


昨日はおいしくてつい食べ過ぎちゃったから、
今日はちょっと気を付けないと。

でも、目の前にいっぱいあったら
やっぱり食べちゃいそうな気も……










「食べ過ぎたらどうしよう、って顔してるな」

「……!?」


今まさに考えていたことを言い当てられ、
びっくりして笠松くんのほうを見る。





「あんた、顔に出やすいから」

「うっ……」


確かに、木吉先輩にもそんなこと言われたけど……










「……そんなに、顔に出てるかな?」

「ああ」


なんかちょっと、ショック……。





「そんなに気にすることじゃねぇだろ」

「いや気にするよ、そこは!」


まぁ、解りづらいって言われるのもアレだけど……
解りやすすぎるのも、ちょっと問題だと思うし。










「オレも解りやすい方だぞ」

「えっ、そうなの?」


そんなイメージ、あんまり無いけど……。





「特にイラついてるときなんかは、
 黄瀬辺りにすぐバレる」

「あ、あー……」


というか、それは怒りの原因が
黄瀬くんっていうことでは……

なんて思いつつ、あたしは笠松くんを見る。
すると、笠松くんも不思議そうな顔をしてあたしを見た。





「……何だ?」

「いや、ちょっと……
 今はどんな気持ちなのか当ててみようかと」


だから、表情を見てみようと思ったんだけど。










「…………」

「…………」

「…………」

「…………さ、さすがに勘弁してくれ……」

「あっ」


しばらくお互いを見ていたあたしたちだったけど……

笠松くんが、顔を赤くしながら目をそらしてしまった。
どうやら限界?だったらしい。





「ご、ごめんね!
 いきなりジッと見られたら、嫌だよね」

「い、いや、そこまでじゃ……
 ただ、ようやく普通に話せてきたところだったから」

「……!」


確かに、話しかけた直後はよそよそしかったのに
今はそんなことないかも。

あまりにも自然に話せてたから、全然気づかなかった……。










「さすがに、その……
 ずっと見られるのはハードル高いっつうか……」

「そうだよね……ごめんね」

「あ、いや! だから、その、
 別に嫌だと思ったわけじゃ」

「うん……ありがとう」


真っ赤になってしどろもどろだけど、
きっとこれは、嘘をついてない顔だと思う。

だからあたしは、素直にお礼を言った。





「……確かに笠松くんも、顔に出やすいかも」

「っ……今それ言うのは、反則だろ……」


あ、また真っ赤になっちゃった。

これ言うとほんとに怒られると思うけど、
やっぱりかわいいよね、笠松くんって。










「……なんか変なこと考えてるだろ」

「ううん、何も♪」

「嘘つけ!」


そうだ、あたしも顔に出やすいって言われてるんだった。

まずいな、とは思ったけど……
表情を変えなきゃとは思わなかった。


















「……ああっ! 
 遅いっスよ、笠松センパイ!!」


広間に着くと、席についていた黄瀬くんが
こちらに駆け寄ってきた。

周りには海常メンバーが既に揃っていて、
どうやら笠松くんが最後だったみたいだ。





「って、っちも一緒だったんスか?」

「うん、途中でたまたま会って」

「えー……ずるいっス〜」


なんて言って、しゅんとしてしまった黄瀬くん。

どうしたらいいかと迷いつつ……
とりあえず、背伸びして頭を撫でてあげる。

すると、えへへと嬉しそうに笑ったので
ひとまず大丈夫かな、なんて思った。










「あっ、そうだ、笠松センパイ。
 オレらみんな自分の分は取ってきたんで」

「ああ、解った、オレも取ってくる。
 先に食ってていいぞ」

「了解っス!」


さて……
あたしもそろそろ、リコちゃんのところに行かないと。





「黄瀬くん、あたしも行くね」

「またね、っち。
 あ、メールはバッチリ届いてたんで!」

「ほんと?」

「うん」


そっか、それなら良かった。





「今度オレからも連絡するッスよ」

「うん、待ってるね」


黄瀬くんとそんなことを言い合ってから、
あたしはその場をあとにした。














「ごめんリコちゃん、かなり遅くなっちゃった」

「もう、本当よ、さん!」


誠凛メンバーが集まって座っている場所へ行き、
リコちゃんに声を掛けると。

思った通り、お叱りを受けてしまった。





「私たち、もう食べ終わっちゃったわよ」

「えっ、そうなの?」


そんなに時間かかっちゃってたかな……。










「ずっとここに居ても仕方ないし、
 私たちは、先に戻るわね」

「えっ……」

「大丈夫ですよ、さん。
 木吉もさっき来たばっかりなんで」


まさか一人で食べることになるのかな?
なんて心配になった直後……

そばに座っていた伊月くんが、
ピンポイントな言葉をくれた。





「木吉先輩も?」

「今、自分の食べる分を取りに行って……
 ……あ、帰ってきました」


そう言った黒子くんの視線の先を見ると……

食べ物をいっぱい乗せたおぼんを持って、
木吉先輩が戻ってきていた。










「ああ、。やっと来たな」

「いや、それお前には言われたくねーよ」


木吉先輩の言葉に、日向くんがすかさずツッコミを入れる。





「まぁ、そういうわけだから。
 さん、鉄平と一緒に食べてきてね」

「うん、解った」


確かに、食べ終わったのにここに居ても
みんな手持ち無沙汰になっちゃうもんね。





「じゃあ、オレたちは戻るからな〜」

「それじゃあ」

「うん、またね」


ぞろぞろと広間を出ていくみんなを、一通り見送る。










「じゃあ、あたしも自分の分を取ってきますね」

「ああ、いっぱい取ってこいよ。
 たくさん食べないと、力が出ないからな」

「あ、え、えーと……はい」


木吉先輩にこうやって笑顔で言われると、
そうしなきゃって毎回思うんだけど……

……いやいや、ダメだよ。
食べ過ぎたらダメだって、さっき思ったばっかりじゃない。





「とにかく抑え目に、抑え目に……」


なんてつぶやきながら、
あたしは料理が並ぶ場所へ向かった。










「あっ」


あそこ、また笠松くんが居る!





「笠松くん、何にしたの?」

「あっ、あんた……」


手元にあるおぼんを覗いてみると、
けっこうたくさんの食べ物が乗っている。





「すごい量……」

「このくらい食わねぇと、やってけねぇからな」


まぁ確かに、みんなは練習でかなり動いてるもんね……









「確かに食い過ぎんのもよくねぇけど、
 食いたいもんは食っといたほうがいいぞ」

「えっ」

「ここの旅館、料理も有名らしいからな」

「へぇ、そうなんだ……知らなかった」


昨日つい食べ過ぎちゃったのも、頷けるなぁ。





「肉と魚のコーナーは、焼き立てだとよ」

「焼き立てか〜……いいね、おいしそう。
 ちなみに笠松くんのチョイスは?」

「今日は肉だ。このステーキ、うまそうだろ」

「確かに……」


一切れがけっこう大きいけど……
いや、でも、他を少なめにすれば……





「オレはもう行くが、
 悩み過ぎて食う時間なくならないようにな」

「うん、ありがとう笠松くん!」


あたしが手を振って見送ると、
笠松くんも軽く片手を挙げて応えてくれた。





「さてと……」


とりあえず抑え目に……
でも食べたいものは取って席に戻ろう!













「……あっ!
 笠松センパイ、やっと戻ってきた!」

「んだよ」
















聞きたいことがあるんスけど!!


(どーゆーことなんスか!
 いつの間に、っちとあんな仲良しに!?)

(う、うるせぇな、別に仲良しじゃねーよ!)

(照れ隠しに、蹴り入れてこないでほしいっス……!!)